【完結】王子、"それ以上"なんておこがましいことは申しません!〜素直になれない二人は今夜もすれ違う〜

桐野湊灯

文字の大きさ
22 / 47

22.正しさとは

しおりを挟む
「ネイト!」

「ああ、チャーリー」

 いつもの小屋の裏側、煙草にちょうど火をつけたタイミングだった。チャーリーだと分かっていても、ここにいていきなり声を掛けられると体がビクッと反応してしまう。誤魔化すように吐いた息を、チャーリーは溜息だと思ったらしい。

「どうしたの、今日は随分とやさぐれているじゃないか」

 キャンベルさんに叱られたの、と能天気に笑う。半分はお前のせいだよ、とは言えずに曖昧に笑ってみせる。もう半分はアルベルト王子だ。

「まぁな……」

「そうだ、昨夜はどこに行ってたの?」

 核心に迫る質問に、ネイトは思わず咳き込んだ。大丈夫、と背中をさするチャーリーの手は優しかった。 

「昨夜、ネイトの部屋に行ったらいなかったからさ……結局キャンベルさんに頼んだから良いんだけど」

 チャーリーは言い終えてから、ハッと怖い顔をした。

「……気を付けなよ、俺だから良かったけど」

 どうやら夜間の無断外出だと思っているらしい。

「悪かったよ」

 まったく、そういう季節なの? とチャーリーは呆れたような顔をして胃のあたりを軽く摩った。彼も何かと苦労が絶えないらしい。

「危ないこと、してないよね?」

 チャーリーは心配そうな表情でネイトを覗き込む。少し上目遣いになると、子どもの頃と何も変わらない幼い顔になる。ネイトはほとんど吸っていない煙草を揉み消した。

「してないよ、それよりどうかしたのか?」

 チャーリーは随分と慌ててネイトを引き留めたように見えた。

「ああ、大した用事はなくて……ただ見掛けたからさ」

 だって久しぶりだったから、とチャーリーは俯いて少し照れたように笑った。

「あとね、アルベルト王子の誕生祭の後のことなんだけど……これは後でキャンベルさんからも聞くと思う。しばらくクレア・バンクス様のお世話を頼みたいんだ。向こうも侍女を連れてくるみたいだけどね」

「……クレア・バンクス様?」

 ネイトは思わず声が上擦ってしまった。

「そう、アルベルト王子の婚約者だよ……一応ね。なんでも子どもの頃の口約束らしいけど。少しの間クレール城に滞在するご予定らしい」

 子どもの頃の口約束、というのはあながちただの言い訳ではなかったらしい。そうは言っても事実は何も変わらないのだが。

「美人?」

「ああ、美人だよ。何年か前に偶然お見掛けしたんだ。珍しいね、ネイトがそんなこと聞くなんて」

 チャーリーがころころと笑う。こんなにゆったりと話したのは久しぶりだった。

「気になるだろう」

 チャーリーの即答ぶりからして本当に美人なのだろう。まだ癒えてない胸の傷に塩を塗ってしまった。 

「でもね、ネイトの好みじゃなさそうだよ」

「……へぇ、なんで?」

「美人だけど、キツめの美人なんだよね。あんまり笑わなくて、いつも窓の向こうを見ているような方」

 チャーリーはネイトの耳に手を当てて、こっそりと囁いた。
 
「いいじゃないか」

「嘘だ、ネイトってもっとふんわりした人が好きでしょう?」

「そうかな、美人は好きだよ」

「俺はネイトには、ふんわりした人が合うと思う。ネイトがやさぐれたときに癒してくるような人」

 絵に描いたような幸せを、チャーリーはきっと望んでいる。太陽みたいに屈託ない笑顔を浮かべて、誰しもがそうあるべきだと疑わない。
 
「……ねぇ、あの男ともう会ったりしてないよね?」

 チャーリーが度々警戒している"あの男"とは、ロイのことだ。ネイトが城で働くより前に関係を持っていた男だ。

 チャーリーはその頃既にクレール城で働いていて、長い休暇の際にロイと偶然鉢合わせたことがある。

 ロイはきっと本名ではない。本当の名前は知らないし、恋人でもなかった。ただ、一晩だけの関係をずるずると続けていただけ。でも、唯一ネイトが自宅に招き、本当の名前を教えた相手だった。今までで一番、恋人同士にほど近い関係だったと思う。

 明日の約束もない二人だから、当然ネイトがクレール城にいることなんて知らない。いつの間にか消えたと思われているだろう。そろそろ、二人の関係も潮時だった。

 それを、後悔していないと言ったら嘘になる。体の相性は抜群だったし、何より見た目がネイトの理想そのものだった。アルベルト王子とそっくりの顔立ちだった。

 だからといって、やり直したいだなんて思っていない。何度もそう言っているのだが、チャーリーはどうにも納得してくれない。

『一度縁が出来たら、簡単には切れないものだから』

 そう信じて疑わないのだ、それが少し羨ましい。

「会ってないよ」

 チャーリーはロイのことが毛嫌いしている。彼は確かに碌でもない奴だった。賭け事も煙草も、世間で悪とされていることは全部彼が教えてくれたようなものだった。生きていくために体を売ることも、自分に価値があるということを教えてくれたのもロイだった。

 チャーリーはそれを全て知っているが、一つだけ間違っていることがある。

「もう終わったことだから」
 
「何かあったらなんでも話してよ。俺はいつでもネイトの味方だから」

 俺たちの間に、恋愛感情なんて一切なかったということ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】巷で噂の国宝級イケメンの辺境伯は冷徹なので、まっっったくモテませんが、この度婚約者ができました。

明太子
BL
オーディスは国宝級イケメンであるにも関わらず、冷徹な性格のせいで婚約破棄されてばかり。 新たな婚約者を探していたところ、パーティーで給仕をしていた貧乏貴族の次男セシルと出会い、一目惚れしてしまう。 しかし、恋愛偏差値がほぼ0のオーディスのアプローチは空回りするわ、前婚約者のフランチェスカの邪魔が入るわとセシルとの距離は縮まったり遠ざかったり…? 冷徹だったはずなのに溺愛まっしぐらのオーディスと元気だけどおっちょこちょいなセシルのドタバタラブコメです。

【完結】男の後輩に告白されたオレと、様子のおかしくなった幼なじみの話

須宮りんこ
BL
【あらすじ】 高校三年生の椿叶太には女子からモテまくりの幼なじみ・五十嵐青がいる。 二人は顔を合わせば絡む仲ではあるものの、叶太にとって青は生意気な幼なじみでしかない。 そんなある日、叶太は北村という一つ下の後輩・北村から告白される。 青いわく友達目線で見ても北村はいい奴らしい。しかも青とは違い、素直で礼儀正しい北村に叶太は好感を持つ。北村の希望もあって、まずは普通の先輩後輩として付き合いをはじめることに。 けれど叶太が北村に告白されたことを知った青の様子が、その日からおかしくなって――? ※本編完結済み。後日談連載中。

【8話完結】恋愛を諦めたおじさんは、異世界で運命と出会う。

キノア9g
BL
恋愛を諦め、ただ淡々と日々を過ごしていた笠原透(32)。 しかし、ある日突然異世界へ召喚され、「王の番」だと告げられる。 迎えたのは、美しく気高い王・エルヴェル。 手厚いもてなしと優しさに戸惑いながらも、次第に心を揺さぶられていく透。 これは、愛を遠ざけてきた男が、本当のぬくもりに触れる物語。 ──運命なんて、信じていなかった。 けれど、彼の言葉が、ぬくもりが、俺の世界を変えていく。 全8話。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

転生先は、BLゲームの世界ですか?

鬼塚ベジータ
BL
ティト・ロタリオは前世の記憶を思い出した。そしてこの世界がBLゲームの世界であることを知る。 ティトは幸せになりたかった。前世では家族もなく、恋愛をしても、好きな人に好きになってもらったこともない。だからこそティトは今世では幸せになりたくて、早く物語を終わらせることを決意する。 そんな中、ティトはすでに自身が「悪役令息に階段から突き落とされた」という状況であると知り、物語の違和感を覚えた。 このシナリオは、どこかおかしい。 というところから始まる、ティトが幸せになるまでの、少しだけ悲しいお話。 ※第25回角川ルビー小説大賞最終選考作品です

異世界転生した俺の婚約相手が、王太子殿下(♂)なんて嘘だろう?! 〜全力で婚約破棄を目指した結果。

みこと。
BL
気づいたら、知らないイケメンから心配されていた──。 事故から目覚めた俺は、なんと侯爵家の次男に異世界転生していた。 婚約者がいると聞き喜んだら、相手は王太子殿下だという。 いくら同性婚ありの国とはいえ、なんでどうしてそうなってんの? このままじゃ俺が嫁入りすることに? 速やかな婚約解消を目指し、可愛い女の子を求めたのに、ご令嬢から貰ったクッキーは仕込みありで、とんでも案件を引き起こす! てんやわんやな未来や、いかに!? 明るく仕上げた短編です。気軽に楽しんで貰えたら嬉しいです♪ ※同タイトルを「小説家になろう」様でも掲載しています。

【完結】ネクラ実況者、人気配信者に狙われる

ちょんす
BL
自分の居場所がほしくて始めたゲーム実況。けれど、現実は甘くない。再生数は伸びず、コメントもほとんどつかない。いつしか実況は、夢を叶える手段ではなく、自分の無価値さを突きつける“鏡”のようになっていた。 そんなある日、届いた一通のDM。送信者の名前は、俺が心から尊敬している大人気実況者「桐山キリト」。まさかと思いながらも、なりすましだと決めつけて無視しようとした。……でも、その相手は、本物だった。 「一緒にコラボ配信、しない?」 顔も知らない。会ったこともない。でも、画面の向こうから届いた言葉が、少しずつ、俺の心を変えていく。 これは、ネクラ実況者と人気配信者の、すれ違いとまっすぐな好意が交差する、ネット発ラブストーリー。 ※プロットや構成をAIに相談しながら制作しています。執筆・仕上げはすべて自分で行っています。

追放された『呪物鑑定』持ちの公爵令息、魔王の呪いを解いたら執着溺愛ルートに入りました

水凪しおん
BL
「お前のそのスキルは不吉だ」 身に覚えのない罪を着せられ、聖女リリアンナによって国を追放された公爵令息カイル。 死を覚悟して彷徨い込んだ魔の森で、彼は呪いに蝕まれ孤独に生きる魔王レイルと出会う。 カイルの持つ『呪物鑑定』スキル――それは、魔王を救う唯一の鍵だった。 「カイル、お前は我の光だ。もう二度と離さない」 献身的に尽くすカイルに、冷徹だった魔王の心は溶かされ、やがて執着にも似た溺愛へと変わっていく。 これは、全てを奪われた青年が魔王を救い、世界一幸せになる逆転と愛の物語。

処理中です...