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18.歩み寄る
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その頃、ネイトは非常に気まずい思いをしていた。会話が途切れてしまったのに、アルベルト王子は一向にネイトを解放する気はないようだった。
本来ならこんな贅沢な時間などあるはずがない。アルベルトの長い睫毛が、頬に影を落としている。同じ男とは思えないほどきめ細かい肌。こんな状況でなければ、きっと永遠に見ていられる。
「……君は、恋人はいないのか?」
「はっ……恋人、ですか」
思わず見惚れていた所為で、ネイトは質問の意図が一瞬理解出来なかった。
「はい、いません」
「恋人がほしいとは思わないのか?」
「それは……私一人の気持ちでどうにかなるものではありませんから」
ネイトは自嘲気味に笑って答えた。"恋人"がほしい、なんて考えたこともなかった。誰かに自分だけを愛してもらおうだなんて、おこがましいことは考えない。細く長く、たまに思い出してくれたらそだけで満足だった。
「ブレイデン・ウォーレスとは親しいのか?」
「ええ、親しいですね」
唐突に出された名前に、やましいこともないのにどきりと心臓が跳ねた。
「……恋人にするなら、彼のようなタイプか?」
「どうしてそう思うのです?」
突拍子もない質問だった。冗談かと思ったが、どうやらアルベルトは本気のようだった。
「あの夜、君を口説いていた男とはまるで正反対のタイプだろう」
確かに、あの夜口説いてきた男はどちらかと言えばアルベルト王子に良く似ていたと思う。そんな所もしっかり見られてしまったのかと恥ずかしく思う。
「いいえ、彼は友人です」
ブレイデンに迷惑を掛けることがあってはいけない。いくら同性愛に寛容な国でも、嫌悪感を示す人間だって少なくない。ネイトはきっぱりと否定した。
「彼は知っているのか? 君のこと」
「いいえ、誰にも話すつもりはありません……あの、私は解雇されるのでしょうか?」
ネイトは不安だった。アルベルトから直接解雇を言い渡されることはないと思うが、これは最後の最後に『言い残すことはないか?』という情けなのかもしれないと思ってきたからだ。
「なぜ? そんなことする訳ないだろう、キャンベルやチャリーも君のことを高く評価している」
アルベルトは本気で驚いたように目を丸くして、慌てたように言葉を付け加えた。
「このような醜聞は……恥でしょう」
「そんなに自分を責めるな」
アルベルトはネイトの頭にポンと手を乗せた。小さな子どもを慰めるような、優しい手だった。
「……まあ、確かに。どこの誰かも知らない男と一晩を共にするというのは聞こえの良いものではないよな」
もっともな意見だった。アルベルトは少し困ったように笑った。
「……だから、私にしろと言ったんだ。嫌なのか?」
「嫌だなんて……ですが、アルベルト王子の睡眠の邪魔はしたくありません」
「邪魔なものか、君より早く眠れる」
昨夜のことを思い出して、二人は顔を見合わせて笑った。彼は本当に優しい方だ、自分を心配して言ってくれているのだろう。
ネイトは堪らず、アルベルトの視線を避けるように俯いた。
アルベルトの顔面は本当にネイトの好みだった。少し強引なところにも堪らなく惹かれてしまう。でも、それは頭の中だけの話で、実際にどうこうなりたいだなんて、そんな恐ろしいことは考えていない。
どうにも彼の真意は分からないままだし、掴みどころ全くがない。
「気に病むことはない、誰にでも寂しい夜はあるものさ。私は君のことが心配なんだ」
君が本当は何を望むのかも、分かっているつもりだよ。そう言って、ネイトの頬に触れた指先は氷のように冷たかった。
「……まだ私の言葉が信じられないのか?」
「優しいお言葉を掛けて頂き、本当に感謝しています……ですが、私なんかの為にそのようなことは……」
いっそ、乱暴に犯すだけ犯して"解雇"だと言われたらその方がまだ納得できる。
ーー待てよ。そのシチュエーション、めちゃくちゃ興奮するな。
なんて、馬鹿なことを考えている場合ではない。本当に解雇なんてことになったら、チャーリーはきっと悲しむ。ブレイデンとは二度と会えないだろう。
それに、アルベルトがそんな極悪非道なことをする方ではないことも知っている。
「君はそればかりだな……」
アルベルトは少し苛立ったようにネイトの顎を掴むと、半ば無理矢理に視線を合わせた。
「今晩、同じ時間に私の部屋に来なさい。これは命令だ」
本来ならこんな贅沢な時間などあるはずがない。アルベルトの長い睫毛が、頬に影を落としている。同じ男とは思えないほどきめ細かい肌。こんな状況でなければ、きっと永遠に見ていられる。
「……君は、恋人はいないのか?」
「はっ……恋人、ですか」
思わず見惚れていた所為で、ネイトは質問の意図が一瞬理解出来なかった。
「はい、いません」
「恋人がほしいとは思わないのか?」
「それは……私一人の気持ちでどうにかなるものではありませんから」
ネイトは自嘲気味に笑って答えた。"恋人"がほしい、なんて考えたこともなかった。誰かに自分だけを愛してもらおうだなんて、おこがましいことは考えない。細く長く、たまに思い出してくれたらそだけで満足だった。
「ブレイデン・ウォーレスとは親しいのか?」
「ええ、親しいですね」
唐突に出された名前に、やましいこともないのにどきりと心臓が跳ねた。
「……恋人にするなら、彼のようなタイプか?」
「どうしてそう思うのです?」
突拍子もない質問だった。冗談かと思ったが、どうやらアルベルトは本気のようだった。
「あの夜、君を口説いていた男とはまるで正反対のタイプだろう」
確かに、あの夜口説いてきた男はどちらかと言えばアルベルト王子に良く似ていたと思う。そんな所もしっかり見られてしまったのかと恥ずかしく思う。
「いいえ、彼は友人です」
ブレイデンに迷惑を掛けることがあってはいけない。いくら同性愛に寛容な国でも、嫌悪感を示す人間だって少なくない。ネイトはきっぱりと否定した。
「彼は知っているのか? 君のこと」
「いいえ、誰にも話すつもりはありません……あの、私は解雇されるのでしょうか?」
ネイトは不安だった。アルベルトから直接解雇を言い渡されることはないと思うが、これは最後の最後に『言い残すことはないか?』という情けなのかもしれないと思ってきたからだ。
「なぜ? そんなことする訳ないだろう、キャンベルやチャリーも君のことを高く評価している」
アルベルトは本気で驚いたように目を丸くして、慌てたように言葉を付け加えた。
「このような醜聞は……恥でしょう」
「そんなに自分を責めるな」
アルベルトはネイトの頭にポンと手を乗せた。小さな子どもを慰めるような、優しい手だった。
「……まあ、確かに。どこの誰かも知らない男と一晩を共にするというのは聞こえの良いものではないよな」
もっともな意見だった。アルベルトは少し困ったように笑った。
「……だから、私にしろと言ったんだ。嫌なのか?」
「嫌だなんて……ですが、アルベルト王子の睡眠の邪魔はしたくありません」
「邪魔なものか、君より早く眠れる」
昨夜のことを思い出して、二人は顔を見合わせて笑った。彼は本当に優しい方だ、自分を心配して言ってくれているのだろう。
ネイトは堪らず、アルベルトの視線を避けるように俯いた。
アルベルトの顔面は本当にネイトの好みだった。少し強引なところにも堪らなく惹かれてしまう。でも、それは頭の中だけの話で、実際にどうこうなりたいだなんて、そんな恐ろしいことは考えていない。
どうにも彼の真意は分からないままだし、掴みどころ全くがない。
「気に病むことはない、誰にでも寂しい夜はあるものさ。私は君のことが心配なんだ」
君が本当は何を望むのかも、分かっているつもりだよ。そう言って、ネイトの頬に触れた指先は氷のように冷たかった。
「……まだ私の言葉が信じられないのか?」
「優しいお言葉を掛けて頂き、本当に感謝しています……ですが、私なんかの為にそのようなことは……」
いっそ、乱暴に犯すだけ犯して"解雇"だと言われたらその方がまだ納得できる。
ーー待てよ。そのシチュエーション、めちゃくちゃ興奮するな。
なんて、馬鹿なことを考えている場合ではない。本当に解雇なんてことになったら、チャーリーはきっと悲しむ。ブレイデンとは二度と会えないだろう。
それに、アルベルトがそんな極悪非道なことをする方ではないことも知っている。
「君はそればかりだな……」
アルベルトは少し苛立ったようにネイトの顎を掴むと、半ば無理矢理に視線を合わせた。
「今晩、同じ時間に私の部屋に来なさい。これは命令だ」
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