8 / 35
プロローグ 〜魔王の娘とモンスター育成〜
無能冒険者、スキルを確認する
しおりを挟むスキル、それは個人個人に最適化された固有の魔術のことを指す。
この世界に流れている魔力は生きているだけで人間の体に溜まっていく。
溜まった魔力は体に馴染んでいき、その個体に一番最適だとされた固有魔法を刻み始めるのである。
中には、生まれつきスキルをもって生まれてくるものもいるらしいが、たいていの人間は十二歳から十五歳の間に発現する。魔力が体になじむにはそれだけの時間がかかるということである。
なので、子供のうちから一般的な魔法を練習するのはよくないとされている。
魔術を使うことを体に覚えさせて魔術に役立つスキルを狙う魔術師の家庭などでは違うみたいだが、魔力が体になじむのが遅くなるのが理由である。
俺は幼いころから動物を世話するのが好きだった。多分、その時にチャンバラごっこや冒険者にあこがれて修行なんてしていたら、また変わったのだろうが、俺がやっていたのは犬と戯れたり、牛を拾ってきたり馬の毛繕いをしたり、などなどだった。
そんなこんなで発現したのがスキル<畜産>である。
……冒険者になんてならなければ、普通に役に立つスキルなのは確かなんだけれどもな。
さて、前を歩くセーラの足取りは軽い。
しかし、家の間取りを知っていないために迷っていたのだが……。間違えたところに行きそうになるたびに呼び止めるが、そのたびに体の赤い部分が増える。
玄関の扉を開けるとそこには大きな狼の魔物とゴブリンたちが綺麗に整列して並んでいた。
「ゴ、ゴブリンまで!?」
「待っておりましたぞ、我が主様」
「……いきなりこんなに配下を生み出すなんて、わたくしの眼に狂いはなかったですわね」
やけに礼儀正しいゴブリンが一礼して見せた。
その仕草に、セーラは驚いていた。
俺は、頭があまりついていってなかった。
「我ら、ゴブリン部隊にレジェンドウルフは主様の剣となり盾となり精進しますゆえ」
そう言って胸に手を置くゴブリンたち、やけに堂々としたその姿に俺の頭は痛くなる。
そして狼の魔物も、犬のようにお座りをしながら舌を出してこちらを見つめていた。
「……これは俺のスキルのせいなんだよな?」
「えぇ、その通りですわ。こんなことができるのは、わたくしとの契約でスキルが変化したからです」
そんなセーラの返答に俺はため息をつく。
そして、頭が痛くなってきたついでに、俺はスキル<畜産>に集中してみた。
モンスター育成なんてものが追加されたおかげで、何が変わったのかをきちんと把握しておかないと……。
頭をそれだけに集中されると、最適化された形で何ができるのかが思い浮かんでくる。
―――――――――――――――
スキル<畜産> Lv,15
・ゴブリン召喚(5/5)
・家畜用・モンスター用飼料製作
・家畜・モンスター鑑定把握
・モンスター変換
・隷属化
・モンスター育成
-ここから先はレベルにより制限されている-
―――――――――――――――
ふむ、知らない技能ばっかりである。
飼料製作に関しては、モンスター用のものが追加されただけだろう。
ゴブリン召喚は、おそらく牧場ゴーレムが変化したものだ。
しかし、下の四つに関しては初めて見るものである。
一番最後に思い浮かんだものなど、わからないにもほどがある。普通のスキルでは、レベルによって制限されているなんて出ることはない。
スキルが変わることなんても普通はないから、これもセーラとの婚姻の影響なのだろう。
下の三つで何ができるのか、俺はそこに思考のスポットを狭める。
うん、なるほど。
モンスター変換は自分が持っている家畜や動物をモンスターに変えることができるらしい。
その結果、牧場犬として飼っていたポチ太が魔物化して大きく、凛々しくなってしまったのだろう。
隷属化は野生の魔物を仲間に加えることができるらしい。だが、試すのは少し難しそうだな……。魔物は沈静化して表に出てこないらしいし。
最後のモンスター育成は読んで字のごとくだった。
モンスターの育成にバフ効果がかかって普通に成長するよりも強く育つみたいだった。
ふむ、だいたいは理解できた。
俺はゴブリンたちに向かって手を向ける。
「モンス――――――」
「ちょっとウォレン何をしようとしているの!?」
「そうですぞ、主様!?」
逆転して元に戻すこともできそうだったのだが、なぜか止められてしまった。
俺の牧場ゴーレムを返してくれ……。
「魔物がいたら目立つだろう? 冒険者が攻めてくるかもしれない」
「確かにその考え方は一理ありますわね、できるだけ目立たずに行動したいわ」
「奥様!? 主様を止めてください!」
ゴブリンが流暢にしゃべっているだけですごい違和感だ。
「もう物言わぬゴーレムになど戻りたくありませぬ!」
真ん中の彼が言うと、周りのゴブリンたちも同じように頷いていた。
参ったな……。
「喋れるのはお前だけなのか?」
「そうですぞ、一応我がゴブリン部隊を率いるリーダーということになっております」
「そうか、じゃあお前さえ元に戻してしまえばもう意思疎通を取ることはできないわけだな」
「何でそう戻そうとするのですか!?」
「そうよ、ウォレン。彼らたちは貴方の初めての配下ですわよ。もっと大切に扱わなくてはいけませんわ」
「お前がそう言うならそうするしかないか、だが他の家畜をモンスターにはしないぞ?」
「なぜだめですの?」
「今の俺たちの生命線だからだ。 食料になり、金になる」
「そうですわね、では極楽鳥辺りはどうですか?」
「アイツは元々モンスター枠だろ……」
そう、極楽鳥は普通飼われたりしないのだ。本当は凶暴であり、ダンジョンの深い所に住んでいて滅多に姿を見せることはない。
ここで家畜化してしまった極楽鳥は、傷ついて倒れていたところを俺が助けた。つい、うっかり治療してしまったせいで懐いてしまったのだ。
凶暴とはいったい何だったのだろうか。
その件の鳥は名前を出した途端にどこからかやってきて、俺に体を擦り付ける。
なので、俺はお返しに撫でると気持ちよさそうに目を細めた。
うん、どこから見てもモンスターじゃないな。大きい鳥だ。
「あまりに大人しいので勘違いしておりましたわ、ですが配下を増やすことは必要でしてよ?」
「それが望みならそうするさ。だけど、ここの家畜は生きるのに必要だからな」
「隷属」
俺がそう唱えると、極楽鳥を魔法陣が包む。彼は全く身動きせず、その光に抗うことはなかった。
こいつ、本当に野生を忘れていやがるな。
魔法陣が収束するとともに、俺の頭の中で声がした。
『極楽鳥を配下に加えました』
こんなに簡単に配下を増やせていいのだろうか。
隣をちらりと見るとセーラは満足げに頷いているので、間違いはないのだろう。
「……これが隷属化か、感じは掴めたな」
スキルの仕様確認は重要である。いざ実践の時や、初めて使った時に想像と違っていたら元も子もない。
新たに仲間に加わった極楽鳥を見て、ゴブリンたちは暖かな空気で迎える。
「歓迎いたしますぞ」
「わふっ」
そんな楽しそうにされたら、元に戻す気もなくなってくるな。
特に人間を襲ったりとかはなさそうだし、このまま様子を見てみるか。
「いいかお前ら、魔物になったとしてもこの牧場の雑務はこなしてもらうからな?」
「はっ、心を得ております、主様!」
「わふっ」
大きな狼が犬のように鳴くとそれは奇妙な光景である。
この状態に慣れなければならないのだろうな。
俺は隣で瞳を輝かせているセーラを横目にそう思うのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる