3 / 7
3.得と得と得
しおりを挟む
蒸気魔法機関車に乗って私は見たこともない風景を駆け抜ける。列車の窓を開ければびゅうと風が吹き抜けて、爽快だと思った瞬間に佐治様に注意された。
「おりん、他の乗客の迷惑にならないよう窓は閉めておきなさい」
「はっ、はい!」
さっき、父さんと母さんと三つ子たちとお別れして黒々とした車体の蒸気魔法機関車に乗り込んだところだというのに。学校に通えるということや、宝石、お人形に異国の名産物があるという佐治様の家に行けることに緊張したり、そわそわが止まらない。その矢先に注意されてしまって私の気分は少し悲観的な方に振れる。もし私が佐治様に見限られてしまったら。もし私がそそっかしくて落ち着きのない、奉公人として使えない人間と思われてしまったらせっかく学校へ行けるようになるのも、父さんたちが許可してくれたのも全部駄目になってしまう。そんな私の考えていることは顔に出ていたのだろうか。佐治様が窓から視線を外して私を見つめる。
「おりん、少し話を聞いてもらいたいんだがいいかな?」
「ひゃいっ! もちろんです!」
「うん、まずは落ち着こうか?」
うむ……これは初っ端からよろしくないイメージなのでは? 深呼吸をして佐治様のお言葉通り落ち着こうとする。吸って、吐いてを繰り返す私に佐治様は語りかける。
「おりん、虫のいい話だと思わないかい? 地主が村の娘を奉公に取るだけならまだしも、学校にまで通わせると言う。話だけ聞いたらいくら君の魔力量が尋常でないとはいえ、明らかにおかしい。君のお父さんがなかなか奉公にいい顔をしなかったのもそれが原因だろう。君もそのうち落ち着いたら美味しすぎる話ということに気付くと思う。そのために、僕は今から何故君を学校に行かせようと思ったか教えようと思う」
佐治様が言うことは確かに正しい。地主が、しかも貿易商が私みたいな娘風情を引き取って学校に通わせるなんて出来すぎた話だ。
「そうだな、どこから話せばいいか……おりん、僕が君を引き取るのは僕のためなんだ。君のためにという気持ちも勿論あるけれど、大部分は自分のためなんだよ。いいかい? この国に限らず、世界では魔力量が多く魔術に長けている者が社会的に小数で、身分が高い傾向にある。例えば天皇はこの日本で最上級の魔力量を誇る。よその国とて同じだ。国の最高位やそれに次ぐ者たちは一般市民に比べて話にならないほどの魔力量を持つ。このことはしっていたかい?」
「はい、この間私が奉公に出させて頂けると決まった時に聞きました。」
「うん、それは僕の利益に繋がるんだ。何故か分かるかい?」
私は今のお話と佐治様の利益を必死に繋げようとする。が、いくら考えても答えは出てこない。
「……わかりません」
「うん、正直に答えられるところは君のいいところだね。答えはね、華族や貴族が世襲制でその家を継ぐとは限らないところにあるんだ。つまり、君は貴族や華族に気に入られる可能性があるということだ。それか大金持ちの商人の家とかね。もし貴族様やそういった億万長者が君の才能を見てその家に引き取りたいと僕に言ってきた時に、僕は君を交渉材料に商売をする。君を奉公人として手元に置いておくことは正直給金を払っても利益が溢れ出るほどに僕にとって有利という事なんだよ」
わかったような、わからないような。つまり私は貴族様の家なんかに引き取られる可能性があるということ? それだけはわかった気がする。それで、その時佐治様はその貴族様相手に商売をもちかけられるということか。確かにそれは佐治様に有利な商売になるだろう。それなら佐治様が私を奉公に取るというのも納得がいく。人は皆自分の損得を考えて生きるものだから、今の話は佐治様にとって得な話だ。それでもって私は働く代わりに魔術師学校に通わせてもらえる、父さんと母さんは働き手は一人失うけれど定期的にお給金という形で収入がある。皆に得な話だ。佐治様はこの話を父さんたちにしたのだろうか。尋ねてみるとその通りだとの返事がきた。
「おりん、他の乗客の迷惑にならないよう窓は閉めておきなさい」
「はっ、はい!」
さっき、父さんと母さんと三つ子たちとお別れして黒々とした車体の蒸気魔法機関車に乗り込んだところだというのに。学校に通えるということや、宝石、お人形に異国の名産物があるという佐治様の家に行けることに緊張したり、そわそわが止まらない。その矢先に注意されてしまって私の気分は少し悲観的な方に振れる。もし私が佐治様に見限られてしまったら。もし私がそそっかしくて落ち着きのない、奉公人として使えない人間と思われてしまったらせっかく学校へ行けるようになるのも、父さんたちが許可してくれたのも全部駄目になってしまう。そんな私の考えていることは顔に出ていたのだろうか。佐治様が窓から視線を外して私を見つめる。
「おりん、少し話を聞いてもらいたいんだがいいかな?」
「ひゃいっ! もちろんです!」
「うん、まずは落ち着こうか?」
うむ……これは初っ端からよろしくないイメージなのでは? 深呼吸をして佐治様のお言葉通り落ち着こうとする。吸って、吐いてを繰り返す私に佐治様は語りかける。
「おりん、虫のいい話だと思わないかい? 地主が村の娘を奉公に取るだけならまだしも、学校にまで通わせると言う。話だけ聞いたらいくら君の魔力量が尋常でないとはいえ、明らかにおかしい。君のお父さんがなかなか奉公にいい顔をしなかったのもそれが原因だろう。君もそのうち落ち着いたら美味しすぎる話ということに気付くと思う。そのために、僕は今から何故君を学校に行かせようと思ったか教えようと思う」
佐治様が言うことは確かに正しい。地主が、しかも貿易商が私みたいな娘風情を引き取って学校に通わせるなんて出来すぎた話だ。
「そうだな、どこから話せばいいか……おりん、僕が君を引き取るのは僕のためなんだ。君のためにという気持ちも勿論あるけれど、大部分は自分のためなんだよ。いいかい? この国に限らず、世界では魔力量が多く魔術に長けている者が社会的に小数で、身分が高い傾向にある。例えば天皇はこの日本で最上級の魔力量を誇る。よその国とて同じだ。国の最高位やそれに次ぐ者たちは一般市民に比べて話にならないほどの魔力量を持つ。このことはしっていたかい?」
「はい、この間私が奉公に出させて頂けると決まった時に聞きました。」
「うん、それは僕の利益に繋がるんだ。何故か分かるかい?」
私は今のお話と佐治様の利益を必死に繋げようとする。が、いくら考えても答えは出てこない。
「……わかりません」
「うん、正直に答えられるところは君のいいところだね。答えはね、華族や貴族が世襲制でその家を継ぐとは限らないところにあるんだ。つまり、君は貴族や華族に気に入られる可能性があるということだ。それか大金持ちの商人の家とかね。もし貴族様やそういった億万長者が君の才能を見てその家に引き取りたいと僕に言ってきた時に、僕は君を交渉材料に商売をする。君を奉公人として手元に置いておくことは正直給金を払っても利益が溢れ出るほどに僕にとって有利という事なんだよ」
わかったような、わからないような。つまり私は貴族様の家なんかに引き取られる可能性があるということ? それだけはわかった気がする。それで、その時佐治様はその貴族様相手に商売をもちかけられるということか。確かにそれは佐治様に有利な商売になるだろう。それなら佐治様が私を奉公に取るというのも納得がいく。人は皆自分の損得を考えて生きるものだから、今の話は佐治様にとって得な話だ。それでもって私は働く代わりに魔術師学校に通わせてもらえる、父さんと母さんは働き手は一人失うけれど定期的にお給金という形で収入がある。皆に得な話だ。佐治様はこの話を父さんたちにしたのだろうか。尋ねてみるとその通りだとの返事がきた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
全てから捨てられた伯爵令嬢は。
毒島醜女
恋愛
姉ルヴィが「あんたの婚約者、寝取ったから!」と職場に押し込んできたユークレース・エーデルシュタイン。
更に職場のお局には強引にクビを言い渡されてしまう。
結婚する気がなかったとは言え、これからどうすればいいのかと途方に暮れる彼女の前に帝国人の迷子の子供が現れる。
彼を助けたことで、薄幸なユークレースの人生は大きく変わり始める。
通常の王国語は「」
帝国語=外国語は『』
聞き分けよくしていたら婚約者が妹にばかり構うので、困らせてみることにした
今川幸乃
恋愛
カレン・ブライスとクライン・ガスターはどちらも公爵家の生まれで政略結婚のために婚約したが、お互い愛し合っていた……はずだった。
二人は貴族が通う学園の同級生で、クラスメイトたちにもその仲の良さは知られていた。
しかし、昨年クラインの妹、レイラが貴族が学園に入学してから状況が変わった。
元々人のいいところがあるクラインは、甘えがちな妹にばかり構う。
そのたびにカレンは聞き分けよく我慢せざるをえなかった。
が、ある日クラインがレイラのためにデートをすっぽかしてからカレンは決心する。
このまま聞き分けのいい婚約者をしていたところで状況は悪くなるだけだ、と。
※ざまぁというよりは改心系です。
※4/5【レイラ視点】【リーアム視点】の間に、入れ忘れていた【女友達視点】の話を追加しました。申し訳ありません。
「そうだ、結婚しよう!」悪役令嬢は断罪を回避した。
ミズメ
恋愛
ブラック企業で過労死(?)して目覚めると、そこはかつて熱中した乙女ゲームの世界だった。
しかも、自分は断罪エンドまっしぐらの悪役令嬢ロズニーヌ。そしてゲームもややこしい。
こんな謎運命、回避するしかない!
「そうだ、結婚しよう」
断罪回避のために動き出す悪役令嬢ロズニーヌと兄の友人である幼なじみの筋肉騎士のあれやこれや
後悔などありません。あなたのことは愛していないので。
あかぎ
恋愛
「お前とは婚約破棄する」
婚約者の突然の宣言に、レイラは言葉を失った。
理由は見知らぬ女ジェシカへのいじめ。
証拠と称される手紙も差し出されたが、筆跡は明らかに自分のものではない。
初対面の相手に嫉妬して傷つけただなど、理不尽にもほどがある。
だが、トールは疑いを信じ込み、ジェシカと共にレイラを糾弾する。
静かに溜息をついたレイラは、彼の目を見据えて言った。
「私、あなたのことなんて全然好きじゃないの」
彼女が望むなら
mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。
リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる