独り歩き

ゴんざェもん

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アリかキリギリス

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乗り込んだ電車から雷が見えた。

アルバイトの連勤4日目、流石に少し疲れてきている。だって、夜もよく眠れないし、昨日はエアコンつけたまま寝ちゃって鼻水が止まらないもの。

残暑というより秋雨前線が優勢になってきて、連日雲に覆われて布団が干せないでいた。そのことが気になって、鞄の中から文庫本を取り出して読むことも、スマートフォンの画面をタップするのも躊躇われた。全部全部、橋脚の下を灰色の渦になって流れる多摩川の水に投げ捨てたい。

若干20歳、いやあと数日で21歳だから、若干ってのは気が引けるけど、大学通いながら平日授業が少なければ少ない程、バイトして、合間で課題やって、土曜の講義の後に友達と勉強してさ。なかなか偉くないか。女の子にも優しくするし、ノートも見せるし、ちょっとくらいなら奢るし、先輩にもコネあるし。

胸のポケットのあたりに違和感を感じて、触ったらスマートフォンは無かった。鞄の中だ。ちょっとピリピリする。

来年は就活の準備して、ゼミの定期発表やって、その前にバイトで貯金も溜めておかないと。あと弟の進学祝いと、彼女の夏休みの予定立てて車借りないと。

グリグリと音がする。雷の音など電車に叩き付ける雨音と車内の騒音で聴こえないはずだ。音源は胃だ。キリキリ痛みも感じてきた。

電車が停車して、ドアが開き、立ち上がった。

右頬から地面に向かって、雷が走る。

駅のホームのコンクリートが急速に眼前に広がり、同時に色が消えていく。

体が揺すぶられる。

聴こえない。

虚しい。

何もかも。
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