私、家から”追い出される”のではなくて自らの意思で”出ていく”んですのでそこのところわきまえてくださいね?

真城詩

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4.佐治屋

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「おりん、着いたよ」
「……ぇ?」

 佐治様に声を掛けられて私は目を覚ました。いつの間にか眠ってしまっていたようだ。佐治様に連れられて少ない荷物を手に蒸気魔法機関車を降りる。降りた先はとてつもない数の建物、建物、建物。めまいがしそうな程の都会だった。機関車に乗った駅も物凄い都会だと思ったのに。色とりどりの和装、洋装に身を包んだ人々。向こうに見えるのは……百貨店というやつだろうか、大きな建物。目の前を通り過ぎていく婦人は私が知っているぼろ布でできた着物ではなく美しい新品と思われるドレスを着こなして小さな帽子まで頭に付けている。それらを前に、ただただ圧倒されるしかなかった私は声も出せなかった。

「さあ、ようこそ横浜へ! どうだい、おりん。なかなか良い街だろう?」

 私は開いた口がふさがらない。どんなに素敵だろうと想像していたどんな貴婦人よりも綺麗な人たちの笑い声がさざめく。きらきら輝く大きな宝石のネックレス。前に村に来た行商のおっちゃんが一番高価だと言って見せてくれた小粒の真珠と同じようなものが沢山ついた簪。レースの襟にフリルの袖。

「見たことないものばかりだろう? ここにはそんなものが沢山ある! まずは僕の店に行こう」

 ぼうっと見とれながら佐治様の後をついて歩く。通りを歩いていると自分の田舎者臭さが恥ずかしくて嫌になる。これでも一張羅の着物を着て来たのに。あんみつ屋に喫茶店。洋食屋や洋服店等が並ぶ中に、一際大きく構えている店があって目を引かれた。店の看板を見上げると”佐治屋”とあって……佐治様が足を止める。

「さささ佐治様、まさかここが……」
「そのまさかさ、ここが僕の店だ。改めて、ようこそおりん!」
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