地下室に幽閉された私、実は王国唯一の【刻印の紡ぎ手】のようです

er

文字の大きさ
1 / 8

第一章

しおりを挟む
「お前のような出来損ないは、もう私の娘じゃないわ」

継母マデリンの冷たい声が、屋敷の応接間に響き渡った。

私、エリスは膝をついたまま、床の木目を見つめていた。
継母の靴の先が視界に入る。磨き上げられた革靴。私が毎朝磨いているものだ。

「セシリア、お前が正統な後継者よ。この愚図な娘の工房も道具も、全てお前のものよ」
「ありがとうございます、お母様」

異母妹セシリアの、甘ったるい声。
十六歳の彼女は、私より五つ年下だ。
亡き父が後妻マデリンとの間にもうけた娘。
父の死後、この家で私の立場は急速に悪化した。

理由は単純だった。
私が持つ、希少技能【刻印の紡ぎ手】。

この世界には魔力を持つ者が存在する。
だが、古代文字を編み上げて魔法具に力を刻み込む技能を持つ者は、千人に一人もいない。
私の技能で作られた魔法具は、通常の十倍以上の効力を発揮する。
王都の貴族たちが、列をなして注文してくるほどの価値がある。

だからこそ、マデリンとセシリアは私を憎んだ。

そして三ヶ月前、セシリアが突然「私にも刻印の才能がある」と言い出した。マデリンは狂喜し、私の工房をセシリアに開放させた。道具を使わせ、顧客との面会も代理させた。

結果は、惨憺たるものだった。

セシリアが作った魔法具は、どれも不良品。
魔力の流れが歪み、使用者に害を及ぼすものさえあった。
顧客からの苦情が殺到し、我が家の評判は地に落ちた。

「エリス、お前がこの子に嫉妬して、わざと失敗するように教えてるんでしょう?」

マデリンの言葉に、私は歯を食いしばった。
違う。私はセシリアに何も教えていない。
彼女が勝手に工房に入り込み、勝手に顧客の注文品を台無しにしただけよ。

「私は......」
「黙りなさい。お前の言い訳など聞きたくないわ」

マデリンが手を振ると、使用人が私の腕を掴んだ。

「今日から、お前は屋敷の地下に住みなさい。食事は一日一回。妹が一人前になるまで、お前に自由はないわ」

地下室。
かつて罪人を閉じ込めていたこともあるという、あの暗く湿った場所。

「お母様、でもそれは......」

セシリアが小さく声を上げたが、マデリンに睨みつけられると、怖くて言い返せなかった。

「何か言いたいことがあるのかしら」
「いえ、何も」

私は視線を逸らした。
彼女の瞳には、僅かな罪悪感と、それを上回る安堵があった。
私がいなくなれば、彼女は後継者として君臨できる。
たとえ技術がなくても、家名と私が遺した評判で、しばらくは食いつなげるだろう。

使用人が私を引きずって行く。

応接間を出る直前、振り返った。

マデリンとセシリアは、すでに次の話題に移っていた。
来週の貴族の茶会の話。新しいドレスの話。
私など、もう存在しないかのように。

心の中で、静かな怒りが燃え上がった。
いいわ。
そっちがそういう態度に出るなら、私だって好きにさせてもらうわ。
このままで終わると思わないで

私には、まだ切り札がある。


地下室へと続く階段を降りながら、私は唇を噛んだ。
暗闇の中で、私の手が仄かに光る。古代文字が指先に浮かび上がり、空中で踊る。

【刻印の紡ぎ手】の真の力は、物に力を与えるだけではない。
この技能の最奥義、【フェイタル・グリフ】。
対象者の運命そのものに古代文字を刻み、因果を書き換える禁術。

私は、継母たちが私を陥れた瞬間から、密かに彼女たちにフェイタル・グリフを施していた。

「罪業の紋章」を。

この刻印を受けた者は、自らの悪行が全て自分に返ってくる。嘘をつけば信用を失い、他人を陥れれば自分が陥れられ、盗めば全てを失う。

そして最も恐ろしいのは、本人がそれに気づかないこと。まるで自然な成り行きのように、破滅へと転がり落ちていく。

地下室の扉が閉まる音が響いた。

真っ暗な空間で、私は静かに微笑んだ。
さあ、ショーの始まりよ。
あなたたちの自業自得の物語を、私は地下室から見届けてあげる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

救国の代償で白髪になった聖女、一度のミスを理由に「無能の戦犯」として追放される ~隣国の覇王に拾われ、愛され、奇跡の力を見せつける~

スカッと文庫
ファンタジー
聖女アリシアは、百年に一度の大氾濫から国を守るため、禁忌の魔力全解放を行い、単身で数万の魔物を殲滅した。その代償として、彼女の美しい金髪は真っ白な「白雪色」に染まり、魔力は一時的に枯渇してしまう。 しかし、その功績はすべて現場にいなかった「偽聖女セシリア」に奪われ、アリシアは「結界を一部損壊させた戦犯」「魔力を失った役立たず」として、婚約者の王太子ギルバートから国外追放を言い渡される。 「失敗したゴミに、この国の空気は吸わせない」 泥の中に捨てられたアリシア。しかし、彼女を拾ったのは、敵対国として恐れられていた帝国の「武徳皇帝」ラグナールだった。彼はアリシアの白髪が「高純度の神聖魔力による変質」であることを瞬時に見抜き、彼女を帝国の宝として迎える。 数ヶ月後。アリシアが帝国の守護聖女として輝きを取り戻した頃、王国では「一度きりの奇跡」だったセシリアの魔力が尽き、本当の滅亡が始まっていた。 「今さら結界が解けたと泣きつかれても、もう私の魔力は一滴も残っていません」

「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」

まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。 目が覚めたら、婚約破棄されていた。 理由は「地味で面白みがない」から。 泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。 最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。 でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。 厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。 そして就任スピーチで宣言した。 「500人全員の名前を、覚えます」 冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。 悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。 元婚約者は——後悔し始めていた。 婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。 なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。

『無能な聖女』と婚約破棄された私、実は伝説の竜を唯一従える『真の守護者』でした。~今さら国に戻れと言われても、もう遅いです~

スカッと文庫
ファンタジー
「魔力値たったの5だと? 貴様のような偽聖女、この国には不要だ!」 聖女として国を支えてきたエルナは、第一王子カイルから非情な婚約破棄を言い渡される。隣には、魔力値を偽装して聖女の座を奪った男爵令嬢の姿が。 実家からも見捨てられ、生きては戻れぬ『死の森』へ追放されたエルナ。しかし、絶望の中で彼女が目覚めさせたのは、人間には測定不能な【神聖魔力】だった。 森の奥で封印されていた伝説の銀竜を解き放ち、隣国の冷徹皇帝にその才能を見出された時、エルナを捨てた王国は滅びの危機に直面する――。 「今さら謝っても、私の結界はもうあなたたちのために張ることはありません」 捨てられた聖女が真の幸せを掴む、逆転劇がいま幕を開ける!

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

阿里
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

追放された地味なメイドは和菓子職人の記憶に目覚める 〜王子たちの胃袋を『あんこ』で掴んだら、王宮で極甘に溺愛されています〜

あとりえむ
恋愛
「起きなさい、この穀潰し!」 冷たい紅茶を浴びせられ、無実の罪で男爵家を追放された地味なメイド、ミア。 泥濘の中で力尽きようとしたその時、彼女の脳裏に鮮やかな記憶が蘇る。 それは、炊きたての小豆の香りと、丁寧にあんこを練り上げる職人としての誇り…… 行き倒れたミアを救ったのは、冷徹と恐れられる第一王子ミハエルだった。 バターと生クリームの重いお菓子に胃を痛めていた王族たちの前に、ミアは前世の知恵を絞った未知のスイーツ『おはぎ』を差し出す。 「なんだ、この食感は……深く、そして優しい。ミア、お前は私の最高のパートナーだ」 小豆の魔法に魅了されたミハエルだけでなく、武闘派の第二王子やわがままな王女まで、気づけばミアを取り合う溺愛合戦が勃発! 一方で、有能なミアを失い、裏金のカラクリを解ける者がいなくなった男爵家は、自業自得の崩壊へと突き進んでいく。 泣いて謝っても、もう遅い。 彼らを待っていたのは、処刑よりも皮肉な「全土小豆畑の刑」だった…… これは、一粒の小豆から始まる、甘くて爽快な逆転シンデレラストーリー。 あなたの心も、あんこのように「まあるく」癒やしてみせます。

【完結】魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――

ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。 魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。 ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。 誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。

雑草と呼ばれた令嬢は、氷の公爵の庭を咲かせる

もちもちほっぺ
恋愛
亡き母の形見の庭を守ることだけが、フェリシアの居場所だった。 継母に食卓での給仕を命じられ、義妹に母の形見の花を踏みにじられても、父は「仲良くしなさい」と言うだけだった。 植物魔法は「雑草いじり」と蔑まれ、フェリシアはルミナリス家の娘ではなく、使用人以下として生きてきた。 転機は突然訪れる。 「氷の魔王」と恐れられるギルバート・ウィンストン公爵との縁談。嵐の中、馬車も出してもらえず送り出されたフェリシアが辿り着いたのは、十年間何も育たなくなった荒廃した庭だった。

『魔力ゼロの欠陥品』と蔑まれた伯爵令嬢、卒業パーティーで婚約破棄された瞬間に古代魔法が覚醒する ~虐げられ続けた三年間、倍返しでは足りない~

スカッと文庫
恋愛
「貴様のような無能、我が国の王妃には相応しくない。婚約を破棄し、学園から追放する!」 王立魔道学園の卒業パーティー。きらびやかなシャンデリアの下、王太子エドワードの声が冷酷に響いた。彼の隣には、愛くるしい表情で私を嵌めた男爵令嬢、ミナが勝ち誇ったように寄り添っている。 伯爵令嬢のリリアーヌは、入学以来三年間、「魔力ゼロの欠陥品」として学園中の嘲笑を浴び続けてきた。 婚約者であるエドワードからは一度も顧みられず、同級生からはゴミのように扱われ、ミナの自作自演による「いじめ」の濡れ衣まで着せられ……。 それでも、父との「力を隠せ」という約束を守るため、泥を啜るような屈辱に耐え抜いてきた。 ――だが、国からも学園からも捨てられた今、もうその約束を守る必要はない。 「さようなら、皆様。……私が消えた後、この国がどうなろうと知ったことではありませんわ」 リリアーヌが身につけていた「魔力封印の首飾り」を自ら引き千切った瞬間、会場は漆黒の魔力に包まれた。 彼女は無能などではない。失われた「古代魔法」をその身に宿す、真の魔道の主だったのだ。 絶望する王太子たちを余目に、隣国の伝説の魔術師アルベルトに拾われたリリアーヌ。 彼女の、残酷で、甘美な復讐劇が今、幕を開ける――。

処理中です...