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第1章 魔術学院編

第16話 VSセロ・アフィミス2

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 セレスとの特訓の最終日に、俺はいきなりセレスに驚きの事実を告げられた。

「で、できちゃったの!」

 オーケイ、一旦落ち着こう。思い当たる節は……たくさんあるな。

 問題は、名義上の父親を誰にすることなのだが。

 さすがにセレスの養子である俺がセレスの赤ちゃんの父親を名乗る訳には行かない。

 じゃ、俺の事を赤ちゃんにどう呼ばせるの? お兄ちゃん?

 オーケイ、これはない。自分の子供にお兄ちゃんって呼ばれるほど、俺は変態じゃない。

 逆にセレスはなんて呼ばれるのかな。俺のお義母さんな訳だし、お母さんのお母さんって赤ちゃんに呼ばせるべきかな。

 待って、落ち着け、俺。

 そういう問題じゃないだろう。俺はまだ学生で、領主になっていない。

 セレスの周りに俺以外の男の気配がないから、誰かを名義上の父親にするのは不自然だ。

 赤ちゃんのためにも、俺はベストな選択をしなければならない。

 イスフォード家の前当主の子にする? いやいや、それじゃまずいだろう。セレスがまるで自分の父親の子供を妊娠したみたいじゃないか。

 色々と倫理的にまずい。俺が将来継ぐことになっているイスフォード侯爵家のイメージをも損なってしまう。

 マリア教師だったら、遠慮なく、マリア教師のフィアンセの子供ってことにすることが出来たのに……

 やばい、目眩がしてきた。

 待ってよ! 聞き間違いかもしれないじゃないか!

 あのセレスだから、きっと言い間違えてるだけかもしれない。

 よし、もう一度聞こうか。

「今なんて?」

「できちゃったのよ!」

 はっはっは、俺の耳は問題なさそうだ。実に喜ばしい!

 って、現実逃避してる場合じゃない!

 どうすんだ? これ。

 詰んだな。今養子関係を解除したら、俺は貴族じゃなくなる。

 帝国掌握の計画が間違いなく遠のく……

 でも……

 俺も男だ。覚悟は決めた。

「俺は……」

一心同体ハイパーリンクが出来たの!」

「はい?」

「ずっと研究していたS級魔術ー一心同体ハイパーリンクがやっと出来たの!」

「赤ちゃんじゃなくて?」

「ご主人様ったら、気が早いね~ 下手に赤ちゃんができてご主人様の野望に悪影響を及ぼしたらいけないから、うちの大事な場所は今空間魔術で守ってるの~ ご主人様が学院を卒業してうちと結婚して正式にイスフォード家を継いだらそのときは……ね」

 健気だな。泣きそう。

 よかった……って良くない。なんでセレスは俺と結婚する前提なんだよ。

 いや、確かに出会った時にそのようなこと言ってたような。

 それにしてもなによ! まるで俺と結婚したら好き放題子作りしましょう~ みたいな言い方しやがって! そそるじゃないか!

「そのS級魔術ってどんな魔術なんだ?」

 とりあえず、混乱していたのを誤魔化そう。名前を聞く限り、思念同調リンクの上位版みたいなものなのは想像がつくけど。

「聞きたい~? 聞きたいのね~」

 ムカつく。黙れ、パンツ!

「いいから、話せ」

「ご主人様と初めてキスした時、いっぱい唾液をうちの中に注いでくれたじゃない?」

 うん、改めて言われると恥ずかしいな。

「それで、うち自身の魔力も変化したみたい」

「それって魔術の話と関係なくない?」

「関係あるの!」

「はいはい」

「うちの魔術はご主人様の魔術と同じ性質を持つようになったのよ~」

「それってつまり?」

「だから、同じ性質で巨大な魔力を持つ2人じゃないと発動できないから、試しにご主人様が寝てる間に一心同体ハイパーリンクを使ってみたら、まさか成功しちゃったの!」

 ちょっと待って? なに人が寝てる時に勝手に実験台にしてんだよ! このパンツめが!

「はあ」

 思わずため息が漏れる。

「結局どんな魔術なのだ?」

「体験してみる?」

「うん」


―――――


 セロ・アフィミスは動揺しているように見えた。

 無理もない。明るい小麦色の髪で青い瞳をした俺の姿はセレスと融合したことにより、髪がプラチナ色に変化し、銀色の光を放ち、目は真紅の『緋色の目』になったから。

 俺が立っているだけで、周りの空間に歪みが生じ、磁場をも狂わした。

 そして、セロ・アフィミスの魔術回路も魔力の形もはっきりと見える。

 これがセレスの見ていた世界か。

 セロ・アフィミスが次何をするか、どんな魔術を発動させるか一目瞭然になった。

 だから、さすがセロ・アフィミスというべきか。彼は動揺こそしたものの、素早く俺に向かってS級魔術を放とうとした。

 おそらくだが、彼の直感は彼に早く俺を消さないと取り返しがつかないと言っているのだろう。

隕石による破滅メテオ・デス・バースト

「またS級魔術かよ~ ぷんぷん!」

 だが、セロの魔術は発動されなかった。一瞬の沈黙の後に、セロは口を開いた。

「あなた……キャラ変わってませんか」

 これだよ! 俺が一心同体ハイパーリンク使いたくない理由だよ! 俺の心はセレスと融合して、セレスの人格が俺に移っちゃうんだよ!

 そんなに嫌なの~ 嫌だ! うちは嬉しいよ~ うちじゃなくて俺だ! 俺は嬉しいのか? って違う!

 あーもう! 思考回路がおかしくなってる! セレスの性格は俺が違いすぎて、どうも一心同体ハイパーリンクを使うとこうなるんだよね……

 だから使いたくないんだよ! 二重人格とか思われそうでかっこ悪い。あと勝手に手が自分の股間に行ったり来たりして体も言うことを聞かない。

「なるほど、私を動揺させてその隙を狙うつもりなのですね」

「そうだよ~ いや、違う!」

 黙れ、俺!

「あなたもパフォーマンスの大事さが分かってきたみたいで何よりです。さっきまでの冴えない顔と違って、今はなんと美しい! これなら観客をも楽しませられるでしょう」

「なに!?」

 うちのご主人様は最初から美少年だよ!

 そうだそうだ!

 って、一旦黙ろうかセレス。

 まあ、確かに、セロがそう思うのは無理もない。自分ですら初めてこの姿を鏡で見た時はなんて美しく凛々しいと思ったからな。

「まんまとあなたのペースにハマりましたね。仕切り直しましょう。隕石による破滅メテオ・デス・バースト!」

 いや、はめるつもりはないんだけどね。何勘違いしてやがんだ! 世界はお前を中心に回ってないんだよ!

 セロ・アフィミスは再び詠唱し、今度こそS級魔術を発動させた。

 セロの魔力が全身に拡散していくのが見える。

 セロの体を金色の光が包み、そして、紫の髪が少し赤みを帯びだした。

 次の瞬間、セロは右手を挙げて、そのまま振り下ろした。

 そして、振り下ろした方向にある全てのものはまるで巨大な剣で切り裂かれたように、激しく爆発した。それによって生じた炎は軽くコロシアムのてっぺんを超えるほど高く燃え上がっていた。

 地面も、コロシアムの壁も、何もかも跡形もなく消え去った。

 だが、人だけは無事だった。

 俺は一瞬で亜空間形成アナザーディメンションを発動し、人々を爆発から守ったからだ。

 別に誰が死のうがどうでもいい。だが、恩を売っといて損は無い。

 ここには上級貴族も多数いるからな。

 セロは次に左手を挙げた。

 また来る。魔力がセロの左手に集中している。

 セロが左手を振り下ろしたのに合わせて、俺は空間爆破ディメンションボムを発動させた。

 セロのS級魔術ー隕石による破滅メテオ・デス・バーストを俺の空間爆破ディメンションボムで相殺させ、空中にて巨大な爆発を起こさせた。

 これができるようになったのは、セレスと融合した今の俺はセレスよりも強くなったからだ。

 これこそ一心同体ハイパーリンクがS級魔術であるゆえんだ。

 魔術の性質が同じもの同士でしか使えない上に、5分間しか発動できないが、融合したときの力はもともとの2人を遥かに凌駕する。

 そして、なにより、俺の魔力は脈動していて、まるで生きてるような最強の性質を持っているのだ。それがまたセレスと融合した俺の魔術の威力を押し上げていく。

 セレスと融合した今、A級魔術でも、簡単にセロのS級魔術を押し返せる。

「あれれ? ビビってるの~」

 だが、もう一度言おう。一心同体ハイパーリンクを使ってる間、セレスの人格が俺に乗り移る。

 だから、どんだけ強くても言葉には小物臭が漂ってしまう。

「くっ、あなたはどこまで私を愚弄する気ですか」

 ありがとう、セロ。俺(うち)の馬鹿な発言を意味深に捉えてくれて……

「次は俺の番だ!」

「またキャラが変わりましたね。滑稽にするのもいい加減にしろ!」

 俺の言葉にセロはいつもの冷静さを失い、ついに激怒した。

 空間を切り裂く斬撃ディメンションスラッシュ

 俺は手刀を横なぎに払った。

 空間にヒビが入るような斬撃は俺の手刀の後を追うように現れて、セロに向けて飛んだ。

隕石外殻メテオアーマー

 セロの全身に、隕石の特徴とも言える紋様が浮かび上がって、赤く不気味に光っている。

 多分、自分の防御魔術を過信しているだろう。

 俺の真なる世界トュルー・ワールドを破壊した自分の魔術を防いだのも多分この魔術に違いない。

 だから、セロは避けもせず、俺に攻撃魔術を放とうとした瞬間、セロの体から血が吹き出してしまった。

 セロの防御魔術のせいで、さすがに一刀両断は出来なかったが、甚大なるダメージは与えられたようだ。

「くっ」

 口から血を吐き出すセロ。

「さっきまでの余裕はどこに行ったのかしら~」

「ゲホッ、今度は女言葉か。どこまで私を馬鹿にしてるんだ!」

 ごめん、ほんとにわざとじゃないから。許せ、セロ。

隕石群メテオシャワー

 まだパフォーマンスに拘っているのか、セロはなお詠唱を唱える。

 そして、セロの詠唱に呼応してるかのように、空から無数な隕石が降り注ぐ。

 空間転移ディメンションチェンジ

 俺は迅速に全ての隕石の位置を把握し、それらの進行方向に空間魔術を放った。

 そして、隕石は空間転移ディメンションチェンジによって作り出された転移口に続々と入っていき、消えてなくなった。

 今だ!

 俺は空間転移ディメンションチェンジの出口をセロに向けて、作り出した。

 そして、無数の隕石はセロめがけて、飛んでゆく。

 コロシアム全体を覆うほどの煙が立ち上がる。

 そして、煙が消え去った時、所々火傷を負っているセロの姿があった。

 意識はとっくになくなっているのに、彼は未だに立っていた。
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