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15.ゆびきり
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コールマン家は代々ヴィクトワール国の王子の側近を務めてきた。だから次男のチャーリーがアルベルト王子の側近となるのも必然だった。
「よぉ、チャーリー聞いたぜ。来月からクレール城に上がるんだろう」
ネイトは薄暗い部屋の中で小さな明かりを灯し、本を読んでいた。何度も読み込まれた本は、角がボロボロに剥がれていた。
「そうだよ、今から憂鬱だ」
「入る? 母さんまだ帰ってこないから」
ネイトの母親は娼婦だった。いつも薔薇のいい香りを纏って、ゆったりとした黒いドレスを着ている。透き通るような白い肌に、血にような赤い口紅、ネイトと同じ艶やかな黒髪は、腰まで真っ直ぐに伸びている。この国では珍しい黒髪と、その神秘的な美貌で有名な女性だった。チャーリーも子どもながらに、彼女の妖艶な色気にドキドキしてしまって目も合わせられなかったのを覚えている。
商売柄、彼女は夕方に家を出て明け方頃に家に帰ってくるのだが、何かの拍子でチャーリーと出会うと、珍しいお菓子を持たせてくれた。あれほどの売れっ子だったから異国の客も多かったのだろう、それを思うと少し複雑な気持ちになる。
促されるままに、チャーリーは家に上がった。近所に住んでるネイトとは小さい頃からよく遊んでいた。チャーリーの家から2ブロック先になると、途端に治安が悪くなる。そこにネイトの家がある。
暗くなってから、ネイトの家に向かうというと両親はあまりいい顔をしなかった。それでも、チャーリーはネイトに会いにこっそり家を抜け出していた。
「パン持ってきてきたから一緒に食べよう」
チャーリーはカバンからパンを取り出した。ネイトの好きなふわふわの白パンだ。たまにこれを持っていくと、ネイトは嬉しそうにパッと顔を輝かせて笑う。こんな風に笑うことが少ないから、ついこちらまで嬉しくなってしまう。
ふわふわの白パンに、温かいミルクとチョコレートを一欠片。このチョコレートもヴィクトワール国では手に入らないものだった。独特のスパイスが効いていて、舌先がピリッとする、大人の味だった。
「それで? 何が憂鬱なんだ?」
「……不安なんだよ、自分のことだってままならないのに」
「チャーリーなら大丈夫だ、きっと上手くやれる」
きっと楽しい、ネイトはそう言ってチャーリーを励ました。いつだってそうだった。何をするにも二の足を踏んでしまうチャーリーに優しく手を差し伸べてくれる。優秀な兄と比べられ、居場所が無いと泣いた夜もネイトが居てくれた。
「……でも寂しくなるよ、チャーリーがいないと」
コツンと、ネイトが肩に体を預ける。寂しくなる、彼が自分の気持ちをそう表したのはその時が初めてだった。お母さんが夜いなくて寂しくないの、と訊ねたときも、『もう慣れたから、平気』と笑っていたのに。
この寂しさにも、ネイトはいつか慣れる日が来るのだろうか。
ーー慣れてほしくないなんて、それは独りよがりで自分勝手な願いだ。
「長い休みには帰ってくるよ、ネイト」
俺たちはずっと友達だよ、二人は小指を絡ませた。
「よぉ、チャーリー聞いたぜ。来月からクレール城に上がるんだろう」
ネイトは薄暗い部屋の中で小さな明かりを灯し、本を読んでいた。何度も読み込まれた本は、角がボロボロに剥がれていた。
「そうだよ、今から憂鬱だ」
「入る? 母さんまだ帰ってこないから」
ネイトの母親は娼婦だった。いつも薔薇のいい香りを纏って、ゆったりとした黒いドレスを着ている。透き通るような白い肌に、血にような赤い口紅、ネイトと同じ艶やかな黒髪は、腰まで真っ直ぐに伸びている。この国では珍しい黒髪と、その神秘的な美貌で有名な女性だった。チャーリーも子どもながらに、彼女の妖艶な色気にドキドキしてしまって目も合わせられなかったのを覚えている。
商売柄、彼女は夕方に家を出て明け方頃に家に帰ってくるのだが、何かの拍子でチャーリーと出会うと、珍しいお菓子を持たせてくれた。あれほどの売れっ子だったから異国の客も多かったのだろう、それを思うと少し複雑な気持ちになる。
促されるままに、チャーリーは家に上がった。近所に住んでるネイトとは小さい頃からよく遊んでいた。チャーリーの家から2ブロック先になると、途端に治安が悪くなる。そこにネイトの家がある。
暗くなってから、ネイトの家に向かうというと両親はあまりいい顔をしなかった。それでも、チャーリーはネイトに会いにこっそり家を抜け出していた。
「パン持ってきてきたから一緒に食べよう」
チャーリーはカバンからパンを取り出した。ネイトの好きなふわふわの白パンだ。たまにこれを持っていくと、ネイトは嬉しそうにパッと顔を輝かせて笑う。こんな風に笑うことが少ないから、ついこちらまで嬉しくなってしまう。
ふわふわの白パンに、温かいミルクとチョコレートを一欠片。このチョコレートもヴィクトワール国では手に入らないものだった。独特のスパイスが効いていて、舌先がピリッとする、大人の味だった。
「それで? 何が憂鬱なんだ?」
「……不安なんだよ、自分のことだってままならないのに」
「チャーリーなら大丈夫だ、きっと上手くやれる」
きっと楽しい、ネイトはそう言ってチャーリーを励ました。いつだってそうだった。何をするにも二の足を踏んでしまうチャーリーに優しく手を差し伸べてくれる。優秀な兄と比べられ、居場所が無いと泣いた夜もネイトが居てくれた。
「……でも寂しくなるよ、チャーリーがいないと」
コツンと、ネイトが肩に体を預ける。寂しくなる、彼が自分の気持ちをそう表したのはその時が初めてだった。お母さんが夜いなくて寂しくないの、と訊ねたときも、『もう慣れたから、平気』と笑っていたのに。
この寂しさにも、ネイトはいつか慣れる日が来るのだろうか。
ーー慣れてほしくないなんて、それは独りよがりで自分勝手な願いだ。
「長い休みには帰ってくるよ、ネイト」
俺たちはずっと友達だよ、二人は小指を絡ませた。
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