師匠の嫉妬で才能を奪われた薬師見習いの私、牢獄で本物の力を取り戻す

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「では、証人を呼ぼう」

アルヴィンが手を上げると、扉が開いた。重い木の扉が、ゆっくりと開いていく。
わたしが、入っていった。
白い治癒師のローブを纏い、背筋を伸ばして歩く。靴音が、大理石の床に響く。
全ての視線が、わたしに注がれた。
エリザが、憎悪の目でわたしを睨んだ。その目には、消えない恨みが燃えている。
証言台に立つ。手が、震えていた。木の手すりを握り締め、なんとか姿勢を保つ。
でも、やらなければ。

「セシリア・ロゼウス。貴女の体験を、話してほしい」

アルヴィンの声が、優しかった。青い目が、わたしを見つめる。
わたしは深呼吸をした。肺に空気を満たし、心を落ち着ける。

「わたしは三年前、宮廷薬師見習いとして働き始めました」

声が、震える。でも、続けた。

「エリザ様は、最初から冷たくわたしに接しました。そして、毎日、体調管理の薬と称して、錠剤を飲ませました」
「その薬の正体は」
「わたしの治癒魔法を封じる、呪いの薬でした」

人々がざわめいた。声が重なり、波のように広がる。

「三年間、わたしは自分に才能がないと信じ込まされていました。でも、それは嘘でした。わたしには、力があったのです」

エリザが顔を背けた。肩が震え、拳を握り締める。

「そして今、わたしは自分の力で、疫病の患者たちを救っています」

アルヴィンが頷いた。

「では、その力を、ここで示してほしい」

わたしは振り返った。
広間の端に、まだ病の残る患者が一人、ベッドで横たわっていた。
白いシーツに包まれ、荒い息を吐いている。
わたしはそこに歩み寄った。一歩ずつ、確実に足を運ぶ。
患者は、若い男性だった。顔色が悪く、息が荒い。額には大粒の汗が浮かび、唇は乾いて割れている。
手を伸ばす。指先が、震える。
全員が、見ている。
もし、失敗したら。
でも、アルヴィンが静かに頷いた。
その眼差しに、勇気をもらった。わたしは患者の額に手を置き、目を閉じ、心の中で、祈る。
この人を、救いたい。
温かさが、手のひらに広がった。
そして、光が溢れた。
金色の、柔らかな光が広間全体を包んだ。シャンデリアの光が霞むほど、明るく輝く。
患者の顔から、苦痛の色が消えていく。呼吸が整い、頬に赤みが戻る。汗が引き、唇に潤いが戻った。

「治った......」

患者が目を開け、驚いたように自分の体を見た。手を握り、腕を動かす。

「熱が、下がってる......」

広間中が、息を呑んだ。
そして、拍手が起こった。
一人、また一人と、民衆が拍手を送る。やがてそれは、広間全体を揺るがす大きな音になった。手を叩く音が、天井に反響し、何度も何度も繰り返される。
わたしは涙が溢れそうになるのを、必死でこらえた。唇を噛み、目を見開く。
エリザが、崩れ落ちた。膝から力が抜け、床に倒れ込む。鎖が引きずられ、甲高い音を立てた。

「嘘、よ......こんな......」

グスタフも、もう抵抗する気力を失っていた。太った体が、小刻みに震えている。
国王が立ち上がった。玉座から降り、二人の前に立つ。

「エリザ・フォン・クラウゼン、グスタフ・フォン・バルトハイム。お前たちの罪は明白だ」
「陛下、お許しを......」

エリザが手を伸ばすが、国王は一歩下がった。

「許さん。お前たちは投獄され、全財産は没収。爵位も剥奪する」

近衛騎士たちが二人を連行した。鎖を引っ張り、無理やり立ち上がらせる。エリザは最後まで、わたしを睨んでいた。憎悪に満ちた目が、わたしを捉えて離さない。
でも、もう怖くなかった。
真実は、明らかになった。



裁判の後、わたしは王宮の庭を歩いていた。
薔薇が咲き誇り、甘い香りが漂っている。ミツバチが花の間を飛び、小鳥がさえずる。青い空には、白い雲が流れていた。

「セシリア」

振り返ると、アルヴィンが立っていた。黒い軍服ではなく、シンプルな白いシャツを着ている。

「殿下」
「よくやった」
「いえ......殿下のおかげです」

わたしは深く頭を下げた。
アルヴィンは首を横に振った。

「貴女自身の力だ」

少しの沈黙の後、アルヴィンが言った。

「セシリア。貴女に、頼みがある」
「はい」
「王家専属の治癒師として、宮廷で働いてほしい」

わたしは目を見開いた。心臓が跳ね上がる。

「わたしが、ですか?」
「貴女以上に適任な者はいない」
「でも、わたしはまだ未熟で......」
「未熟なのは、皆同じだ」

アルヴィンの目が、優しかった。冷たかった青い瞳が、今は穏やかな光を湛えている。

「大切なのは、学び続けることだ。そして、人々のために力を使うことだ」

わたしは深く頷いた。

「はい。お受けいたします」
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