師匠の嫉妬で才能を奪われた薬師見習いの私、牢獄で本物の力を取り戻す

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午後、薬師棟に視察が入った。

「王子殿下のお成りです!」

見習いたちが慌てて整列する。
わたしも急いで白衣の皺を伸ばし、列に加わった。
鏡を見る暇もなく、乱れた髪を手で撫でつける。心臓が早鐘を打っていた。
重厚な扉が開き、男性が入ってきた。

アルヴィン・フォン・エルデンライヒ。第一王子。
黒い軍服に身を包み、銀の髪を短く整えている。切れ長の青い瞳は、氷のように冷たかった。
氷の王子。
人々はそう呼ぶ。冷徹で容赦がなく、敵対者を徹底的に排除すると。
長身の体躯から放たれる威圧感に、わたしは思わず後ろに下がりそうになった。

「エリザ薬師長」

低く響く声だった。

「殿下、ようこそいらっしゃいました」

エリザ様が優雅に一礼する。白い薬師服の裾が床に広がった。

「薬師棟の状況を確認に来た」
「はい。こちらが見習いたちでございます」

エリザ様が手を広げ、わたしたちを示した。
アルヴィン王子の視線が、一人一人の顔を見渡す。
わたしに視線が止まった時、思わず息を詰めた。胸の中で心臓が跳ね上がる。
鋭い、まるで全てを見透かすような目だった。

「貴女は」

わたしに声をかけられて、膝が震えた。両手を固く握り締め、なんとか姿勢を保つ。

「ロゼウス家の娘、セシリアにございます」

声が裏返りそうになるのを、必死でこらえた。

「ロゼウス......辺境の」
「はい」

アルヴィン王子は何か言いかけたが、すぐに視線を外した。眉間に、かすかな皺が寄る。
随行していた近衛騎士たちの中に、一人、鋭い目でわたしたちを観察している男性がいた。視察というより、何かを探しているような目つきだった。黒い制服の胸に、特殊任務の紋章が光っている。

「引き続き、職務に励むように」
「はっ」

視察は短時間で終わった。アルヴィン王子たちが去った後、ミレイユが小声で囁いた。

「殿下、怖いわよね」

ミレイユは肩をすくめ、大げさに震える真似をした。

「でも、立派な方よ」
「そうね。国のために尽くしてるって聞くし」

わたしたちは持ち場に戻った。
しかし、あの冷たい視線が忘れられなかった。
瞼を閉じるたびに、あの青い瞳が浮かぶ。

夜、わわたしは自室で手紙を書いた。
羽ペンを握る手が、ランプの明かりで影を作る。
インク壺から黒いインクをすくい、羊皮紙に文字を綴った。

『お父様、姉様方。お元気ですか。わたしは相変わらず、修行に励んでおります』

嘘だった。
本当は、毎日が辛かった。
エリザ様の言葉に傷つき、自分の無力さに打ちのめされている。
でも、家族を心配させたくなかった。辺境の小さな領地を守る父は、わたしを王都に送り出す時、誇らしげだった。皺だらけの手で、わたしの頭を撫でてくれた。

『いつか、立派な薬師になって帰ってきますね』

手紙を書き終え、羽ペンを置いた。
インクが乾くのを待ち、丁寧に折りたたむ。
窓の外では、月が冷たく輝いていた。
ガラス越しに見える月は、まるで氷の塊のようだった。
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