38歳、そろそろ余生を謳歌します。

武田花梨

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第五章

5-1

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 週明け月曜、朝から憂鬱。

 同僚はみな、金曜夜に何があったのかを聞きたい! という顔で待ち構えていた。
 週末は失恋の傷を癒すべく、ただひたすらにポッドキャストを聞きながら作り置きを作っては寝て、作っては寝てを繰り返していた。

「どうなりましたか、夏芽さん!」

 亘理さんの言葉を皮切りに、それぞれのデスクについて始業を待っている他の社員も聞き耳を立てているとわかるし、よく話す仲の良い人たちはこちらに近づいてきていた。

「もう始業の時間ですし……」

「ダメよ夏芽ちゃん!」

 逃げ切ろうと試みるものの、佳代子さんがミニアンドーナツを手にやってきた。

「報告も業務の一環です!」

 目を輝かせて、さあ話せと圧をかけてくる。他の社員もうんうんと頷く。
 ほんとにみんな、人の恋バナ好きだな!

「ええと……友だちになりました」

 あー話したくない。なんだよ、いい年して「友だちになりました」って報告。

「そ、それってつまりお友だちからお付き合いしましょう的な……?」

 亘理さんがごくり、とノドを鳴らして言う。そうだったら良かった。

「いえ、言葉の通り、これからもずーっとお友だちです。椎葉さんにはちゃんとパートナーもいらっしゃいましたし」

 パートナーがいることを隠していたみたいだけど、勝手に会社まで来て大々的に誘ってきた椎葉さんにはイライラしていたので、言わせてほしい。
 お友だち・パートナーという単語を聞いた途端、社内はがっかりムードになり、各々自分のデスクについた。

「……まぁ、取引相手と円満な友情が結べるというのはま、良いことよね! 揉めなくてよかったわ! さ、仕事!」

 佳代子さんも社長室に戻っていく。
 勝手に期待して、勝手に消費して、勝手に飽きて! もう!
 亘理さんは、そっかぁーと明るい声を出した。

「俺はうれしいです。椎葉さんはちょっと変わっているけどいい人みたいですし。それに、夏芽さんにお友だちが増えたのもいいことです」

「それはどうも。男のカン、半分当たってたってことになりますかね」

 亘理さんはははっと軽く笑うと、鼻の頭をかいた。

「絶対変なヤツ、ヤバいヤツと思ってましたから、大当たりです」

 それにしても、恥ずかしい。わたしは頭を切り替えようと、パソコンを立ち上げる。
 椎葉さんから、進捗のお知らせが届いていた。日曜の深夜に受信していた様子。
 確認事項について返信すると、即メールが返ってきた。
 ほんとうに、休みなく仕事しているんだ。仕事が好きなんだな。
 ファイナンシャルプランナーとして、ちゃんと仕事をしよう。椎葉さんの仕事に華を添えよう。アプリをたくさんの人に利用してもらえるようがんばろう。
 浮かれていた気分を引き締めるように、わたしは集中力を高めて自分の業務をこなしていった。
 こんなちょっとした躓きも、余生を謳歌するという意味では楽しいものだよね。



 仕事を終えて帰宅し、夕飯の準備をしてテーブルにつくと、大坪さんからメッセージが届いていたことに気づく。
 金曜夜のあれこれについて誰よりも早く相談したのも大坪さんだ。金曜は夜中までメッセージに付き合ってくれた。
 持つべきものはお友だち!
 昨日作っておいたナスとジャガイモのチーズ焼きをつつきながら見てみると……。

『今週の土日、どちらかご都合つきませんか? おうちにお邪魔したいです!』

 ようやく大坪さんからのお誘いが!
 大坪さん、有給消化中とはいえ土日は何かと忙しいらしく、なかなか会えなかった。
 会社を辞めて新しい事業を立ち上げるとのことだから、忙しいんだろう。ようやく土日が空いたということは、いろいろとめどが立ったのかもしれない。
 どういう事業をするかは聞いていないから、会ったら詳しく聞いてみたい。
 土曜日は家の掃除にあてたいから、日曜日にしてもらおう。
 メッセージにその旨を書いて送る。

 そうだ、土曜日には美味しいお菓子も買いに行こう。
 アツアツのチーズ焼きを食べながら、わたしの心はまた浮足立つ。

 まだ、千尋とは連絡をとれていない。とる勇気がない。でもずっと、心の大きな部分を占めている。心の隙間を、椎葉さんや大坪さんで埋めていく作業をずっとしているけれど、埋まる気配はなかった。

 謝るべき? でも、千尋だってわたしにひどいこと言ったんだよ?

 どうせカナダに行くんだから、きっとわたしのことなんてどうでもいいんだよ。
 20年以上の友情が終わるのは、あっという間。
 友情って永遠だと思っていたけれど、有効期限があるんだ。
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