双星のギリカ・カーレ

 梨々帆

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対抗試合

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 週明けの月曜日、ギリカ・カーレの朝は学校の大広間で行う全校朝礼から始まった。
まず校長から朝の挨拶、その後に郡将会議での連絡事項を今週はステマラ郡の郡将が伝え、最後に一年生の今日の郡学は三郡合同で校舎八階で行うことが伝えられた。
 ギリカ・カーレに来て一週間と少し、レニアたちは学校生活に少しずつ慣れつつあった。
レニアは自分を含めマルス、ナップ、シュナベルの男子三人と同室のレセンとマレーシャの六人で行動をしていることが多かった。
 しかし、一週間経ったとしてもアリシオ郡以外の生徒と関わりを持つことは無かった。
この六人で行動をすることが大半なためなのか分からないが、ギリカ・カーレ全体の雰囲気が彼女たちをそうさせないように感じる。
上級生から郡監の先生まで各郡で対抗意識を持って過ごしていた。
 その分、郡内での結び付きは強かった。
午前中の授業は四回のうち二回、ステマラ郡と合同だったが、教室を二つに分けて半分はアリシア郡、もう半分はステマラ郡といった風になっていた。
 それでも、アリシオ郡側にいたレニアは隣に仲の良い友達がいたので、教室に越えられない一線があることを気にも止めなかった。
やっと慣れてきたアリシオ郡の仲間はユーモアとウィットに富み、真面目で勤勉な生徒が多く寮内でも授業でも楽しかった。
 午前中の魔術魔法陣学の授業で、レニアはレセンに計算ミスで円が一センチ大きいことを指摘してもらったり、天文学ではマルスの天体の図がよく書けているとカークライン先生が褒めた。レニアたちもマルスのノートを度々見せてもらっていたため評価は高く、アリシア郡の生徒が優秀なことに先生は自慢気だった。
 午後からの剣術基礎と対人格闘剣術はレセンが得意と感じられる科目だった。
的斬りとウェルゼン先生の視線にも随分慣れ、今は正式な決闘の仕方を習っていた。
今日はそのまま模擬試合までいったが、レニアは見事な剣さばき(練習なので木剣)で三回中、三勝した。マレーシャは最初こそ負けたが、残り二回は負けん気で勝ち、シュナベルも三回中二勝した。
シュナベルは決闘の始めにお辞儀をするのが絵になるとみんなから言われ、嬉しそうに照れていた。
 対人格闘剣術の選択科目の次は郡学なので、いつもなら各寮へ戻るが、今日は朝の指示通り校舎八階(そこは小広間と言われているらしい)
まで全郡の一年生が上がった。
途中、階段を下がる上級生とぶつかり、上級生たちは教科書や鞄を高々と掲げて降りなければならないほど、階段はごった返した。
 レニアはマレーシャとシュナベルと共に来たが、二人とはすぐに引き離されてしまった。
その代わり、格闘術の授業を選択しているナップと出会った。ナップはスレンダーな体型をくねらせながら、何とかレニアの横に並ぶ。

「よっ、レニア。一限ぶり」

「ナップ、どこから来たの?」

「君と同じ武術棟からさ。シュナベルとマレーシャは一緒じゃないみたいだね」

ナップは高い身長を使い、首をぐるりと回して二人の姿を探そうとしたが、見つけられなかったようだ。レニアは二人を探す余裕もなく、長い黒髪をバサバサと揺らしながら階段を上がっていた。
前の方にシュナベルかマレーシャかどちらかのような人物もいたがそうじゃない気もする。

「今日の郡学、何をするか気にならない?」

ナップがレニアの横を保ちながら言った。

「さぁ、何かの話じゃないの」

「何かワクワクするやつで頼みたいね、
カークライン先生の天文学なんて午前だけで十分さ」

 そう会話していたレニアとナップの予想はほとんど当たっていた。
小広間に入ると、三人の郡将たちが前の方で一年生たちを待ち構えていた。一年生は詰められるだけ前に詰めさせられる。
小広間は横に狭いので、めいいっぱい縦に詰めなくては全員は入りきれない。
全員が中に入り、二つのドアが閉まると、郡将たちは一年生の方を見据えた。

「静かに!」

真ん中のステマラ郡の郡将が言った。

「今日君たちに集まってもらったのは、このギリカ・カーレで重要なある行事について話すためだ。君たちには入学してから各郡に分かれてもらい、それぞれ郡の特色を学んでもらっていると思う。
加えて、一人一人に自分に合った武術と魔術を学んでもらっている。その成果を表すものとして一年に一回、三学期に各郡で競い合う郡対抗試合が開催される。
 この郡対抗試合ではそれぞれの郡で学年ごとに何チームか出場してもらう。
競い方は学校側が指定した試合会場で自分の魔力や得意とする武器を使用し、敵チームの大将を降参させること。
最も多く勝利した郡が優勝となる」
 
 ここで司会が変わった。我らが郡将パースだ。

「この郡対抗試合は二年続けて行われ、連続優勝した郡、もしくは最も優勝だったと思われる郡が三年に一度開催される、武術学校対抗試合の出場資格を手に入れられる。
この対抗試合の出場校は首都のギリカ・カーレ、海浜のセイン・カルス、山岳のレイン・ベキンの三校。
この三校はレミルド連合王国で三つしかない武術学校だ。
優勝校には賞金として国からの教育援助金が出る。もちろん、出場してくれた郡、またはその年の郡対抗試合に優勝した郡にはその年一年間、学校の生徒指揮権を得ることができる」

 パースに続いて司会がソレイユ郡の郡将に変わった。

「去年、武術学校対抗試合に出場したのは、我々ソレイユ郡だ」

郡将がそう言った途端、周りから少し歓声が上がった。散らばっている、少人数のソレイユ郡の一年生からだ。ナップは反対にがっかりした顔をして

「それじゃ、今はソレイユ郡の言いなりかよ」

とレニアに不満を呟いた。
レニアはそこまでがっかりしていないが、ソレイユ郡の持つ生徒指揮権がどこまで影響力があるのか気になった。
 歓声を上げている一年生たちを残り二人の郡将は一睨みして黙らせ、ソレイユ郡の郡将に続きを話すように催促する。
どうやら、ソレイユ郡に指揮権があることを高々と言われたのが気に食わぬらしい様子だ。

「えー、誰もが理解している通り、
今は一学期で郡対抗試合はまだ先だ。
しかし、ギリカ・カーレでは一学期が始まった途端から郡対抗試合の準備を始める。
上級生たち、特に六年生はもう力を入れて動き始めている。
三学期の対抗試合にはもちろん一年生も参加してもらう。
君たちにも早く動き始めてもらうために、まだ一週間しか経っていない今日説明させてもらった。更に詳細が知りたい者は、各郡寮の掲示板を見てくれ。そこに対抗試合についての掲示物が貼ってある。
今日の郡学を終えて、明日から君たちがどうやって毎日を通るか考えることを各郡の郡監の先生方はお望みだろう。俺たち郡将自体もそうだ」

 ここまで言い切って、ソレイユ郡の郡将は言葉を切ったので説明は終わったらしい。
後ろのドアへと郡将の指図を受けて、レニアとナップはアリシオ郡の寮へと足を進める。

「まぁ、ワクワクする系の話だったよな。
少なくとも、カークライン先生の天文学は聞かなくて済んだ」

「学校に生徒指揮権があるなんて初耳。
郡内にもそんな制度があったなんて…」

「ソレイユ郡に生徒指揮権があるのは残念だな。どうせなら、俺たちアリシオ郡が勝ち取ってみたいぜ」

「だから、あんなに各郡で孤立するのね」

 レニアは今までギリカ・カーレで感じていた雰囲気に納得がいった。
全郡の大半の生徒がナップのように生徒指揮権が欲しいのだろう。
今日まで何となく各郡の中でしか交流をしてこなかった一年生が、明日からはしっかりとした意味を持って郡内でしか交流しなくなるのは明らかになる。

 ただ、郡将たちが望んでいるように対抗試合に向けて動き出す一年生は何人いるのだろうか。
レニアはナップみたいに生徒指揮権を手に入れたい訳ではないが、周りの一年生たちに遅れを取るのは嫌だった。

「ねぇ、ナップは対抗試合に出たいの?」

レニアがすぐ側にいたナップに聞くと、彼は信じられないという顔をして彼女を見てきた。

「えぇー、レニア、君は対抗試合に出ないって言うのかい?そんなの、学校生活損してるぜ。」

ナップはまるで彼女を説得するかのように話し続ける。

「楽しい事はさ、見ているから楽しいんじゃなくて、それをやろうとするから楽しいんじゃないの」

少なくとも、ナップは今からやる気にみなぎっている。彼は本当に無邪気に、野心など無しに対抗試合に出たがっているのがその表情から伝わってきた。
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