無能冒険者、魔王の娘を助けたら結婚することになりました ~スキル<畜産>にモンスター育成が追加されたので、軍を育てて勇者を蹂躙する〜

凩凪凧

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プロローグ 〜魔王の娘とモンスター育成〜

無能冒険者、職を失う

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 冒険者の仕事がなくなった。では、なぜなくなったのか。
 それは魔王が討伐されたからだった――

――ではなく、俺が無能だからである。

 多少の貯蓄はあるものの、これからのことを考えると足取りは重い。
 家で待つ妹になんて説明したらいいだろうか。

 俺は大きく息を吐いた。
 街からの帰路はいつもより暗い。空を見上げると月明かりはない。
 今日はどうやら新月らしい。

 ジラルド暦37年、勇者パーティは魔王城の攻略に成功した。
 討伐の影響で、魔物達は沈静化するらしい。もうモンスターの危険に誰もおびえることもない。そんな平和な世界が約束されたのだ。
 勇者たちからの勝報が入るや否や、街はすぐに祝賀ムードになっていた。誰も傷つかない世界、それは素晴らしいことである。だけれども、俺の持つ薬草の価値がとても大きく下がってしまったのも事実だった。

 今までは冒険者ギルドからポーションのための薬草納品依頼があった。
 魔王城から一番近くの街、そんな場所に集まる高ランクの冒険者たちはそんな仕事をやりたがらない。
 だから、俺がほとんど占有していたみたいなものだった。
 だけども、その仕事ももうないのだ。そして、なにより俺は冒険者ギルドから出禁も食らってしまったのだ。

 家に帰るために森の中をとぼとぼと歩く。所々にある火の光に照らされてフラッシュバックするそれは、つい先ほどの魔王討伐の情報がギルドへと持ち帰られた時のことだった。

 01

「おい、来やがったよ」
「無能冒険者のお出ましだぜ」

 ギルドの看板をくぐると、そんな嘲笑が俺を迎えてくれる。
 いつものことだが、こればっかりは慣れない。

「へへ、魔王城近くのところで、おつかいするのは気が楽なことだろうぜ」
「身を張ってモンスターと戦っている俺たちの身にもなってほしいところだな」

 無視だ無視、気にするな。
 そう心の中で唱えながら、俺は受付に向かって歩き出した。
 そして、途中、ヤジを飛ばす連中の近くを通った時だった。

 俺の進行方向に足がにゅっと突き出される。
 それは突然の出来事で、俺は反応できずに転んでしまう。

「おっと、すまねぇな!」
「おいおい、ケガしたんじゃないのか?」
「俺の足が折れちまったかも知んねぇな!」

 ゲラゲラとした笑い声が頭上から降り注ぐ。酒の臭いがあたりには充満していた。

「まぁ、お前がお使いしてくれるポーションで治してもらうよ」
「こんな高ランク地帯にいながらお使いしかできない奴がいて本当助かるわぁ!」

 暴言を吐かれる、嫌がらせをされる、それどころか上から踏みつけられる。
 ありていに言って、俺はこのギルドでいじめられているのだ。
 だけれども、俺にそれを是正することはできない。

 ここは魔王城前ギルド、高ランクの冒険者が集う場所だ。
 そして、俺はこのギルド唯一のFランク冒険者、ウェレン・タボロウだった。


 そのあとの数分、俺は足蹴、暴言、酒をぶっかけられる等のことを耐えるしかなく、ただ時間が過ぎ去ることを待っていた。
 いつもなら暴言だけで済むのだが今日は違っていた。何か奴らにも嫌なことがあったのか、まるでうっ憤を晴らすように、俺にぶつけてくるのだ。

「おい、こいつ、何も抵抗してこなくて詰まらねえな」
「まだ弱い魔物いたぶってるほうが楽しいぜ、なぁ、おい」

 ……もし、俺に力があったら、もっとましなスキルがあったなら、こいつらを圧倒することができたのに。
 ただ耐え、薄らぼんやりする頭で俺は考える。

 そんな時だった。
「勇者だ! 魔王城に行っていた勇者が帰ってきたぞ!」

 ギルドの扉を開き、慌てて入ってきた男が声を上げる。
 魔王と勇者の戦いはそんなところまで進んでいるらしかった。

「勝った! 勇者たちが魔王に勝ったんだって!」

 ギルドの外からそんな声と、歓声が聞こえてくる。
 魔王に勝つ、そんな歴史的な快挙を成し遂げた勇者を一目見ようと、冒険者たちは外へと飛び出していった。

「くそ、いじめる気が削がれたな」
「本当だぜ、勇者め、余計なことをしやがって……」

 俺に絡んでいた二人も、そんなことを言って、外へと出ていく。
 いつの間にか、ギルドの中には俺一人になっていた。

 今日も最悪な目にあった。
 土埃で汚れた体を払い、俺は立ち上がる。
 そして収納袋に入った依頼の品が無事なことを確認し、納品カウンターへと向かった。

「これ、今日のクエストの分です」
「……ありがとうございます」

 愛想のない受付嬢は、袋から取り出した薬草を手に取る。
 そして、汚れや傷がないか確認した後、すっとクエストの報酬を机の上に置く。
 それは、初めに依頼書に書かれていた額よりずっと少なかった。


「え、なんでこれだけなんですか?」
「今までとは状況が変わりましたので、勇者が魔王を倒した以上、じきに各地の魔物も沈静化し、ポーションの需要も少なくなります」
「でも、俺が受けたのはそれがわかる前の話だろ?」

 そう反論すると、受付嬢はゆっくりと首を振る。

「これも経費削減なんです。 薬草の搬入はFランククエスト、毎日張り出されます。 あなたは毎日毎日、飽きもせずに薬草取り。ダンジョンだという危険手当がついてて美味しい仕事なのはわかりますがね」

 彼女の眼にも侮蔑の眼差しが込められていた。先ほどの酒臭い二人とも被って見える。
 その瞳に威圧された俺は、何も言い返すことはできなかった。 

「あなたも魔王を倒してとまでは言いませんが、魔物を倒してギルドに貢献してはいかがですが?」
「だが、あんたも知っているだろう。 俺には魔物を倒すのに有効なスキルが――」
「だから無能冒険者なんですよ、いい機会だから言いますけど、あなた冒険者に向いてないんですよ」

 冒険者に向いてない。そんなことは言われずしてわかっていることだ。
 俺のスキル<畜産>は冒険に役立たない。動物を育てるのに役立つだけだった。
 そう、わかっていることだというのに、改めて面と向かって言われると、とても胸が痛くなった。

「そんな年になってまで、新人のやるクエストの薬草取りだなんて、プライドがないんじゃないですか?」
「……それは」
「もう来なくていいですよ、あなたが今まで持ってきてくれた分だけでしばらくポーションには困りませんし」
「じゃあ俺はどうやって金を稼げば――」

 そう言い終わる前に、受付嬢が遮る。

「冒険者以外の仕事、探したほうがいいんじゃないですか? もうこのギルドにあなたのできるクエストは置いてないので」

 あまりの言われように、俺は唇をかみ、俯いてしまう。
 そして気づいた。
 カウンターの上には少しばかりの貨幣しか置いてはいなかった。俺の冒険者カードはそこになかったのだ。
 そして次の瞬間、目の前で何かが破られる音がする。

「来なくて結構ですよ、というより来ないでくださいね」

 慌てて顔を上げると、受付嬢はそんなことを言いながら、俺のカードを破り捨てていたのだった。
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