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25.はじまり
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真っ青な空の下、色の無い花火が次から次へと打ち上がっていた。
開放された門からは次から次へと人がやって来る。懸念されていた出店は酒に偏ることなく、順調だった。フルーツの入ったパンは子どもたちに大人気のようだし、どこからか肉や野菜を焼いている香ばしい香りが漂っていた。
準備に手間取っていた所為でアルベルトの最初の挨拶は見逃してしまったが、城のバルコニーから手を振る姿だけは見ることが出来た。
美しい金髪をしっかりと後ろに撫で付け、背筋を伸ばして胸を張る姿はさすが一国の王子だけあって尊厳があった。アルベルトの少し後ろでは、固く口を結んで緊張したような面持ちのチャーリーが立っていた。アルベルトと同様に赤茶の髪を丁寧に固めている。
ーー前髪上げてるの、似合わないな。
後でそう言ってやろう、と見ていると、ふとアルベルト王子の視線がこちらに向いた。気付いているのか、にっこりと笑う。途端に周囲の女性たちが黄色い声を上げた。
自分だけに微笑みかけたわけではない、分かっているがつい舞い上がってしまう。曖昧に笑い返すが、居た堪れずに人並みに紛れた。
胸につけたブローチが気になって仕方がない。明け方チャーリーから受け取った細かい装飾品の一部なのだが、これがまた重い。青を基調とした大小様々な宝石が敷き詰められているデザインなのだが、ネイトの付け方が下手なのかすぐにどこかに引っ掛かってしまう。
このブローチは代々クレール城に伝わっているもので、使用人の人数分しかないらしい。これ以上使用人を増やさないように、という戒めでもあるだという説もある。チャーリー曰く、それを作った職人がもういないから貴重なのだという説もある。
どちらが事実だとしても、とにかく無くしてはいけない。
ネイトは軽食やドリンクを運びながらも、ブローチの存在を気にしていた。
主庭に出店があるとはいえ、貴族の御令嬢たちは中庭で静かに歓談している人も多い。昼前の早い時間では大道芸人も歌人も劇も始まらないからだ。
ネイトの持ち場は基本的にいつものガーデン・パーティーと変わらない。
辺りを見回してみるが、クレア・バンクスらしき姿は見当たらない。
「アルベルト王子、素敵だったわね」
「さっき絶対私の方を見て微笑んで下さったわ」
御令嬢のひそひそ話を盗み聞きしながら、ネイトは大きく頷きたくなる衝動を抑えた。俺も、俺の方を見て微笑んでくれたと思ったよ。
「私、今夜のダンスに賭けてるの」
「ねえ、貴方。私たちのどちらが美しいかしら?」
扇子で顔を半分隠しながら、照れたように笑う。二人とも薄いブルーのドレスに、柔らかそうな巻毛を頭のてっぺんで丸めている。左右が二人で対になるように付けられた大きな青い薔薇の髪飾りが可愛らしい。
だが、正直どちらも区別がつかない。そう言う作戦なのだろうか、双子のように揃えておいてどちらが、なんて酷な話だ。それに、どちらか、なんて選んではいけないのだ。
右側に花を挿している方の少女が、早く決めて、と悪戯っぽく笑った。
「お二人とも、とても美しくて素敵です」
そう言って他所行きの笑顔を振り撒くと、二人は満足そうに笑いながら走り去っていく。
「アルベルト王子は貴方にあげる、私は彼にするわ」
左側に花を挿している方の少女の、なんとも無責任な言葉が聞こえてネイトは苦笑した。
ふと、テーブルの上を見ると苺のケーキの減りが早いことに気付いた。ネイトはそっと、厨房へ取りに行くことにした。
開放された門からは次から次へと人がやって来る。懸念されていた出店は酒に偏ることなく、順調だった。フルーツの入ったパンは子どもたちに大人気のようだし、どこからか肉や野菜を焼いている香ばしい香りが漂っていた。
準備に手間取っていた所為でアルベルトの最初の挨拶は見逃してしまったが、城のバルコニーから手を振る姿だけは見ることが出来た。
美しい金髪をしっかりと後ろに撫で付け、背筋を伸ばして胸を張る姿はさすが一国の王子だけあって尊厳があった。アルベルトの少し後ろでは、固く口を結んで緊張したような面持ちのチャーリーが立っていた。アルベルトと同様に赤茶の髪を丁寧に固めている。
ーー前髪上げてるの、似合わないな。
後でそう言ってやろう、と見ていると、ふとアルベルト王子の視線がこちらに向いた。気付いているのか、にっこりと笑う。途端に周囲の女性たちが黄色い声を上げた。
自分だけに微笑みかけたわけではない、分かっているがつい舞い上がってしまう。曖昧に笑い返すが、居た堪れずに人並みに紛れた。
胸につけたブローチが気になって仕方がない。明け方チャーリーから受け取った細かい装飾品の一部なのだが、これがまた重い。青を基調とした大小様々な宝石が敷き詰められているデザインなのだが、ネイトの付け方が下手なのかすぐにどこかに引っ掛かってしまう。
このブローチは代々クレール城に伝わっているもので、使用人の人数分しかないらしい。これ以上使用人を増やさないように、という戒めでもあるだという説もある。チャーリー曰く、それを作った職人がもういないから貴重なのだという説もある。
どちらが事実だとしても、とにかく無くしてはいけない。
ネイトは軽食やドリンクを運びながらも、ブローチの存在を気にしていた。
主庭に出店があるとはいえ、貴族の御令嬢たちは中庭で静かに歓談している人も多い。昼前の早い時間では大道芸人も歌人も劇も始まらないからだ。
ネイトの持ち場は基本的にいつものガーデン・パーティーと変わらない。
辺りを見回してみるが、クレア・バンクスらしき姿は見当たらない。
「アルベルト王子、素敵だったわね」
「さっき絶対私の方を見て微笑んで下さったわ」
御令嬢のひそひそ話を盗み聞きしながら、ネイトは大きく頷きたくなる衝動を抑えた。俺も、俺の方を見て微笑んでくれたと思ったよ。
「私、今夜のダンスに賭けてるの」
「ねえ、貴方。私たちのどちらが美しいかしら?」
扇子で顔を半分隠しながら、照れたように笑う。二人とも薄いブルーのドレスに、柔らかそうな巻毛を頭のてっぺんで丸めている。左右が二人で対になるように付けられた大きな青い薔薇の髪飾りが可愛らしい。
だが、正直どちらも区別がつかない。そう言う作戦なのだろうか、双子のように揃えておいてどちらが、なんて酷な話だ。それに、どちらか、なんて選んではいけないのだ。
右側に花を挿している方の少女が、早く決めて、と悪戯っぽく笑った。
「お二人とも、とても美しくて素敵です」
そう言って他所行きの笑顔を振り撒くと、二人は満足そうに笑いながら走り去っていく。
「アルベルト王子は貴方にあげる、私は彼にするわ」
左側に花を挿している方の少女の、なんとも無責任な言葉が聞こえてネイトは苦笑した。
ふと、テーブルの上を見ると苺のケーキの減りが早いことに気付いた。ネイトはそっと、厨房へ取りに行くことにした。
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