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膕館啻

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黄金色の約束

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ホームまで戻ると、今の出来事がまるで何年も前の事のように思えた。夏休みに少し遠くまで冒険したこと、校庭で走り回ったあの頃と並べたい思い出の一つになるような、そんな懐かしさと切なさが混じっていた。
まさかロディーがこんなところにいるなんて驚いたけど、純粋に嬉しかった。小さいときはいつも一緒にいたのに、どうして忘れてしまっていたんだろう。そういえばその頃、誰かと一緒に遊んでいたような……なんだかとても大切な誰かを忘れている気がする。
……女の子。そうだ。金色の髪で……青い目の女の子だ。
「どうかしましたか?」
「ううん……ちょっと思い出したんだ」
「彼と遊んでいた日のことですか」
「……うん。そんな感じ」
語尾が少し弱まったと横を向くと、彼女はさっきよりも体のサイズが小さくなっている気がした。飛んでいるから分かりづらいけど、俺とほとんど同じ背丈だったはずだ。
電車に乗らず歩いてみると、空は夕焼けに染まっていた。目の前は黄金色に染められた小麦が絨毯みたいに、どこまでも続いている。
「ここも綺麗だな……」
風で靡く草の中を歩き、その上に座った。静かで心地良い。少し遠くに、小さい家が見えた。
「あそこにはだれか住んでるの?」
「ううん。誰も住んでいないわ。あのお家には扉がなくて、時々動物さんたちがここら辺に落ちてる木の実とか、人魚からもらった貝殻を持ってくるの」
「可愛いな、それ」
「うん。でも……その貝殻とかがいつの間にかペンダントに変わってたりするのよ。凄く素敵な作品なんだけど、誰も作ってる人を見たことがないの。不思議でしょ?」
「え、ここの人じゃないの」
「さぁ、七不思議ってことになってるわ」
「……そっか」
しばらく二人で空を見つめる。沈黙の中で、さわさわと麦が揺れる音だけ聞こえていた。
「あの……」
不意に呟いたその顔は、ぼんやりと上を見つめている。
「ここから出た世界ってどんな感じなんですか?」
「え?」
「……あ、急にごめんなさい。でも私はここから出ることはないから」
「どんな感じって」
俺からしたらここも現実の世界内だけど、一度も外を見たことがない彼女には、想像がつかないのだろう。
「私はここも好きだけど、普通の世界も見てみたい。マスターや貴方がいた場所を……」
「うん。ここより普通でそんなに面白いことが毎日起こるわけじゃないけど……。誰かにとって大切な人が生まれる場所だ。それに世界はもっともっと広くて、俺も行った場所なんてほんの少ししかないよ」
「そう……いいな」
「リリーは出ることを禁止されているの?」
くすっと体を揺らすと、少しだけ泣きそうな顔で笑った。
「私はここで生まれて、生きていくしかないの。別に誰かにそう言われたわけじゃないけど。外の世界から沢山の人が来てくれて、私はその人達が幸せになる為のお手伝いができる。だから本当はこの場所だって笑顔で溢れるはずで……私はその為に頑張ってきたつもりだったのに……」
「大丈夫だよ。この場所を笑顔で溢れる場所に、きっとできる。楽しいものは沢山あるんだ。俺だってここで遊ぼうって約束した友達がいる。まだ、やれるよ」
「そうね。貴方に言われたら、本当にできそうな気がしてきた」
その笑顔を見ていたら、さっき感じた違和感が確信に変わった。
「リリー……体が小さくなってないか」
「え? もしかしてもう……そんな早すぎる」
「どういうこと?」
「あ、えっと……ちょっと力を使うと戻すのに時間がかかっちゃって。だからその分体を縮めて力を蓄えておくって……そう、省エネって奴よ!」
「それって大丈夫なの?」
「全然心配いりません!」
「なら良いけど……無理しないでね」
「は、はい……ありがとう」
「俺も、リリーがいてくれなきゃ……困るし」
「……うん」
頬が染まっているのは夕日のせいだろうか……なんてちょっとベタすぎるかな。わざとらしく口笛でも吹いてみる。下手くそだけど。
リリーの為にも、もちろんあいつらの為にも……自分の為でもあるから、早くこの遊園地をまともな場所に戻したい。そして今までの単純で普通だけど、未来がある俺の日常を大事にして生きていきたい。もっと沢山の世界を知って、誰かの為に生きる。これからも派手なことは無いかもしれないけど、楽しいこともちゃんとあるはずだ。
この場所に来てからそんなに経っていないのに色んなことがあったせいか、今までのことがとても懐かしく、愛おしいものに思えていた。
「主……アリスのところへ、行こうか」
「はい、了解です!」
視線を合わせて、頷いた。
「でもマスターのところは簡単に入れないように、結構厄介な道になっているんですよ」
「厄介か。それはまた嫌な予感がするけど……。でも、もう何見ても驚かない気がする」
また光の輪ができた。手を取って、その中へ入る。もう大丈夫だ。
さぁ……行こう。
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