私、家から”追い出される”のではなくて自らの意思で”出ていく”んですのでそこのところわきまえてくださいね?

真城詩

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2.さようなら、故郷

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 私とおじさん、佐治さん? の声が重なった。

「母さん、この人佐治様っていうの? なんか母さんと父さんに会いたいっていうから連れてきたんだけど」
「おりんっ、何て口をきいているんだい! このお方はここいら一帯の地主、佐治様だよ!」
「あ、はは……顔を知られているというのは嬉しい事ですね。村を訪れてみる甲斐もあります」
「えっ!? 地主様!? このおじ……こほん、佐治様が」

それから父さんが帰ってくるのを待って佐治様と私、母さん、父さんは三つ子たちを寝かせて話し始めた。

「あのですね」
 
 佐治様は三つ子と遊んであげていた時とは打って変わって真剣な面持ちで話を切り出す。

「お宅のお嬢さん、おりんちゃんは多大なる魔術の才能をお持ちです」

 これには流石に父さんも母さんも驚かない。もう私が魔術を使えるのは知っている二人だし。でもそれが、多大な、なんてすごい言葉で表されるとは思っていなかった私は少し得意げになる。

「確かに、りんはこの歳にして学校に通ってもいないのに魔術を使える。それが、何か問題でも……?」

  父さんは訝しげに聞く。母さんは隣でそうそう、と言わんばかりに首を縦に振った。

「これはすごいことなんです。ご両親もご存じでしょうが魔力は人間が歳をとるにつれて強くなる。それを考えるとおりんちゃんがこの歳であそこまでの風の刃を扱えるのは普通にはありえない事なんですよ。それとこれは国内外に限りませんが魔力量が多い人というのは華族、貴族に多い。平民にはそこまでの魔力量はないのが一般的です。おりんちゃんを除いては」

 佐治様は急に語気を強くして語り始めた。それに圧倒された父さんと母さんがああ、とか、うん、とか言っている。私は自分の魔力量と魔術に関するそれがそんなにもすごいものだと思わなかったから、よくわからずに聞いていた。

「——ですから、おりんちゃんをぜひ魔術師学校に通わせてあげてください」
「……残念ですが見た通り家にはりんを小学校以上の学校へ通わせるには財力が足りない。働き手もです。誠に申し訳ありませんがこのお話にはお答えすることができそうにありません」

 父さんのその言葉を聞いた時、私はやっぱり、と思った。いくら佐治様が言っても家にはそれだけの余裕はない。分かりきっていたことだけれどまた学校に、それも魔術師学校に通えるかもしれないと胸の隅っこで期待してしまっただけに辛い。

「それには心配及ばないんです。実は、僕は何の援助もなしにおりんちゃんを魔術師学校に通わせろと言っているわけではないので。どうでしょう、おりんちゃんを僕のところに奉公に出すというのは。勿論学校外では働いてもらいますが、ご両親に学費を出せとも言わないし、奉公に来てもらう分給金は保証しますよ。僕はただの貿易商ですが、これでも魔術師学校を出ています。その僕の誇りをかけて、お願いします。おりんちゃんの才能は只ではない。彼女を、学校へ通わせてやってください」

 佐治様が奉公、そう言ったときにどきんとした。さっき佐治様は三つ子と遊んでいるときにお家に沢山の宝石や本やお人形があるとおっしゃっていたから。もしそんなものがあるお家に奉公に行けたら、それに魔術師学校にも通わせてもらえたら、私はどんなに幸せだろう。父さんが言う働き手が足りないことは承知している。だけど、佐治様がお給金を出してくださるんだ。そうしたら、三つ子たちくらいは養えるかもしれない。思わず指先が震えた。

「奉公、ですか……」
「はい」

 私は口を挟んだ。

「父さん、私学びたい。奉公に行って学校へ行きたい」
「りん、お前本気か?」
「本気だよ」

 私の言葉にまた考え込む父さんと、何か言いたげな母さん。母さんは、今まで黙っていたのに関わらず、父さんに意見した。

「あんた、これはおりんの言う事を聞くべきだよ。確かに、働き手は足りないかもしれない。けどね、私らの頃は尋常小学校なんてなかっただろ? 学びたかっただろ? ならその気持ちを聞くべきだ。それにね、もうすぐ三つ子たちも私の手を離れる。そうしたら私はまた働けるし働き手の心配はいらない。なんにせよ佐治様がお給金までくださるっておっしゃるんだからね」

 だから、いっておいでと言われて、私は喜びを隠せなかった。そんな私の様子に父さんも重い腰を上げたようだ。そうして、私は村を去ることになった。
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