双星のギリカ・カーレ

 梨々帆

文字の大きさ
11 / 13

掲示板事件

しおりを挟む
 レニアとナップは二人して流されるように階段を下がり、意識せずともアリシオ郡の掲示板前まで来ていた。
寮の掲示板がある部屋は、生徒が共通して使える憩いの場(その部屋のことを共同部屋と呼んでいる)となっている。
 その共同部屋の掲示板には大半の一年生たちが群がっている状態が広がっていた。
二人も見ようとしたが予想外にも多くの生徒が集まっていたので諦めた。
しかし、幸いにもはぐれてしまっていたシュナベルとマレーシャ、さらにはマルスとレセンまで再会することができた。
四人も群れの中に入れなかったらしく、群がる一年生たちのはじを突っ立っている。
 レニアとナップが彼らに近付くと、マレーシャが真っ先に声をかけた。

「レニア、途中でいなくなっちゃうんだから。あたし、寮までの帰り道も探したのよ」

「ごめんね、マレーシャ。二人はずっと一緒だったの?」

「そうよ、途中でマルスとレセンと一緒になったの。レニアはナップと一緒だったのね」

「あぁ、俺が見つけたんだぜ」

ナップはなぜか得意気に言ったが、彼があの人混みで見つけられたのはレニアだけだ。

「それで、二人は掲示物を見に来たのかな?」

シュナベルがそうだったらお気の毒というような顔をして言った。
掲示板の前の群れはまだ収まっていない。
マルスはまだ引かないのかという顔をして掲示物の方を見張っている。

「せっかくだから対抗試合出てみたいしさ」

「僕もそうしたいと思っているんだけど、
この人混みじゃ何の情報も得られそうにないね…」

「なら、明日にしましょうよ。
明日なら掲示板の前には人がいないだろうし、今見るよりもゆっくり見れるとおもうわ。とにかく、ここでずっと待ち続けるのは時間の無駄よ」

レセンは待つのが嫌なのか、ただ単に時間の浪費を許せない性格なのかは分からないが、不機嫌そうに説得力のあることを言ってきた。
まだマルスとナップは掲示物に未練がありそうだったが、彼女が言うことはもっともなので六人はそれぞれの自室に戻ることにする。

 部屋に戻って早々、レセンはベッドの海にダイブするが如く、勢いよくシーツにその身を沈ませた。先程の発言からして、眠たいから早く部屋に戻りたかったのかもしれない。
レニアとマレーシャは彼女をいつ起こそうか話し合いながら、互いのベッドに腰掛けた。

「あたし、もし対抗試合に出場するならレニアやマルスと一緒に出たいわね」

「みんなが出るなら私も一緒に出ようかな。
明日六人で相談してみるのがいいかも」

レニアは自分の中で対抗試合に対する興味が高まってきたのを感じていた。
始めはみんなが出場する気でいたので参加するのも悪くないと思っていたが、ここまで自分の周囲を突き動かしているのだ。
きっと期待以上のものなのかもしれない。
 しかし、レニアたち三人が次の日の朝食堂に向かう途中、共同部屋の群がりはまだおさまっていなかった。
というよりも、昨日よりひどい。
昨日は掲示板の内容を見た順に人が入れ替わったりしていたが、今日はみんなその場に立ち止まるばかりだ。みるみる内に群れは大きくなって、朝の通行止めをした。

「みんな、まだ掲示板を見ていないのかしら?」

レセンが相変わらず眠そうに呟いた。

「いいえ、様子が違うわ」

レニアはキッパリと言う。
マレーシャは手を大きく振って、先に共同部屋に来ていたマルスとシュナベルを呼び寄せていた。

「一体何があったっていうのよ?」

朝から道が混雑していて少しイライラした声でマレーシャが言った。
女子にとって朝の時間は貴重なのだ。

「今、ナップが様子を見に行っているよ」 

周りの生徒をかき分けてナップがこっちに戻ってくるのを確認しながらシュナベルが言った。
その横で昨日よりも更に残念そうな顔をしたマルスが群衆を恨めしそうに見ている。
戻ってきたナップはボサボサに乱れた髪を撫でつけながら、微妙な顔をつくった。

「えー、何て言うか、郡の掲示板が荒らされたらしい」

「荒らされた?生徒の仕業ということかい?」

「それが、人じゃないみたいな感じらしい。
何か、足跡が掲示板中に付いていた」

「足跡?!」

五人は一斉に驚いて声をあげた。
いつも眠たそうなレセンでさえ、眠気が吹き飛んだように目を見開いていた。

「えーと、棒みたいな指が三本。例えば、鳥みたいな…。それで対抗試合のも、もちろん他の掲示物もその足跡に踏まれまくってた」

        鳥…?

 ナップが寝ぼけているとは思わないが、五人は不思議そうな表情を彼に向けた。
ナップは今見てきたものを極力分かりやすく伝えようと頭を捻っているが、彼自身が自分の見たものを疑っているような感じだ。

「それじゃ、今は対抗試合のことは何もできないわね。授業前の休み時間とかに他の子に聞きましょう」

マレーシャは聞くだけ聞いてテキパキと言うと、レニアとレセンを引っ張って食堂へ急いだ。早くしないと彼女のポニーテールの先っぽをくるんと可愛く巻き上げる時間がなくなってしまいそうだからだ。
 レニアはマレーシャに引っ張られながらも、自分もあの謎の足跡を見てみたいと思っていた。
昨日の夜、アリシオ郡の寮はいつもと変わりなかった。掲示板がある共同部屋では、昨夜も消灯近くまで何人もの生徒がそこで思い思いの時間を過ごしていたのだろう。
就寝の見回り中に何かあったような騒ぎもなかったし、鳥の鳴き声なんて朝から聞こえさえしない。この寮内に隠れてペットを飼っている者がいるのなら、それば今日の登校までに掲示板を見れる可能性と同じ位低い。
 案の定、レニアたちが揃って登校する頃には、掲示板の前には簡素な低い柵で囲いができていた。足跡で汚された掲示物は全て剥がされ、掲示板やその近くの壁にも足跡がついている。

「これは掃除が大変だな」

通りかかりながらナップが小さく呟いた。



 













 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

女神に頼まれましたけど

実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。 その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。 「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」 ドンガラガッシャーン! 「ひぃぃっ!?」 情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。 ※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった…… ※ざまぁ要素は後日談にする予定……

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

処理中です...