蟻喜多利奈のありきたりな日常2

あさまる

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蟻喜多利奈と親戚との関係

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「おー……。」
小さな感嘆。

バスに揺られて移動している利奈。
それは、そんな彼女の口から漏れ出た声だ。

窓の外を眺めている。
そこには、山々の連なる雄大な自然が広がっていた。

彼女の乗っているものは、決して貸切ではない。
それなのに彼女の他に、乗客はいない。
それほど、今から彼女の向かう方向へ行く者はいないということだ。


それからまたしばらく行った。
終点。
ようやく降車した利奈。

「……到着ー!」
身体を反らし、呟く。

ポキポキポキ……。
小気味の良い音が身体の節々から鳴る。
長時間、座り心地の悪く、狭い座席に座っていたのだ。
無理もない。

深呼吸。
新鮮な空気が彼女の肺を満たす。

バスが去り、彼女の耳に届くのは、その雄大な自然の中にいる鳥や虫の鳴き声。
そして、風に靡く木々の音のみであった。

「さて……。」
そういって、歩き出す。


そういえば、とふと思うことがあった。
ここへ来るのは何年振りだろう。

高校進学により、一人暮らしをしていた。
母方の祖父母の住む村。
一人で住む前からここにはあまり来ていない。

御亭御蔵村。
それがこの場所の名前だ。

覚えているのは、本当に小さな頃に片手で数えられるほどしかない。
そんな場所に久しぶりに来た理由。
それは、彼女へ届いた一通の葉書が原因であった。

「……さてさて、天菜お姉ちゃんはもう来てるかな?」
ボソリ。
呟く。

久しく来ていなかった。
しかし、それでもなぜか見慣れた景色。
幸いなことに、何もかもが変化していなかったようだ。
だからだろうか。
妙な安心感が、この場所にはあった。

クルクルと回っている。
勢い良く水を動かしている。
年季の入った水車は、今も現役であるようだ。

有鞠天菜。
葉書の送り主で、この村に未だに住む彼女の親戚だ。

親戚という曖昧な関係でしかいえないのは、利奈自身が把握出来ていないからだ。
祖母の姉の娘の娘かなんだと言っていた気がする。
しかし、それも曖昧だ。
だから、年上ということで、彼女のことを親戚の姉と仮定して接していたのだ。

天菜も彼女のことを親戚の妹と思っていたようで、随分と可愛がってくれていた。
ふと、思い出す。
不思議なことに、まるで昨日の出来事かのように鮮明に思い出すことが出来た。

おかしな感覚だ。
しかし、それに対する疑問よりも、嬉しさが勝ってしまった。
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