無能冒険者、魔王の娘を助けたら結婚することになりました ~スキル<畜産>にモンスター育成が追加されたので、軍を育てて勇者を蹂躙する〜

凩凪凧

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第一章 元魔王幹部アラブット蹂躙編

無能冒険者、立ち向かう

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 俺が合図をすると、ラビーニャが閃光弾を宙に打ち上げる。

 光は影を包み込み、その体を溶かし始める。
 しかし、影は霧になるものの、すぐにその場で再生し始める。

「なに?」
「まさか、効きませんの!?」
「前とは違う。ここからなら何度でも蘇られさせる」

 アラブットは頬杖をつきながらニタリと笑う。その笑顔に腹が立つ。
「くそ、その顔を早くゆがめてやるよ」
「影に喰われてしまえ、それで私の力となる」

 アラブットが手を払うと影の魔物達が雄たけびを上げる。
 俺たちは部屋の中心に集まり、迎撃態勢をとる。
 
 影をひとまとめにしてこれ以上魔物を生ませないようにしたのだ。
 密集している分、広範囲の魔法に弱いが、おそらく相手はそう言ったものを使わない。
 それに何かあってもこいつらなら反応できる。
 影のスキルは光に弱いのはわかっている

「まとまるとは愚策ですね、『影喰い』ッ!」
 
 まとまった俺たちの影から牙が生え始める。
 広範囲はないと踏んでいたが、読み違えたか。

「セーラっ!」
「わかってますわっ! 光させ、『閃光(ライトニング)』」

 咄嗟にセーラが地面に向かって光を放つ。
 すると、俺たちの影は一瞬、その姿を失い、牙の形を無くしてしまうのだ。

「レズバ! ポチ太! 目の前の魔物を吹き飛ばせ!」
「わふっ!」
「あいよー! 荒糸綴り!」

 レズバの糸は網となり、影の魔物をひとまとめに括りつけ、ポチ太の叫びによって起こった風がそれを吹き飛ばす。
 
「学ばない奴らめ、実体化していない影には物理攻撃は無効だ」
「だからすり抜けられる、そうだろう?」

 アラブットのつぶやきに、俺はニヤリと口角を上げる。

「やれ、ラビーニャ」
「――――――七式、絶空」

 剣を鞘に納めたラビーニャがその両の眼でアラブットを捉える。
 そして静かに、小さくそれを呟くと、一瞬にして姿を消した。いや、駆け出したのだ。

 風に乗り、影をすり抜けていく彼女の姿はもはや誰にもとらえられない。

 残像すら残さない。残るのは彼女が通ったことによって起こる空気の震え、衝撃波のみである。まるで、その場を空気を絶ったような跡が残る。故に、この技の名は絶空と言う。

 神速で近づいたラビーニャは、目にもとまらぬ速さで剣を抜く。
 銀の軌跡すら見せない抜刀。

 だけれども、その刃はアラブットの掌によって受け止められていたのだ。

「……なかなかの太刀筋ですね。ですが、このアラブットには通じない」
「兄さん、しくじりました」

 ラビーニャの額から一滴、汗が落ちる。
 その顔は恐怖に歪み、眉をひそめているようだった。

 それもそのはずである。
 アラブットの影が彼女の体を拘束し始めていたからである。
 
 実態を持ったそれは足に巻き付き、どんどんと上へと動いていく。
 それを切ろうにも、剣はアラブットに握られ動かない。

「ラビーニャ!」
「兄さん、逃げてください」

 彼女はにっこりと笑ってそういうが、そんなわけにもいかない。
 ラビーニャを置いて逃げることは、俺の生きていた意味を、唯一の肉親を失ってしまうことになるのだ。

 俺はポチ太にまたがり、玉座へと急襲する。
 そして閃光弾を片手に、アラブットへと飛びかかった。

「まぬけな、怒りで我を忘れたか」

 アラブットは半笑いを浮かべながら、俺の剣を受け止める。
 何度も打ち付けるも、その場を一歩も動くことはない。
 閃光弾を間に投げ、影を消し去ろうとしても、それは消えることなく、その場にとどまり続けるのだ。

「私の影は特別製だ。 そんなちんけな光で消えることはない。」
「ラビーニャから離れろ!」
「じゃあ、こちらも言わせてもらおうか、セーラから離れろ。 彼女は私のものになる」

 彼の言葉に、俺は腹は煮えくり回る。

「道具みたいに言うな!」
「魔王になるということはそういうことだ」
「お前は先代の魔王を何だと思っているんだ!」
「ただの、甘ちゃんですよ。 だから死んだ。 あなたもすぐ同じようになる」

「その手始めにまずは――――――」

 アラブットの腕が影をまとい始める。それは拷問器具、ギロチンの形を模す。
 俺は何をするかわかって、即座にラビーニャとアラブットの間に入ろうとした。だけれども、俺の足にもまた、影がまとわりついた。

 レズバが糸を放っていた。
 サムトもまた水を放っていた。

 ポチ太も爪を振りかざし、風を呼び起こしていた。

 だけれども、どれも間に合ない。

 セーラが瞼をぎゅっとつむったのが、視界の端で見えた。

 俺の手は、届かなかった。


「……ラビーニャ」
「兄さん、私は兄さんにあえて、本当に幸せでした」

 ギロチンが、彼女の体を切り裂く。
 鮮血が宙に飛びちり、俺の頬へと降りかかる。

 薄れた赤が頬に道を作り、地面に落ちた。

「あぁ、あああああああああああああ!」

 誰の口からでもない慟哭がやけに耳に付く。
 紛れもない俺の口から出ていたのものだったが、誰かの声に聞こえた。

 そんな中、俺の脳内で声が聞こえた。







――――――技能、<魔物化>を使用しますか?
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