純製造型錬金術師と黄金の鷹

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21.ステルス機能

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 王都へ行く――。

 ジークの宣言にヴィクトールさんは眉をひそめたけれど、反対はしなかった。

 ……というより、ジークにはそれ以外の選択肢がないんだよね。
 貴族たちを説得して味方に引き込むという方法もあるかもしれないけれど、国王や公爵、そして側近のディートさんの身柄を抑えられている以上、悠長にやっているだけの時間がない。身分ある二人はともかく、ジークの側近であるディートさんは、命自体が危ない。

「作戦がおありですか」

 ヴィクトールさんが期待の目でジークを見ているけれども。
 短い付き合いの私ですが一つ助言したい。
 この王子様ね……、賢くて思慮深いように見えるでしょ? 見えるよね?

「ないよ。正面から乗り込む」

 ――脳筋なんだよね。

「殿下……」
「王宮に外からこっそり忍び込む、のは難しい。不可能ではないけれど、結界があるからね。侵入した瞬間に察知される。中立の貴族たちに根回ししている時間はない。だったら力ずくで押し切るだけだ」

 王宮には、いくつもの結界や魔術が施されている。
 そのうちの一つは、侵入を防ぐものではなく、誰が入ったか、どこにいるのかまで把握する、一種レーダーのようなものらしい。
 レーダー。
 ……ふむ?

「ちょっと待って、ジーク。その結界を誤魔化す装備とか出来ないかな」
「え?」
「認識阻害の外套があるんだから、ステルス機能つき外套があってもいいじゃない?」
「ステルス?」

 しまった、この世界にステルスの概念がないや。えっと、何て言うんだろう。
 ステルス。隠密。隠密機能? 電波吸収機能?
 いや絶対伝わらない。

「ええと、結界に認識されない、とか、虫とか鳥とかと認識を間違えさせるとか、そういう機能」
「虫」
「その結界は人だけを感知するんですよね? 虫や犬猫にまで反応してたら警備にならないし。何で見分けているんだろう? 大きさ? 動き? そこが分からないんだけど……レーダー、いや、結界にはものすごく小さな生き物として認知されるようにとか、できないかなって」

 ヴィクトールさんが、初めて納豆を口に入れた人みたいな、何とも言えない表情で私を見た。
 王子を虫と認識させるなんて不敬ってこと?
 だったらスマン。

「殿下。お連れ様は見た目の可愛らしさに反してとんでもない事を考えるお方ですな」
「歩くびっくり箱だよ」
「結界の認識を誤魔化す……か」

 どうやら今まで、結界を破る事ばかりを検討していたらしい。でも、外部から結界を破るのは、優秀な魔術師を大量動員しても難しい事なんだって。まあ、だからこそ王宮に張られている訳なんだけど。

 ヴィクトールさんは何かを考え込んでしまった。その目が忙しく動いているところを見ると、どうすればそういう装備――あるいは装置が作れるかをシミュレートしているようだ。
 何だろう。何故か親近感を覚える。

 ヴィクトールさんの様子にジークは肩をすくめ、私に紅茶とお菓子を勧めた。

「ヴィクトールがこうなると長いんだ。お茶でも飲んでくつろいでおいで」
「うーん、錬金か鍛治の範疇だったら私も考えたいのになぁ」

 悲しいかな、私はその結界の詳細を知らないから、何をどう組み合わせればいけるのか、ちょっと見当がつかない。
 こう、姿を消す光学迷彩的なものなら、あれとあれを組み合わせればいけるんじゃないか……みたいなイメージは沸くんだけどね。それだとレーダーには捕捉されそうな気がする。レーダーの仕組みさえ分かれば、何か役に立てるかもしれないのにな。

 ジークは優雅に紅茶を飲みながらつぶやいた。

「こういう人間に縁があるのは何でだろう。待つのはそんなに得意じゃないんだけどなぁ。女神の試練かな」

 試練……。




 そして、恐ろしい事にステルス機能付きマントは数時間後、完成してしまった。
 聞けば、クライネルト公爵家は、魔術師を何人も排出している名門なんだそうだ。で、ヴィクトールさんはその長男(ディートさんは三男なんだって)で、魔術の研究に没頭している、ガチの魔術オタク。その上天才的な才能を持っていて、そもそも王宮の結界も彼の研究成果なんだとか。
 三度の飯より魔術が好きで、公爵家を継ぐより研究に一生を奉げたいと本気で言っているような人なんだそうだ。
 いやー、公爵の地位蹴りたいとか、オタクって本当しょうがないよね。

 ……ん? いや、何でこっち見るの?
 お前が言うなって?
 まぁ、……はい。

 しかし、まったく新しい魔道具を数時間で作っちゃうのは凄すぎる。元々効果のある素材を組み合わせて使用する錬金術と違って、魔術は理論の組み立てから入る(らしい)から、普通はかなりの時間が必要な筈なんだけどね。

「こちらを身にまとえば、結界に補足されずに行動ができるはずです。ただし、効果は最大でも一日。それ以上は込めた魔力がもちませんから」

 ヴィクトールさんは、私たちを出迎えた時の紳士然とした姿からかけ離れた、血走った目で外套を差し出した。
 そして、ニヤリと笑う。
 ちょっと怖い。

「この騒動が終わったら、王宮の結界を、この魔道具に対応できるものに改良しますからね……!」

 マッチポンプ!
 ジークは慣れているのか、苦笑気味に外套を受け取った。

「一日か。ワープポータルは使えないんだろう?」
「使えない事はありませんが、王都の門の前に出てしまいますからね。正面からの殴り込みと大差なくなります」
「じゃあ馬かな」
「えっ、私、馬乗れないです」

 私はお留守番、な訳はないよね?
 だって、ジークを王都に送り届けるのは私のクエストなんだし。
 心配になったけれど、ジークはすぐにそれを打ち消してくれた。

「私と相乗りすればいいよ。それほど飛ばさなくても大丈夫な距離だし、何とかなるだろう」

 相乗りは相乗りでちょっと心配だけどね……。本当にまったく経験がないんだけど、上手く乗れるだろうか。
 そう思いながらジークに続いて立ち上がる。

「……あれ? 3着あるのは何で?」
「何でとは?」

 ヴィクトールさんがきょとんとした。

「殿下と、ナナミ殿と、私と。3着で合ってますよね?」

 あれ、一緒に行くのか。結構危険だと思うけど。
 まぁお父さんと弟さんの救出だし、ヴィクトールさんがお留守番というのは厳しいのかな。
 と思ったら、魔術オタク氏はこうのたまった。

「馬脚強化の魔術が組みあがったので試したいのです!」

 お、おう。
 ドン引いた私に気づいたのか、瞬き一つでオタクは紳士の仮面を取り戻した。装着早い。プロだ。
 ヴィクトールさんは胸に手を当て、しおらしい表情を作った。

「一刻も早く父と弟を救出したいですからね」

 嘘つけ。
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