甘え嬢ずな海部江さん。

あさまる

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人は、自分自身が思っているほど自身のことを見ていない。
思い過ごし。
気にしすぎ。
以前、テレビで誰かが言っていた。
その事を思い出し、反芻する。

自意識過剰。
そう自意識過剰なだけなんだ……。

もはやそれは、自分自身に対しての洗脳であった。
何度も何度も脳内で反芻する。
しかし、それのお陰で彼女は乗り越えることが出来た。

瀬部高等学校。
そう書かれた少し色褪せた銘板。
それがとり付けられた校門を潜る生徒達。
新入生達は、クラス分けを見に行った。
そしてその後、入学式の為に体育館へ向かうのであった。


先ほどから多くの視線を感じる。
そして、それらを送っている者達は、皆何かを言っているようだ。

自意識過剰。
そう、自意識過剰なのだ……。
再度自身を洗脳すし、落ち着かせようとする翔子。

既に準備されているパイプ椅子。
新入生の為に用意された場所に向かい、座る。


「うわぁ……綺麗……。」

「凄い、モデルみたい……。」

ほら、自意識過剰であった。
安堵する翔子。
つい、ため息をしてしまうのであった。

誰か違う人のことを見ているのだろう。
そうに違いない。

彼女の耳に届いた数々の誉め言葉。
まさか自分のことを言われているなどとは思わない翔子であった。
しかし、もちろんそれらの賛美の言葉は全て彼女へ向けられたものであった。

誰かが注目されているお陰で自分が見られることはない。
そう勘違いした翔子。
幸い、その勘違いが彼女の心に安寧をもたらした。


入学式が始まった。
生徒会長の挨拶や、新入生代表挨拶。
そこから校長の話が始まるといった、スタンダードなものであった。


初めは良い緊張を保てていた。
慣れない場所。
知らない人に囲まれている。
しかし、それもいつまでも続かない。

うとうと。
頭が上下に動く。
舟を漕いでいるような動作。
翔子だけではなく、何人もの生徒達が彼女と同じような状態になっていた。


上下にこくんこくんと揺れていた翔子。
それが、いつの間にか左右になっていた。
その振り幅が次第に大きくなっていく。

……コツン。
そして、隣に座っている生徒の肩に、自身の頭をぶつけてしまった翔子。

一気に眠気が吹っ飛んだ。
しまった。
すぐさま姿勢を正す。

「あの、す、すひっ!すびま……ごべ、ごめんなさい……。」
あわあわ、おろおろ……。
噛み噛み。
慌てて上手く声がでなかった翔子。
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