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月夜のパレード
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観客のいない舞台に現れた光の円
今、貴方の為だけに開かれる幕
一度きりの夢、次は目覚めない
たった一人の演者は、不規則で不可思議な踊りを繰り返す
こちらを向いた
ニコリと笑い、誰かに手を振る
夢の始まりの合図
静寂の中で奇妙な音が始まった。
黒に染まった世界で、タッタタッタと不規則なリズムを響かせ、聞いたこともないような歌を口ずさんでいる。
光の円がその音の正体を照らした。影は男の何倍にもなり、赤いカーテンに蠢いている。
何かに気がついた、或いはそう演技をしながらこちらを向いた。
こちらとはどこか? 疑問を持つ前に影の男が笑った。
「どうも、ふふ……。もう来られてしまいましたか。まだここは準備中なのですが、仕方ありませんね。貴方の為に用意した舞台がもう少しで完成となります」
そこで一度口を閉じ、シルクハットを胸に掲げた。
「それでは準備ができるまでこんなお話でも……」
男の影は消えていた。
【月夜のパレード】
子供の時に聞かされたお話だ。
夜遅くまで起きてると、どこからかパレードがやってきて、子供達を連れて行ってしまうというお話。
だからお母さんは早く寝なさいって言うんだ。けどそれは子供をしつける為の、ただのおとぎ話でしょう?
本当に僕を連れて行ってくれるなら……あの場所まで行けるのかな。
笛の音が遠くから聞こえた。
あれはなんだろう? 数人の黒い影。何かに乗ってこちらに近づいてる。
そんなまさか……だってあれは、ただのお話のはず……。
――大人には見えないんだって。
――笛の音を聞いたら、絶対逃げられないらしいよ。
行っちゃダメだ。ダメだと頭で繰り返す。それでも体が勝手に動いてしまう。分かっているのに、足が止まらない。
――ついに僕らのところにも来たらしい。
黒い影に僕らを包み込んでしまったみたいだ。
仮面の男に近づくと、手を差し出された。僕はそれを握り返す。今まで生きてきた中で一番、ドキドキしていた。
仮面の男に振り返ると、指をそっと口に当てた。
さぁ、物語のはじまりだよ。
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