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2巻
2-3
しおりを挟む「……お前達、何やってんだ?」
「えへへ、ツグ兄ぃにあげようと思って~」
「ん、似合うと思って」
双子に近寄りながら話せば、満面の笑みでそう返された。はい、と渡された結果、頭と首に花飾り。嬉しいことは嬉しいけれども、何やってんだ俺……。
笑われそうだから、親父とかには絶対見せられない格好だと思う。
【白小花の花冠】
白く小さな花を器用に編み込んだ花冠。持っているだけで小さな幸運が訪れる……と言われている。
【製作者】ヒバリ(プレイヤー)
【白小花の首飾り】
白く小さな花を器用に編み込んだ首飾り。持っているだけで小さな幸運が訪れる……と言われている。
【製作者】ヒタキ(プレイヤー)
「ま、まぁ、ありがとう。でも森を探索するんだから、インベントリにしまっちゃうけどね」
俺にこういうのは似合わないと思うんだ。年齢的にもちょっとキツいかな……。
一応2人の頭を撫で、断ってからインベントリへ。嬉しい物は嬉しいよ。双子が心を込めて作ってくれたのは分かるし。
こほんっと仕切り直し、ヒタキを見る。ハニービーと彼女の【気配察知】が無ければ達成できない状況だ。でもどうしよう。魔物が密集してる場所を、当てずっぽうに行くしか無いんだろうか? いや、考えてるだけ時間の無駄だな。さっさと行動に移さなくては。
「ヒタキ、魔物がいる場所を探して……」
「ん、あれ?」
「は? え? どれ?」
考え込みながらぽつり呟くと、ヒタキは俺の側にある、手のひらサイズの見事な大輪の赤い花を指差した。首を捻りながら見ていると、閉じていた花びらが開き、半透明の少女が出現する。彼女は今起きたのか、くぁぁぁと背伸び。
そのまま見ていると俺に気付いたようで、ハッとした表情で口に両手を当てた。そして照れたようにはにかみ、手を振ってきたので思わず俺も振り返す。
「あ、この子もしかしてアルルーナかなぁ? すごい可愛いんだけど~」
「アルルーナって?」
「アルラウネ、の幼体。アルルーナが大きくなると、アルラウネになる」
「本当はアルラウネの別名だけど、R&Mでは別物として扱われてるんだ~。ふわぁぁ、可愛い!」
「ん、可愛い」
あ、また話が脱線してしまった。ハニービーの俺の髪を引っ張る力が、一段と強くなる。
大丈夫、分かってる分かってる。俺だって女王蜂が困ってるなら解決してあげたいし。
一応そのアルルーナという魔物に聞くも、微笑みながら首を傾げるばかり。知らないのか、言葉が通じて無いのか……多分後者だと思う。
双子も、流石に調子に乗り過ぎたと反省したのか、俺の肩に乗るハニービーに謝って考え込む。
「う~ん、情報が少ない気もするんだよねぇ」
「ん、難しい。でも、ハニービーとうろつけば見つかる。きっと、多分」
「そうだな、被害の報告は森の中だけだ。ここでジッとしてても仕方ないし、行くか」
この花畑が平和なのは、大木をも切り倒すほどの力があるモノが来ていない……ってことだろう。
リグを抱き直し、俺達は茂みに足を向ける。とりあえず、満腹と給水のゲージが半分くらいになるまで探してみよう。んで、成果が芳しくなかったら、また女王のところに戻る……かな。
◆ ◆ ◆
当てもなくさまようが、何も見つかる気配がない。
リグみたいにデフォルメされた魔物は沢山いた。リスっぽいのとかすごく可愛いやつ。でも、どう見ても木を切り倒しそうにない。
ちなみに、この魔物はリグのように懐いてはくれなかった。リグが特殊なんだな、残念。
さて、このままだと埒が明かないな。先ほどの俺の推測が正しければ、日当たりが悪く湿気の多い場所にいるかもしれない。確証が持てないけれど、うろうろし続けるよりは良いだろう。
「なぁ、提案。もう少し暗くて湿った場所を探してみよう」
「ん、分かった」
ハニービーを肩に乗せ、先導するヒタキが俺の言葉に振り返り、小さく頷いてまた歩き出す。
「ツグ兄ぃって、正体分かってるの?」
「多分……シロアリだと思う」
「シロアリ……だと!」
隣を歩いていたヒバリが聞いてきたので、推測を話すと、驚いたように叫んだ。ヒバリの驚きに付いていけず、俺は思わず首を捻る。
「何かヤバい?」
「蟻の魔物って、大群系なんだ。1匹見掛けたら1000匹はいると思え、ってくらい。しかも、ハニービーほどじゃないけど防御力高いよ、ホワイトアントって。私達で対処するのはキツいね」
「なるほど。でも、情報だけでも依頼は達成なんじゃないのか?」
「それはそうだけど……一応目視するのと、1匹だけでもホワイトアントのアイテム取らなきゃ」
「あー……結構大変なクエストを選んじゃったみたいだな、ごめん」
「ツグ兄ぃは悪くないよ。ツグ兄ぃは依頼を選んだだけだし、最終的にやるって判断したのは私達だからね。むぅ~、ホワイトアントって、もっと違う場所にいるはずなんだけどなぁ~」
攻撃力重視のミィがいないのは痛いな……しかも、1匹見掛けたら1000匹はいるって、いろんな意味ですさまじいな。
『ギギッ!』
「ヒバリちゃん、しぃ」
不意にハニービーが鳴き、ヒタキが人差し指を口に当てる。
すぐ静かにすると、ゴリゴリゴリッと、何かを削るような、齧るような音がした。
音はするけれど、いるのはまだ先らしい。蟻は音、光、振動に敏感だし、静かにして正解。
そう言えば、テイムした魔物と視覚を共有するスキルがあるんだっけ……と思い出す。リグは蜘蛛だし、身軽なので気付かれないと思う。
「リグ、偵察行けるか?」
「シュ!」
問い掛ければ、元気の良い返事が戻ってくる。そして俺の腕から器用にジャンプし、ささっと木を登るとすぐ見えなくなった。
俺はキョトン、としている双子に軽く説明してから、スキル【視覚共有】を使う。
「おぉぉ! あ、見えた」
ハエトリグモに似たリグは、前方の目2個しか発達していないらしい。その視界に俺は一瞬驚いたが、慣れさえすれば大丈夫。
ヒバリが「視界ジャックか……」と呟いているが無視し、俺は集中した。
木々を飛び移り、音のする方へ着実に近付いていく。その際、ジェットコースター気分を味わうことになり、少しびっくり。俺が酔いやすい体質だったら、一瞬にしてダメになりそうだったけど。
「シロアリを食べてる……犬? いや、ハイエナ?」
リグが動きを止め、眼前を覆う木の葉からこそっと顔を出せば、1匹の大きいシロアリを、白と黒茶の毛並みを持ったハイエナが貪るように食べていた。リグの目を通してもかなり鮮明に見え、魔物の特徴やらもきちんと双子に教えられそうだ。
事細かに伝え終わる頃には、ハイエナみたいな魔物も食事を終え、残骸だけが残った。
リグが戻って来るのに合わせてスキルを停止すると、ヒバリとヒタキが遠い目をしていることに気付き、俺は首を捻る。
「う~ん、これは良いことなのか、悪いことなのか……」
「戦わなくて済む、良いこと。ギルドに説明面倒、悪いこと」
「うんうん。ちょっと楽だけど、ちょっと面倒になっちゃったね」
「なぁ、俺にも説明してもらっても良いか?」
「あ、あぁごめん。憶測だけど、ホワイトアントの大群とアードウルフの群れが、追い掛けっこしてるんじゃないかな。アードウルフはホワイトアントが大好物だし……どっちも森にいたらマズい魔物だから、早めに皆に報告した方が良いと思う」
「ホワイトアント、木を食べる。アードウルフ、雑食。何でも食べる。ホワイトアントがいなくなったら、ハニービー達危ない」
「ああ、マズいな」
『ギギッ、ギ!』
危ないよな、いろいろと……と、3人と1匹で顔を見合わせ、神妙に頷いた。そして、まずはシロアリの残骸を回収しに行く。硬い外皮の部分と触覚かな?
妙な気疲れを感じながら、俺達は足早に来た道を戻る。まずは女王のところに戻って報告だ。
ヒタキのスキルを使って魔物を避けながらなので、戦わず無事に辿り着いた。そう言えば、今日はログインしてから一度も戦闘をしていないな。
すぐに女王がやって来たので、できるだけ詳しく報告する。同行した小さなハニービーも話してくれたので、あますところなく伝えられた……と思う。多分だけど。
『ソウカ、ゴ苦労ダッタ。シカシ、アノホワイトアントニアードウルフ、ドチラモ我々ニハ強敵ダ。ダガ、ギルド、トヤラガ最後マデ面倒ヲ見ルラシイカラナ。蜂蜜ガ採取デキ無クナルノハ、惜シイノダロウ。コレヲ証トシ、ギルドトヤラニ報告シテクレ』
表情は変わらないはずの女王が、どこか勝ち気に見えた。渡された物は蜂蜜花粉ボールに似ていて、中身はローヤルゼリーらしい。確かローヤルゼリーは、女王蜂になる個体だけが食べることを許されているはず。だから、証には適しているか。
◆ ◆ ◆
女王からローヤルゼリーの入った花粉ボールを受け取った俺達は、ヒタキのスキル【気配察知】をフル活用して、アクエリアに戻った。
モタモタしている間にハニービーが襲われたら、悲しすぎるからな。たとえ魔物だとしても、せっかく仲良くなれたんだから。
ギルドに到着したのはお昼前。朝にも担当してくれたNPCのギルド職員がいたので、その受付に並ぶ。ここなら一から話す手間が省けるだろう。事態は急を要するのだ。
『お帰りなさい。早速ですが、クエスト報告をお願いします』
にこやかに頭を下げたかと思うと、すぐに真面目な表情に戻ったギルド職員。
アードウルフと、食べ残したホワイトアントの残骸を提示すれば、面白いほどはっきりと、職員の顔色が変わった。それだけこの報告は重大なことだったらしい。
1匹いたら1000匹はいると思え、だっけ?
シロアリは木が主食だけど、普通のシロアリじゃなく魔物。ただのアリでさえ繁殖力があんなに高いのだから、万が一を考えなくてはいけない。
『女王蜂の主食、ローヤルゼリー……確かにお預かり致しました。報酬を、お受け取りください』
【アクエリア周辺の森の調査、E】
何が森に棲み着いたのか、どれほどの規模なのかを調査。できれば討伐。
報酬1万+5000(ホワイトアント、アードウルフの情報分)M。
俺が報酬の受け取りを確認すると、ギルド職員はもう一度深々と頭を下げ、受付に休止の看板を掲げ奥へ引っ込んでしまった。
双子が言うには、大量討伐の手続きじゃないか? とのこと。冒険者にもプレイヤーとNPCがいるが、アクエリアにいる冒険者達総出のクエストになりそうだ。
俺達は不参加かなぁ……いくらゲームだと言っても、可愛い妹達に無茶なことはさせたくない。俺自身、2人を守れる力すら無いのだし。
「私とひぃちゃん、リグで、ツグ兄ぃを守りながら乱戦とか、マジ無理無理!」
「のんびり強くなれば、良い。無理はいけない」
「んふふ、私達には私達なりの、楽しみがあるもんね!」
「ん、もんね」
俺の心を読んだかのような双子の言葉。思わず彼女達の頭を撫でた途端、ギルド内が騒がしくなった。どうやら依頼ボードが使えなくなり、全てのクエストが受注停止となったらしい。
少し混乱しているみたいだけど、ギルド職員が慣れた様子で冒険者を諌めている。
その時、ぴこんっと可愛らしい効果音と共にウィンドウが開いた。
ちなみに、ここでウィンドウを見ているのがプレイヤー、職員が貼り直す依頼ボードに殺到しているのがNPCだ。
【緊急大量討伐イベント!】
*水の街アクエリア周辺の森に、ホワイトアントの大群、アードウルフの群れが棲み着いた! 冒険者達よ、力を合わせ殲滅せよ!*
こちらの討伐依頼は水の街アクエリア、アクエリア周辺にいる冒険者に発注しております。
【ランク】
B~F
【成功条件】
ホワイトアント、アードウルフの殲滅or活動できない程度に群れを壊滅。
【失敗条件】
ハニービーの現女王蜂の死亡or次代女王蜂2匹の死亡。
【達成報酬】
討伐数に応じ金額&ランダムアイテム
【承諾しますか?】
【はい】【いいえ】
「ツグ兄ぃ、心苦しいけど【いいえ】を押そう」
「あ、あぁ」
ギルド内でウィンドウを見ているほとんどのプレイヤーは、【はい】を押しているようだった。
興奮し、説明を求めて受付カウンターに殺到する冒険者達から逃れるように、俺達は隅へ移動し、【いいえ】を押した。俺が決定権を持っているからね。
「ツグ兄、気になるなら、後で女王様のところ、行けば良い。戦わない、けど様子見。ちょっと」
「そう、だな。何か料理持って、様子を見に行くか」
「じゃあ買い物して、作業場に直行だね!」
異様な熱気を帯びるギルドから、俺達はそそくさと退散した。
俺はひょろいし、双子は年齢的に、大人の冒険者達に敵う訳がない。無理に留まっても、吹き飛ばされたりはぐれたりするだけだと思う。
ギルドから出て行く時、数人の冒険者が道を開けて、俺達が通り易いようにしてくれた気がする。目礼だけは返したが、通じただろうか?
対照的にすっかり閑散としてしまった噴水広場に、俺達は食材を求めてやって来た。
閑古鳥が鳴いてる露店の多くはプレイヤーの店で、目が合うと苦笑された。まぁ彼らからしたら、手痛いイベントだ。イベントが終われば、消費したアイテムの補充で客が増えるよ、多分。
『いらっしゃい!』
元気も恰幅も良いNPCの女主人が店番をする食材店――露店、と呼ぶにはいささか品揃えが良すぎる気もするけど、そこはゲームなのでスルーしておこう。
物流の仕組みもリアル世界に近付くみたいだし、アップデート後はこうも行かないんだろうなぁ。徐々に物流が滞るんだろうか? 分からん。
今朝収穫したばかりの瑞々しい果実に、こちらもつい先ほど入荷したばかりの野菜。豊かな湧き水で育った作物はどれも美味しそうだ。
双子の意見を聞きつつ、片っ端から買っていく。買いすぎないように気を付けなくては……。
「牛乳は無い、のか?」
『あぁ、生憎と今は切らしててねぇ。時間があるなら牧場に行くと良いよ! 牛とキュピがいるからね。搾り立てをくれるはずさ』
「キュピ?」
ぽつり……俺が小さく呟いた言葉に、恰幅の良い女主人はすまなそうに答えた。
キュピという聞き慣れない単語を聞き返せば、彼女は面白いものを見たような表情で、豪快に笑った。
『なんだいなんだい、お客さん冒険者なのに知らないのかい? 牛に似た、けれど3倍くらいデカい魔物のことさ。キュピの乳は味が濃厚で美味しいよ!』
「ジャージー牛、みたいな感じか? いや……ありがとう。このあと行ってみるよ」
『あぁ、絶対キュピの乳を飲ませてもらいな! まいど!』
丁寧に牧場の場所まで教えてくれた、にこやかな女主人と別れる。そりゃ、これだけ買えば機嫌も良くなるか。鍋やらの容器はたんまり買ってあるし、牛乳を入手しに牧場へ行こう。
無くても困らないんだけど、あった方が俺の料理が美味くなる。これは胸を張って言える。
「情報によると、キュピは牛系魔物で、穏やかな魔物らしいよ~」
「へぇ、なるほど」
「キュピ乳楽しみだね!」
「ん、だね」
双子とのんびり会話をしながら噴水広場を歩く。
広場の通りは4つに分かれ、西に行くと、農業と畜産を営む場所に辿り着くそうだ。徐々に建物が無くなり視界が開けると、田舎らしい風景が広がっていた。
畑を耕すNPC、雑草を抜くNPC、作物を収穫するNPC、普通の羊を追い回す二足歩行の羊を連れたNPC、農具で虫のような魔物と戦うプレイヤー……。
草を毟る姿にはどこか親近感を覚えたが、農具で戦うプレイヤーは二度見してしまった。しかし俺は悪くない。
「気にしない」
ヒタキの言葉に頷き、その場を後にする。周りのNPCも気にしていなかったし、触らぬ神に祟り無し。面倒なフラグは回避せよ、と満場一致。
5分ほど歩けば、日本でもよく見る、白と黒の模様を持つホルスタイン種の牛の群れがいて、その中で3倍の大きさのキュピが数頭、仲良く草を食んでいる。すごく、大きいです。
木の柵に俺達が近寄ると、牛達は「なになに?」と興味津々な感じで近寄ってくる。もちろんキュピも。大きな体格をしているが、どの子も確かに穏やかで人懐っこく、目が優しい。
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