【完結】王子、"それ以上"なんておこがましいことは申しません!〜素直になれない二人は今夜もすれ違う〜

桐野湊灯

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番外編

その頃のチャーリーとバリーは

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ーー勘弁してくれ、あんな猫被り。

 バリーがそう言ったのには理由がある。

「ネイトぉー」

 語尾を妙に伸ばして、ネイトの姿を見かける度に子犬のように走って行く。

「まったく、アルベルト王子ってば」

 頬を膨らませながら、本気で叱る気あんのかと問いたくなるようなあざとい顔で文句を言う。

「キャンベルさぁーん」

 何か困り事があると、すぐにキャンベルさんに助けを求めにいく。全然大したことじゃなくても、だ。例えばネックレスが絡まってしまったとか、裁縫していたら自分の服を縫ってしまったとか、そんなことでも。

 とにかく、みんなに愛想を振りまいて大きな目をぐりぐりさせて笑うくせに、バリーに対しては全く違う。

「おはよう、チャーリー」

「おはようございます」

 スンとすました表情のまま、にこりともしない。確かに第一印象は悪かったかもしれないけど、お互い若かったんだから仕方なくない? と思ってしまう。



 それは、アルベルトとネイトが駆け落ち未遂をした夜のことだった。ちなみに、この真相はバリーとチャーリーしか知らない。

 その夜、バリーは久しぶりにと家からくすねてきた葡萄酒を片手にアルベルトの部屋に向かった。久しぶりに話したいことが沢山あったからだ。特に、クレアとのすったもんだをぜひ聞かせてほしい。

 長い廊下の先に、僅かに光が漏れている部屋があった。アルベルトの部屋だ。何故かドアが少し、開いているようだ。

 何かあったのかと恐る恐る近付くと、アルベルトの下手の真ん中で立ち尽くすチャーリーの姿があった。額に
手を当てて、困ったように溜息を吐いている。隙間から部屋を覗くと、アルベルトの姿はないようだった。

「……いないの?」

「うわっ……!」

 驚かせないつもりだったのに、チャーリーは数十センチは飛び上がって声を上げた。

「驚かせないでください」

「ごめん、そんなつもりじゃなかったんだけど。アルベルトいないの?」

「……何かご用ですか?」

 あくまで、質問には答えたくないらしい。単に自分のことが気に食わないからなのか、言えない理由があるのか。

「いいよ、自分で探す。他の人にも聞いてみるから」

 ひらひらと手を振りながら、部屋を後にするとチャーリーがしがみつくように腰を掴んだ。普通は手とか掴まない? これ、タックルじゃん。

「……外出中です」

 消え入りそうな声で答えた後、無駄外出です。と付け加えた。

「……本当に? 攫われたとかじゃない?」

「ええ、このクッションの配置がサインなんです。"心配するな"って意味なんですよ」

 いつものことなんですけど、と呟く声に覇気がない。

「それじゃあ、どうしてそんな不安そうなの」

「ネイトもいないんです」

 チャーリーは口籠もりながら答えた。

「なんだって?」

 思わず大きな声が出てしまう。と、小さな手で口を塞がれれしまう。口どころ鼻まで塞いでいる。こいつ、隙あらば俺を殺す気なのかもしれない。

「前もこんなことあったし、いつもなら気にしませんけど……なんだか少し考えてしまうんです。俺がなんとかしなきゃって思ってたのに」

 今にも泣き出しそうな表情でポツポツと話し始める。

「結局引っ掻き回しただけだったのかも」

 バリーはチャーリーの手を無理矢理口から引き剥がした。

「俺は君みたいな友達がいてネイトは幸せだと思う。いつだって本気で心配してくれてさ」

「……でも、そんな必要なかったのかも」

「本人だってきっと分からないさ。でも、手を差し伸べることが大切なんだ。嫌ならとっくに離れてる。ネイトの性格知ってるだろう?」

「だって、職場が一緒だし……」

 チャーリはうじうじぐだぐだと、でも、だって、を繰り返す。いつもこんな風に素直だったらいいのに。

「あいつがそんなこと考えると思うか? 仕事なんて簡単に辞めるさ、もともと俺がもっと稼げる仕事教えてやってたんだから」

「……」

 今のは失言だったらしい。塵を見るような目で顔を覗き込まれる。

「とにかくさ、君のことが好きだから一緒にいるんだろう」

「結構、優しいことも言えるんですね。なんか怖い」

 ようやくチャーリーが笑ってくれた。笑うとずっと幼い顔になる。

「これだけ重ーい感情を抱いといてただの友だちってと所の方がよっぽど怖いけどね」

「貴方には分からないでしょうね」

 笑顔を浮かべたままぴしゃりと返される。

「さぁ、それじゃあ私たちも休もう。明日には二人とも帰ってくるんだろう」

 それとも、私と葡萄酒でも一緒にどうかな、とチャーリーの方に手を乗せる。

「結構です」

 そう言って、バリーの手の甲をキリキリとつねらるその顔は驚くほど無感情だった。
 慌てて手を引っ込めると、チャーリーはすたすたと部屋を出て行く。

 やっぱり可愛くない。仲良くできるのは当分先になるだろう。バリーは呆れたように溜息を吐くと、チャーリーがくるっと振り返った。

「……明日の夜は私が葡萄酒を用意いたします」

ーー可愛いところもあるじゃないか。

 なんて、バリーの考えは甘かった。



「おはよう、チャーリー」

「おはようございます」

 相変わらず、スンとした表情を崩さずバリーの方なんて見向きもしないで挨拶を返す。

「……やっぱり可愛くないね」

 これでまた、振り出しに戻るのだ。

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