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入学前の春休み
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春といっても、三月の下旬はまだ少し寒い。駅で行き交う人を見ながらレニアはそう思った。茶色のコートとリュックでカジュアルに見える若い人や、紺色のコートでシックに見える上品な婦人を眺めながらもう少し厚いコートを着てくれば良かったと彼女は思う。
動いている彼らに比べ、ベンチでただ座っているレニアの方が寒く感じる。
レニアは列車乗り場の中央にある横長のベンチに一人腰掛けていた。
予定通りだともう列車が着く頃だ。
レニアが立ち上がって線路の方を見ると、四角い車体が徐々に大きくなってくるのが見えた。
降りる乗客の邪魔にならない程度に車体に近付いてレニアは待ち人が姿を現すのを待った。よく見知った金髪が見えると彼女は声をかける。
「兄さん、久しぶり。元気にしてた?」
「久しぶり、レニア。
わざわざごめんな、僕の荷物は多くないから、サムの方を手伝ってやってよ」
金髪の青年は後ろから少し遅れて出てきた友人を見て言った。
荷物が邪魔をして思うように出られなかったらしい。
レニアはサムを見て苦笑した。
「お久しぶりです、サムさん。
今年も多いですね」
「久しぶり、レニア。毎度すまないな。
バスの停留所まででいいから」
サムはレニアに優しく笑いかけた後、すぐ横を向いて睨みをきかせた。
「列車降りるまで手伝ってくれたっていいだろう、クレン。自分はスマートにいい兄貴面しやがって」
「失礼だな、学校から駅までは誰が手伝ったと思ってるんだよ」
そういいながらクレンもサムの荷物を少し持つ。あらかじめサムの荷物を持つことは分かりきっていたので、彼は自分の荷物を少なくまとめていたようだ。
三人で分担してようやく一人分に見える荷物を持ち、レニアたちは駅の改札を抜け、駅から一番近い停留所にサムの荷物を運んだ。
「家に着くのは何日くらい?」
クレンはバスの時刻表を見ているサムに聞いた。
「叔母さんの家に一泊して、次の日の夜に着くかな。
全く、田舎は遠くて大変だよ。
寮が開いてるんなら残るんだけどね」
「ついでに、お土産もね。
まぁ、サムだけが首都に旅行に来ているみたいなもんだしね」
「バカンスじゃなくて、学校に通学な」
サムは即座に訂正した。
サムとクレンは普段は首都に設立している学校の寮で生活していた。
長期休暇に入ると寮は開放しないため、サムのような地元が遠距離な生徒でも帰省しなくてはならない。
その度にサムは家族と途中で泊まる叔母の家にお土産を買っていくので荷物が多くなるのだ。
「ともあれ、今学期もお疲れサム。春休み明けに学校で会おう」
「あぁ、毎度すまないな。春休み明けにまた。レニアも新学期からは学校で会えるんだっけ、春からよろしくな」
三人で短い挨拶をし終えると、レニアとクレンは自分たちの帰路に向かって方向を変えた。
四月からレニアはクレンとサムと同じ学校に通うことになっている。
学校の名は「武術学校ギリカ・カーレ」、国内で三校しかその名を名乗ることを許されていない、高度な武術と魔術の実践的な演習授業を実施する武術学校の一校である。
その生徒数は国一番を誇り、卒業生は宮廷魔術師や王国兵士など国防に携わる職種に就く者が大半だ。
武道と魔術を志す者が集うその学び舎は、言わずと名の知れる名門校であった。
レニアにとって、その様な規模の学校に入学するのは、期待よりも不安が勝り、春休みを前に既に緊張しているの無理もないと思うしかなかった。
動いている彼らに比べ、ベンチでただ座っているレニアの方が寒く感じる。
レニアは列車乗り場の中央にある横長のベンチに一人腰掛けていた。
予定通りだともう列車が着く頃だ。
レニアが立ち上がって線路の方を見ると、四角い車体が徐々に大きくなってくるのが見えた。
降りる乗客の邪魔にならない程度に車体に近付いてレニアは待ち人が姿を現すのを待った。よく見知った金髪が見えると彼女は声をかける。
「兄さん、久しぶり。元気にしてた?」
「久しぶり、レニア。
わざわざごめんな、僕の荷物は多くないから、サムの方を手伝ってやってよ」
金髪の青年は後ろから少し遅れて出てきた友人を見て言った。
荷物が邪魔をして思うように出られなかったらしい。
レニアはサムを見て苦笑した。
「お久しぶりです、サムさん。
今年も多いですね」
「久しぶり、レニア。毎度すまないな。
バスの停留所まででいいから」
サムはレニアに優しく笑いかけた後、すぐ横を向いて睨みをきかせた。
「列車降りるまで手伝ってくれたっていいだろう、クレン。自分はスマートにいい兄貴面しやがって」
「失礼だな、学校から駅までは誰が手伝ったと思ってるんだよ」
そういいながらクレンもサムの荷物を少し持つ。あらかじめサムの荷物を持つことは分かりきっていたので、彼は自分の荷物を少なくまとめていたようだ。
三人で分担してようやく一人分に見える荷物を持ち、レニアたちは駅の改札を抜け、駅から一番近い停留所にサムの荷物を運んだ。
「家に着くのは何日くらい?」
クレンはバスの時刻表を見ているサムに聞いた。
「叔母さんの家に一泊して、次の日の夜に着くかな。
全く、田舎は遠くて大変だよ。
寮が開いてるんなら残るんだけどね」
「ついでに、お土産もね。
まぁ、サムだけが首都に旅行に来ているみたいなもんだしね」
「バカンスじゃなくて、学校に通学な」
サムは即座に訂正した。
サムとクレンは普段は首都に設立している学校の寮で生活していた。
長期休暇に入ると寮は開放しないため、サムのような地元が遠距離な生徒でも帰省しなくてはならない。
その度にサムは家族と途中で泊まる叔母の家にお土産を買っていくので荷物が多くなるのだ。
「ともあれ、今学期もお疲れサム。春休み明けに学校で会おう」
「あぁ、毎度すまないな。春休み明けにまた。レニアも新学期からは学校で会えるんだっけ、春からよろしくな」
三人で短い挨拶をし終えると、レニアとクレンは自分たちの帰路に向かって方向を変えた。
四月からレニアはクレンとサムと同じ学校に通うことになっている。
学校の名は「武術学校ギリカ・カーレ」、国内で三校しかその名を名乗ることを許されていない、高度な武術と魔術の実践的な演習授業を実施する武術学校の一校である。
その生徒数は国一番を誇り、卒業生は宮廷魔術師や王国兵士など国防に携わる職種に就く者が大半だ。
武道と魔術を志す者が集うその学び舎は、言わずと名の知れる名門校であった。
レニアにとって、その様な規模の学校に入学するのは、期待よりも不安が勝り、春休みを前に既に緊張しているの無理もないと思うしかなかった。
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