無能冒険者、魔王の娘を助けたら結婚することになりました ~スキル<畜産>にモンスター育成が追加されたので、軍を育てて勇者を蹂躙する〜

凩凪凧

文字の大きさ
2 / 35
プロローグ 〜魔王の娘とモンスター育成〜

無能冒険者、少女を助ける

しおりを挟む

 家へと帰る足取りは重い。それも当然である、職を失ったのだ。
 なぜ、こんなことになったのだろうか。魔王が倒されたからだろうか。
 いや、これは俺自身の甘さが招いた結果だろう。

 簡単な仕事だけをこなし、モンスター討伐など危険のある仕事を受けなかったからだ。
 だけれども、そういった依頼は死と隣り合わせになる。もし死んでしまったならば――
 嫌な考えが頭の中をぐるぐると回る。背中の冷や汗が止まらず、気持ち悪く思えた。

 月明かりのさす森の中、街から延びる林道を超えた先にあるのが俺の家だった。街を中心とし、魔王城のある方角の反対側、ちょうど同じほどの位置にポツンとある。
 冒険者の仕事ができなくなった以上、足を延ばして出稼ぎをするしかなくなる。しかし、それができない理由も俺にはあった。

 目の前を少女が横切る。林道を横切って、森の闇へと消えていく。
 そして、それを追いかけるように狼の魔物が五匹、後に続く。

 ……この森に魔物が姿を現すなんて珍しい。
 そして、人を襲っているなんてなおさらだ。

 魔王城の反対側の森ということもあって、この辺りには高ランクの冒険者が多い。そんな彼らが、クエストを受けるために集まり、または魔王城へ行く前の調整として利用するのがこの場所なのである。
 つまり、一つの狩場なのだ。
 そのため、モンスターは警戒して人の通る場所に姿を現さない。

 だから、目の前の状況に俺は疑問を持つ。

 深いところに行かなければモンスターに遭遇することはない。
 さらにそこで出会うモンスターもこの辺りにまでくれば、たいがいは森の中へと引いていく。

 俺は、五感を集中させながら、駆け足で少女たちの後を追跡する。
 足跡もあり、星明りも充分にある。風も無く、臭いが途切れることもない。追いつくことは容易いだろう。
 少女が無事であればいいが……。


 林道から数分の位置で、俺は追いつくことに成功する。
 というものも、少女は追い詰められていたのだ。木を背にし、肩から血を流していた。
 そしてへたり込み、手を伸ばし魔物に向かって叫んでいた。

「はぁ、はぁ、静まって、ねぇ!」

 俺はすぐに飛び出さずに少しだけ様子を見る。
 魔物に向かって喋りかけたり問いかけたりなど、普通はすることはない。
 注意をそらすために行うならまだしも、この状況下ではあまりメリットはない。

 それよりも、刺激を与えてしまうデメリットの方が大きいのだ。

「なんで私の言うこと聞いてくれませんの!?」

 だから、彼女のやっていることは逆効果だ。

「ヘビーですわ、この状況……」

 そう言いながら、彼女は肩を抑えながら、腰から剣を取り出す。
 しかし、それは魔物たちを興奮させることとなっていた。
 だから、おそらく誰も助けなければ、このまま喰われてしまうだろう。

 さすがにその現場を見るのは、俺もやるせない。

「どう乗り切れば――」
「こっちだ! 魔物ども!」

 威圧する、その意思を込めて俺は叫んだ。

「うおおおおおお!」

 俺は、Fランクの冒険者である。
 だけれども、この辺りの魔物にぐらいは勝つことができる。
 幸い、この辺りはまだ深度も浅い。
 あのオオカミの魔物の群れも、俺一人で、制圧することができる。

 俺の張り上げた声は、魔物たちの注意をひく。そして、こちらに飛びかかってきた一匹の喉を掻き切る。そして、その光景を警戒し、足を止めた一匹に素早く近づき、剣を突き立てる。

 あと三体、道具袋から出した煙玉を地面にぶつける。
 視界を奪っても、奴らは嗅覚や、聴覚が発達している。だから、それを逆手に取る。

 狙うべきは不意打ちとカウンターである。
 足元の煙に影が浮かび上がる。その瞬間に剣を振るう。
 白一色の世界に真っ赤な鮮血が舞う。

 そして、それを二度、三度と繰り返す。

 煙が晴れた後、そこには五体の死体と俯いて震えている少女の姿があった。
 ローブを深くかぶっているからか、その表情はよく見えない。
 だけれども、彼女が驚いているのはわかった。

「おい、大丈夫か?」
「やめて、殺さないで!」

 混乱しているのだろうか、彼女は懐から短剣を取り出し、こちらに向ける。
 俺は警戒しながらも、安心させるために少女に近づいた。

「……安心しろ、もうモンスターはいない」

 だけれども、彼女は変わらずに剣を向けたままだった。
 よほど恐怖していたのだろう。敵味方がわからなくなっているのだろう。


「あとは、わたくしひとりってことね」
「ひどく混乱しているようだな」
「わたくしだって、簡単にやられるわけじゃ――」

 そう言って彼女は飛びかかってくる。肩からの血が、辺りに飛び散った。
 無論、その状態での攻撃なんて俺に当たるはずはない。
 彼女の勢いを利用し、俺は背中に位置どった。

「すまないが、ちょっと気絶してもらうぞ」

 そして、俺は彼女の首筋へと手刀を当てた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...