33 / 35
第一章 元魔王幹部アラブット蹂躙編
無能冒険者、対峙する
しおりを挟む
魔王城の中はもぬけの殻も同然だった。
勇者たちが来た時のものであろうか、戦闘の跡が残っているだけであり、モンスターの影一つありはしなかった。
ただ、奥の方から押しつぶされそうなくらい濃い殺気が流れていた。
「おそらく、アラブットは奥の玉座にいますわ」
「王様気分ってか、奪った玉座に何の意味があるって言うんだ」
「ウォレンの言う通りですわ、お父様の守っていたもの、取り戻しに行きましょう」
セーラが握り拳を作り、奥を睨む。セーラにとっては仇のうちの一人である。
怒りに燃えないわけがない。早く殴り込みに行きたいところだろう。それは俺も同感である。
だけれども、俺の脳みその冷えた部分が足に待ったをかける。
果たしてアラブットは配下も持たずに俺たちにまんまと襲い来させるだろうか。
俺が相手ならそんなことはさせない。
来るとわかっているものに対しては何かしらの対策をとる。罠を仕掛けたり、それ相応の準備をしたり、だから何もないわけがないのだ。
もう一つ考えられるのは、アラブットが自分の力だけで対処できると考えていることだ。
大きなカードである竜種十二月の一匹を簡単にこちらに向かわせた。最上位のモンスターと手を組めること自体を含めて、大きな力を奴自身が持っていることは確かだろう。
この場合、一番厄介なのは前者と後者が一緒の場合だ。
罠などで削られた状態で奴と対峙しなければならなくなる。
そうなればこちらの勝率も下がらざるを得ない。無論、俺がアラブットならそうするにきまっているのだが。
「――――――あれこれ考えても仕方ないか、何か仕掛けられているかもしれない、細心の注意を払って進むぞ」
俺は四個小隊を一つの中隊にして奥へと歩きだす。
感知に優れたものが前方に行ってもらうようにしていたのだが、罠の気配など一つもなかったみたいだった。
こうなれば、己の力に自信がある線で間違いないだろう。
***
奥へと進むたびに、徐々に明かりが少なくなっていく。
薄暗闇からほぼ何も見えない暗闇に移り変わり、誰も何も言わないまま、黙々と歩き続けた。
そして、大きな扉の前についた俺たちは、息をのみ、その中へと入りこんだ。
そこには玉座と、それを灯す篝火が一つ、置かれていた。
そこに座している男――――――、人型の魔物、それがアラブットであることは誰もが分かっていた。
牧場に攻め込んできた影の魔物の雰囲気、それと全く変わらないのだ。
玉座に座ったアラブットは不敵な笑みを浮かべてこちらを見やる。
頬杖をついたままの彼を俺たちは一様に見上げていた。
「……ご苦労であった、セーラ様をここまで届けてくれるとは」
「前の記憶が消えているらしいな、俺たちはお前を殺しに来たんだよ」
「そうですわ、父上の仇、討たせていただきます!」
俺たちは武器を構え、アラブットにそれを向ける。
しかし、彼は微動だにしない。動かないまま、口を開き笑い声をあげる。
低くくぐもったそれは嫌に耳に障る。
「自身の力量さもわからないのですね、誠に可哀想なことです」
「状況が分かっていないのはそちらの方ではありませんこと?」
セーラが掌から魔力の球を撃ちだす。
威嚇のためにはなったであろうそれはアラブットの頭の横を素通りして壁の表面を粉々に砕いた。
しかし、彼は焦る様子もなくただ面白そうにこちらを眺めているだけである。
「……兄さん、何か変です」
その態度の変わりなさにラビーニャも何か感じるものがあるようで、俺にこっそりと耳打ちをする。
「何か、おかしな気配がこの部屋を立ち込めています」
「主、自分も何か感じます」
濃い空気、その正体が何かはわからないが、確かにそれは俺も感じていた。
サムトまでもが戸惑いを見せるそれは、肺の中からキリキリと体を締め付けるような感覚に陥れる。
それは何かアラブットが見せる余裕からくるものだろうか――――――いや、違う。第六感がそう告げていた。俺たちは追い詰められているのだ。
徐々に焦り始める俺たちに対して、彼はククッと笑いを漏らす。
「何がおかしい!」
「いや、このアラブットの前にそんなちんけな魔物達で勝ち誇っているのは、ずいぶん滑稽であるなと思ってな」
「すぐに後悔することになるぞ」
「それは既にお前たちがなっているのではないか?」
アラブットがパチリと指を鳴らすと、突如として部屋が明るく照らされる。
壁に着いた燭台全てに火が灯される。
それを見て、俺は息をのんだ。
なぜなら、俺たちの足元に幾重もの影が映し出されていたからである。
「私は魔王アラブット、影を操りし者。幾万の軍勢でさえも私の前では意味がないのだよ」
足元の影がぐにゃりとうねり、そして徐々に形をもって浮かび上がる。
それは俺の影だけでなく、ここにいる俺たちすべてのもので起きていた。
そしてすぐに意志をもって一人で動き出し、俺に向かって牙を剥き始める。
こちらの何倍もの数で一斉に、襲い掛かってくるのだ。
「さて、始めようか。 魔王のための虐殺の時間だ」
玉座に座ったままのアラブットがニヤリと笑っているのを横目に、俺たちは叫んだ。
「――――――今だっ!」
勇者たちが来た時のものであろうか、戦闘の跡が残っているだけであり、モンスターの影一つありはしなかった。
ただ、奥の方から押しつぶされそうなくらい濃い殺気が流れていた。
「おそらく、アラブットは奥の玉座にいますわ」
「王様気分ってか、奪った玉座に何の意味があるって言うんだ」
「ウォレンの言う通りですわ、お父様の守っていたもの、取り戻しに行きましょう」
セーラが握り拳を作り、奥を睨む。セーラにとっては仇のうちの一人である。
怒りに燃えないわけがない。早く殴り込みに行きたいところだろう。それは俺も同感である。
だけれども、俺の脳みその冷えた部分が足に待ったをかける。
果たしてアラブットは配下も持たずに俺たちにまんまと襲い来させるだろうか。
俺が相手ならそんなことはさせない。
来るとわかっているものに対しては何かしらの対策をとる。罠を仕掛けたり、それ相応の準備をしたり、だから何もないわけがないのだ。
もう一つ考えられるのは、アラブットが自分の力だけで対処できると考えていることだ。
大きなカードである竜種十二月の一匹を簡単にこちらに向かわせた。最上位のモンスターと手を組めること自体を含めて、大きな力を奴自身が持っていることは確かだろう。
この場合、一番厄介なのは前者と後者が一緒の場合だ。
罠などで削られた状態で奴と対峙しなければならなくなる。
そうなればこちらの勝率も下がらざるを得ない。無論、俺がアラブットならそうするにきまっているのだが。
「――――――あれこれ考えても仕方ないか、何か仕掛けられているかもしれない、細心の注意を払って進むぞ」
俺は四個小隊を一つの中隊にして奥へと歩きだす。
感知に優れたものが前方に行ってもらうようにしていたのだが、罠の気配など一つもなかったみたいだった。
こうなれば、己の力に自信がある線で間違いないだろう。
***
奥へと進むたびに、徐々に明かりが少なくなっていく。
薄暗闇からほぼ何も見えない暗闇に移り変わり、誰も何も言わないまま、黙々と歩き続けた。
そして、大きな扉の前についた俺たちは、息をのみ、その中へと入りこんだ。
そこには玉座と、それを灯す篝火が一つ、置かれていた。
そこに座している男――――――、人型の魔物、それがアラブットであることは誰もが分かっていた。
牧場に攻め込んできた影の魔物の雰囲気、それと全く変わらないのだ。
玉座に座ったアラブットは不敵な笑みを浮かべてこちらを見やる。
頬杖をついたままの彼を俺たちは一様に見上げていた。
「……ご苦労であった、セーラ様をここまで届けてくれるとは」
「前の記憶が消えているらしいな、俺たちはお前を殺しに来たんだよ」
「そうですわ、父上の仇、討たせていただきます!」
俺たちは武器を構え、アラブットにそれを向ける。
しかし、彼は微動だにしない。動かないまま、口を開き笑い声をあげる。
低くくぐもったそれは嫌に耳に障る。
「自身の力量さもわからないのですね、誠に可哀想なことです」
「状況が分かっていないのはそちらの方ではありませんこと?」
セーラが掌から魔力の球を撃ちだす。
威嚇のためにはなったであろうそれはアラブットの頭の横を素通りして壁の表面を粉々に砕いた。
しかし、彼は焦る様子もなくただ面白そうにこちらを眺めているだけである。
「……兄さん、何か変です」
その態度の変わりなさにラビーニャも何か感じるものがあるようで、俺にこっそりと耳打ちをする。
「何か、おかしな気配がこの部屋を立ち込めています」
「主、自分も何か感じます」
濃い空気、その正体が何かはわからないが、確かにそれは俺も感じていた。
サムトまでもが戸惑いを見せるそれは、肺の中からキリキリと体を締め付けるような感覚に陥れる。
それは何かアラブットが見せる余裕からくるものだろうか――――――いや、違う。第六感がそう告げていた。俺たちは追い詰められているのだ。
徐々に焦り始める俺たちに対して、彼はククッと笑いを漏らす。
「何がおかしい!」
「いや、このアラブットの前にそんなちんけな魔物達で勝ち誇っているのは、ずいぶん滑稽であるなと思ってな」
「すぐに後悔することになるぞ」
「それは既にお前たちがなっているのではないか?」
アラブットがパチリと指を鳴らすと、突如として部屋が明るく照らされる。
壁に着いた燭台全てに火が灯される。
それを見て、俺は息をのんだ。
なぜなら、俺たちの足元に幾重もの影が映し出されていたからである。
「私は魔王アラブット、影を操りし者。幾万の軍勢でさえも私の前では意味がないのだよ」
足元の影がぐにゃりとうねり、そして徐々に形をもって浮かび上がる。
それは俺の影だけでなく、ここにいる俺たちすべてのもので起きていた。
そしてすぐに意志をもって一人で動き出し、俺に向かって牙を剥き始める。
こちらの何倍もの数で一斉に、襲い掛かってくるのだ。
「さて、始めようか。 魔王のための虐殺の時間だ」
玉座に座ったままのアラブットがニヤリと笑っているのを横目に、俺たちは叫んだ。
「――――――今だっ!」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる