時代遅れと馬鹿にされた錬金術で王国を救ったら、元婚約者が土下座してきました

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第二章

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翌朝、私は王宮に向かった。
馬車の中で、何度も深呼吸をした。
落ち着け。私。
冷静に説明すれば、きっとわかってもらえる。
だが対応に出てきた宰相は、予想通りの冷淡な反応だった。

「辺境伯爵の令嬢が、何の用かな」

五十代の中肉中背。
魔術至上主義者として知られる宰相は、明らかに面倒くさそうな態度だった。
周囲の側近たちも同様だった。
辺境伯の娘だから仕方なく出向いてやった、という態度が見て取れた。

「疫病の治療法について、提案があります」
「治療法?」

宰相の眉が上がった。

「既に王国最高の治癒魔術師団を派遣している。彼らでも治せないというのに、君に何ができると」
「錬金術で治療できるのです。この疫病は魔素の異常変異が原因でーー」
「錬金術?」

側近が鼻で笑った。

「時代遅れの学問で、何ができる。それに、ご令嬢は確か昨日クラウス・フォン・アルトハイムと婚約を破棄されたのではなかったかな」

周囲の視線が、さらに冷たくなった。
くすくすと笑う人まで出てくる始末。
婚約破棄と錬金術に関係はないでしょう!

「婚約破棄された腹いせに、王宮に来たのだろう。時間の無駄だ。お引き取り願おう」
「ですが、これは本当に!」
「もういい。衛兵、ご令嬢がお帰りだ。門までお送りするように」

私の説明を聞くことなく、宰相は手を振った。
引きずられるように私は部屋から追い出された。



廊下に出ると運の悪いことに、クラウスとエリーゼに出くわした。

「やあ、リーア」

クラウスの声には昨日までとは違う、明確な優越感が含まれていた。

「もしかして、疫病の治療法とやらをわざわざ宰相閣下に提案しに来たのかい? 君の錬金術で?」

エリーゼが優雅に笑った。

「聞きましたわ。お断りされたそうですね。当然ですわ。国家的危機に、ただの素人が口を出すべきではありません」

二人の後ろには宮廷魔術師たちが数名いた。彼らの表情からも、私への軽蔑が読み取れた。
クラウスが一歩近づいた。

「君はもう王宮に出入りしていい立場じゃないんだ。僕の元婚約者というだけで、何の地位もない。辺境に帰って、細々と薬草でも育てていればいい。土いじりは昔から大好きだろう?」

彼の言葉が、胸に突き刺さった。
でも私は反論しなかった。
もう言葉なんかじゃ、彼らを説得できない。
それはこの三年間で、嫌というほど学んだからだ。

「そうですね。失礼しました」

私は静かに頭を下げ、その場を離れた。
二人が去った後、私は廊下の窓から外を眺めた。
王都の街並みが広がっている。
あの街のどこかで、今も人々が苦しんでいる。
子供が、老人が、働き盛りの人々が、高熱と激痛に苛まれながら、死を待っている。

「諦めるわけにはいかない」

呟いた時、低い声が背後から響いた。

「待ちなさい、リーア・エルヴィン嬢」

振り返ると、白銀の髪を持つ男性が立っていた。
三十代と思われる彼の顔には、深い知性と経験が刻まれていた。胸には宮廷錬金術師の紋章――今ではほとんど見ることのない、古い様式の紋章――が輝いていた。

「私はガレス・ストーン。宮廷首席錬金術師だ」

その名は知っていた。
王国で唯一、錬金術の価値を理解し、守り続けている人物。祖父が生前、何度もその名を口にしていた。
『彼は本物の錬金術師だ。権力に屈せず、真理を追い求める姿勢は、全ての錬金術師の模範となる。口は悪いがの』
祖父の言葉が蘇る。

「君の話は全て聞いた」

ガレスの鋭い瞳が、私を見据えた。

「魔素の浄化と排出。理論的には完璧だ。だが……」

彼は一歩近づいた。

「それを実現できる技術を持つ錬金術師は、この王国には存在しないはずだ。少なくとも、私の知る限りでは」

私は逡巡した。
祖父の教えがある。
力を見せるのは、真に理解する者にのみ。

だけどガレスの目には、打算も軽蔑もなかった。
ただ純粋な探究心と、人を救いたいという願いがあった。
そして――祖父が信頼した人物だったのだ。

「……お見せします」

私は右手をかざした。
掌に浮かぶ、淡い金色の光。
その光にガレスの目は、即座に大きく見開かれた。

「これは……【真理の目】!」

彼の声が震えた。

「まさか……三百年ぶりだ。……エルヴィン家にとうとう継承者が現れたのか」

ガレスは私の手を取った。
その手は、わずかに震えていた。

「リーア、時間がない。すぐに私の研究室に来てくれ!」
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