青春フォトグラフ

武田花梨

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1・ゆっちゃんと呼ばないで②

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 悠翔くんの電話も終わる頃、ほかの生徒さんも集まってきた。
 里吉くんと二人で話せなくなったのは寂しいけど、少しほっとした。ずっと緊張しちゃってたみたいで、少し体が軽くなる。
 フォトレッスンが始まると、私には特にやることがなくなる。だから、はじっこに座っていっしょにレッスンを受けることが多いんだ。
 私の一眼レフカメラは、悠翔くんが中学生のときに使っていたものをおさがりでもらったんだ。初心者でも使いやすいタイプ。
 ボルドーカラーの可愛いカメラストラップは自分で買ってつけているよ。
 レッスンをはじめた悠翔くんは、初心者の人でも撮れるプロっぽい撮影テクニックについて説明している。
 何度も聞いた話ではあるんだけど、いざ自分事となると超熱心に聞いちゃう。
 里吉くんにほめられる写真を撮りたいから。やっぱり、目的があるとがんばれるよね!

「写真を撮るときは、主題と副題を意識しましょう。たとえば、きれいなお花畑を主題として撮りたい場合、副題となる背景に駐車場やマンションが映りこむよりも、青空や雄大な山、可愛い風車小屋なんかが映っていた方がいいですよね」

 悠翔くんのレッスンに、私はうんうんとうなずく。何度も聞いている内容なんだけど、おしゃべりがじょうずだから聞き入っちゃう。

「カメラを構える前に、主題と副題の関係をしっかり意識しましょう。すぐにカメラを構えるのではなく、被写体探しに時間を使ってくださいね」

 きれいな写真を撮るには、まず事前の準備が大切なの。奥深いんだよね。

「そして、カメラの設定も重要です。テキストを見てください」

 悠翔くんは、一眼レフカメラの設定についての解説を始める。一眼レフカメラは細かく設定を決められるから、自分なりの個性を出しやすいんだよ。
 私は、里吉くんの後ろ姿を見る。
 猫背になるほど、一生懸命テキストを見たりカメラの設定をいじったりしている。
 本当に、カメラが好きなんだな……。
 いつもは悠翔くんばかり見ているレッスンだけど、今日は丸まった背中ばかりを何度も見てしまった。
 その後も、悠翔くんはすぐに実践できるカメラテクニックを話していく。あっという間に1時間のレッスンが終わった。
 私は参加してくれた生徒さんたちに、チラシを配る。
 内容は、次回レッスンのフォトウォークについて。フォトウォークとはつまり、屋外で写真撮影をしよう! ってこと。悠翔くんのフォトレッスンは、光悠堂での座学とフォトウォークでの実践の計2回で行われるんだよ。

「次のレッスンでは、フォトウォークを行います。ちょうどコスモスの開花時期なので、河川敷公園のコスモス畑で実践してみましょう」

 悠翔くんはにっこり笑顔で告知。そっか、もうコスモスが咲く時期なんだ。この間中学に入学したと思ったのに。時の流れって早い!

「それではみなさん、お疲れさまでした」

 悠翔くんの声で、レッスンは終わり。生徒さんたちは「ありがとうございました」「次回もお願いします」と声をかけあいつつ、それぞれ帰り支度をはじめる。里吉くんもカメラを大切そうにバッグにしまいながら、ちらりと私を見た。

 えっ、なんだろう……。

 意味ありげな視線を送られて、私はどぎまぎ。
 里吉くんは周囲を少しきょろきょろと見てだれもいないことを確認した後、私をじっと見て口を開いた。

「幸穂さんも、フォトウォークに来る?」

 どこか心細そうに、里吉くんは私にたずねた。

「あ、うん。お手伝いに行くよ」

「よかった。いっしょに、写真撮ろうね」

 やわらかいほほ笑みで言うと、里吉くんは悠翔くんにぺこりとおじぎして光悠堂を出た。
 いっしょに、だって。
 その言葉に、心が、ほわほわあったかくなる。
 里吉くんと写真を撮ったら、すごく楽しいだろうな。誘ってくれてうれしい!
 浮き足立つ気持ちのまま、私はお片付けを率先してやった。


「ゆっちゃん、帰り送っていくから待ってて」

「いいよ、ひとりで帰れるよ」

 悠翔くんの申し出はうれしいけど、家は近い。

「このまま車で出かけるから、そのついでに。着替えてくるから、ちょっと待ってて」

 悠翔くんは、レッスンに使っていたスタジオの奥の事務所に消えていった。そっか、午後はカメラメーカーの新製品発表会だっけ。
 片づけをしつつ待っていると、悠翔くんが戻ってきた。
 スーツ姿!
 いつもは動きやすいカッコにカメラベスト(カメラやレンズがたくさん入るベストがあるんだ)ばかりだから、黒いスーツは珍しいし……かっこいい。大人の色気を感じるなぁ。
 悠翔くんの車の助手席に乗って、家まで送ってもらう。
 見慣れた街の風景を見ながら、私は里吉くんのことをぼんやりと考える。いっしょに写真撮ろうって言ってくれた。うれしい。でも、写真がヘタってバレたくない。どうしようかな……。

「あーあ、とうとうゆっちゃんに彼氏かぁ」

 車が信号待ちで止まったとき、悠翔くんがわざとらしく大きな声を出した。
 その言葉に、浮かれていた気持ちがひゅっとしぼむ。

「彼氏って! 里吉くんとは、今日はじめて会ったばっかりなんだけど」

「でも、学校も学年も同じなんでしょ?」

「電話しながら聞いてたの?」

 悠翔くんは、へへっと笑う。

「ゆっちゃんが大人になるの、おじさんはうれしいよ」

 お父さんみたいな言い方。男の子とちょっと仲良く話したくらいで、すぐ付き合ってるとかそういう見方をされるのは気分がよくないんだけど!
 昔は、助手席から見る悠翔くんのこと、カメラを構えているときとおなじくらい好きだった。
 今は……どうだろう。急に、助手席からの景色が色あせて見えた。

「おじさん、って。悠翔くんはまだ24歳じゃない」

「ゆっちゃんからしたらおじさんだよ」

 悠翔くんは、ときどきわざと私の気持ちを離れさせようとすることばかり言う。
 もしかしたら、子どもの私が悠翔くんを好きでいることが迷惑だったのかもしれない……。
 だから、私が里吉くんのことを好きになってくれたら、悠翔くんはうれしいんだろうな。やっと解放される、くらいに思っているかもね。
 別に、悠翔くんをあきらめるために里吉くんと仲良くなろうなんて思ってないよ。
 思ってないけど……ふんわり拒絶されてしまったことが、悲しい。
 私が好きでいることが迷惑なのかもしれないと思うと、この恋心がかわいそうに思えた。

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