無能冒険者、魔王の娘を助けたら結婚することになりました ~スキル<畜産>にモンスター育成が追加されたので、軍を育てて勇者を蹂躙する〜

凩凪凧

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第一章 元魔王幹部アラブット蹂躙編

無能冒険者、対峙する

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 魔王城の中はもぬけの殻も同然だった。
 勇者たちが来た時のものであろうか、戦闘の跡が残っているだけであり、モンスターの影一つありはしなかった。
 ただ、奥の方から押しつぶされそうなくらい濃い殺気が流れていた。
 
「おそらく、アラブットは奥の玉座にいますわ」
「王様気分ってか、奪った玉座に何の意味があるって言うんだ」
「ウォレンの言う通りですわ、お父様の守っていたもの、取り戻しに行きましょう」

 セーラが握り拳を作り、奥を睨む。セーラにとっては仇のうちの一人である。
 怒りに燃えないわけがない。早く殴り込みに行きたいところだろう。それは俺も同感である。
 だけれども、俺の脳みその冷えた部分が足に待ったをかける。

 果たしてアラブットは配下も持たずに俺たちにまんまと襲い来させるだろうか。
 俺が相手ならそんなことはさせない。
 来るとわかっているものに対しては何かしらの対策をとる。罠を仕掛けたり、それ相応の準備をしたり、だから何もないわけがないのだ。

 もう一つ考えられるのは、アラブットが自分の力だけで対処できると考えていることだ。
 大きなカードである竜種十二月の一匹を簡単にこちらに向かわせた。最上位のモンスターと手を組めること自体を含めて、大きな力を奴自身が持っていることは確かだろう。
 この場合、一番厄介なのは前者と後者が一緒の場合だ。
 
 罠などで削られた状態で奴と対峙しなければならなくなる。
 そうなればこちらの勝率も下がらざるを得ない。無論、俺がアラブットならそうするにきまっているのだが。
 
「――――――あれこれ考えても仕方ないか、何か仕掛けられているかもしれない、細心の注意を払って進むぞ」

 俺は四個小隊を一つの中隊にして奥へと歩きだす。
 感知に優れたものが前方に行ってもらうようにしていたのだが、罠の気配など一つもなかったみたいだった。
 こうなれば、己の力に自信がある線で間違いないだろう。


 ***

 奥へと進むたびに、徐々に明かりが少なくなっていく。
 薄暗闇からほぼ何も見えない暗闇に移り変わり、誰も何も言わないまま、黙々と歩き続けた。
 そして、大きな扉の前についた俺たちは、息をのみ、その中へと入りこんだ。


 そこには玉座と、それを灯す篝火が一つ、置かれていた。
 そこに座している男――――――、人型の魔物、それがアラブットであることは誰もが分かっていた。

 牧場に攻め込んできた影の魔物の雰囲気、それと全く変わらないのだ。

 玉座に座ったアラブットは不敵な笑みを浮かべてこちらを見やる。
 頬杖をついたままの彼を俺たちは一様に見上げていた。

「……ご苦労であった、セーラ様をここまで届けてくれるとは」
「前の記憶が消えているらしいな、俺たちはお前を殺しに来たんだよ」
「そうですわ、父上の仇、討たせていただきます!」

 俺たちは武器を構え、アラブットにそれを向ける。
 しかし、彼は微動だにしない。動かないまま、口を開き笑い声をあげる。
 低くくぐもったそれは嫌に耳に障る。

「自身の力量さもわからないのですね、誠に可哀想なことです」
「状況が分かっていないのはそちらの方ではありませんこと?」

 セーラが掌から魔力の球を撃ちだす。
 威嚇のためにはなったであろうそれはアラブットの頭の横を素通りして壁の表面を粉々に砕いた。

 しかし、彼は焦る様子もなくただ面白そうにこちらを眺めているだけである。

「……兄さん、何か変です」
 
 その態度の変わりなさにラビーニャも何か感じるものがあるようで、俺にこっそりと耳打ちをする。

「何か、おかしな気配がこの部屋を立ち込めています」
「主、自分も何か感じます」

 濃い空気、その正体が何かはわからないが、確かにそれは俺も感じていた。
 サムトまでもが戸惑いを見せるそれは、肺の中からキリキリと体を締め付けるような感覚に陥れる。
 それは何かアラブットが見せる余裕からくるものだろうか――――――いや、違う。第六感がそう告げていた。俺たちは追い詰められているのだ。
 徐々に焦り始める俺たちに対して、彼はククッと笑いを漏らす。

「何がおかしい!」
「いや、このアラブットの前にそんなちんけな魔物達で勝ち誇っているのは、ずいぶん滑稽であるなと思ってな」
「すぐに後悔することになるぞ」
「それは既にお前たちがなっているのではないか?」

 アラブットがパチリと指を鳴らすと、突如として部屋が明るく照らされる。
 壁に着いた燭台全てに火が灯される。
 それを見て、俺は息をのんだ。

 なぜなら、俺たちの足元に幾重もの影が映し出されていたからである。

「私は魔王アラブット、影を操りし者。幾万の軍勢でさえも私の前では意味がないのだよ」

 足元の影がぐにゃりとうねり、そして徐々に形をもって浮かび上がる。
 それは俺の影だけでなく、ここにいる俺たちすべてのもので起きていた。

 そしてすぐに意志をもって一人で動き出し、俺に向かって牙を剥き始める。
 こちらの何倍もの数で一斉に、襲い掛かってくるのだ。

「さて、始めようか。 魔王のための虐殺の時間だ」

 玉座に座ったままのアラブットがニヤリと笑っているのを横目に、俺たちは叫んだ。

「――――――今だっ!」
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