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第四章
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不安になりながらしばらく公園内を歩くと、視界が開けて目の前にライトアップされた東京ゲートブリッジが見えた。
「わ! きれい!」
さっきまで「意味が分からない」で頭がいっぱいだったけれど、ようやく椎葉さんがここへ来たかった意味がわかった。
ライトアップされたゲートブリッジの近くを飛行機が飛んでいく。すごく近くて大きく見えて、迫力があった。
「ここでごはん食べましょう」
空いているベンチに座る。周囲にも、夜景を見に来たと思われるカップルがいた。みんな大学生くらいの子たちだけど……。
椎葉さんはベンチが汚れていないか手で確認してから、わたしを座らせてくれる。
「ありがとうございます、椎葉さんてほんと優しいですね」
椎葉さんに感化され、わたしもスムーズに褒められるようになってしまった。
「当たり前のことですよ」
わたしたちは横に並び、東京ゲートブリッジを見ながらコンビニで買ったコーヒーを飲んだ。あたたかさに心が落ち着く。
「お腹すきましたね」
椎葉さんがおにぎりの包装をはがしてのりを巻きつけていく。ゴミはビニール袋の中へ。
「ではわたしも、いただきます」
わたしもサンドイッチの封をあけて、ベーコンレタスサンドを口にする。
いい大人が、若いカップルに混ざってコンビニごはんを食べるという不思議な光景。
きらびやかな夜景とのミスマッチさに笑ってしまいそう。
「僕はずっと、こういうデートがしたかったんです」
ぽつりと、椎葉さんが口を開く。
「若い頃は車がなかくて、こういう自然が豊かなところって訪れにくくて」
「そうですね、バスと電車を乗り継いで、となると時間がかかりますし」
「で、仕事に成功してお金を持つようになると、こういうお金のかからないデートってしにくくなってしまって。みんな、僕にきらびやかな世界を期待するから」
「そう、なんですね」
すみません、わたしも期待してました……とはいえず、サンドイッチを口に押し込む。
「だから……この間、高邑さんがハンバーガーがいいって言ってくれた時、すごく嬉しかった。あの頃の僕の夢を叶えてくれる人がいるのかもって」
「わたし自身、あんまりきらびやかな世界を知らないから、求めることができないだけです」
言ってて悲しいけど、それが事実……。
椎葉さんがふたつ目のおにぎりを食べ終え、コーヒーを手にぼんやりと東京ゲートブリッジを眺める。月が橋の上に鎮座し、わたしたちの行方を野次馬根性で見ている気がした。
わたしもサンドイッチを食べ終え、コンビニ袋に包装をまとめる。
その様子を見ていた椎葉さんが、わたしに向き直った。
「高邑さん」
「はい」
真剣な表情。わたしも、背筋を伸ばして椎葉さんを見つめる。
何を言われるのだろう。夜景のきれいな公園。ここまでの盛り上がり。
すべてを加味すると……言われる言葉は想像がついてしまう。
ここで告白じゃなかったら、なに? って話!
椎葉さんはわたしの手を取り、握りしめた。
そうだよね、そうなるよね。想像通りの展開。
椎葉さんはわたしに顔を近づけてきて……。
「僕とお友だちになってくれませんか?」
………………え。
お友だちになってって言った?
あ、そうか。お友だちからはじめませんか……ってこと?
なるほどね!
「もちろん、です」
とりあえず、うなずいた。
「よかった!」
ほっとした様子で、椎葉さんは身体を離してベンチにもたれかかった。
「この年でお友だちなんてだいぶ恥ずかしかったんですけど、受け入れてくださってよかったです」
「はあ」
あれ、思ってたのとなんか違う?
「僕、ずっとお友だちがほしかったんです。でも男同士だとすぐ飲み屋に行くことになるし、女性だと高い店にお連れしないと不機嫌になる方も多くて、なかなか対等なお友だちってできなくて。高校生のように、コンビニごはんを食べてなんてことない話をしたくて」
あれ、これ本当の意味でのお友だちってこと……?
「えっとー、一応確認なんですけど、今もこれからもずっと友人関係の継続を望むという形で間違いないでしょうか?」
「はい、そうですけど……」
何を当たり前のことを聞くのだといわんばかりのきょとん顔をされた。
こっちがしたいんですけど、その顔!
「弊社にいらしたとき、みんなの前で誘ったというのはいったい……」
すると、椎葉さんははっとした顔になって頭をさげた。
「すみません、でも普通に誘っても『50歳のおっさんから誘われたけどなにかあるのでは?』って怖い思いをするんじゃないかと」
「ごじゅ……!」
つい、驚きが声に出てしまった。若く見えすぎる。てっきりアラフォーくらいかと思っていた。なんなら、落ち着いて見えるアラサー……。
「みんなの前で言えば、下心がないよ、というアピールになるかと思って。あ、もしかして勘違いさせてしまいましたか……?」
「いいや! わたしはわかってましたけどね! お友だちとして誘ってくださっているって! あんなに堂々と人前で、ねぇ!」
「そうでしたか! よかったです!」
わかるかーい、と心の中で思いつつ、とうに空になった紙コップに口をつける。
亘理さんが「あいつは信用ならない、男のカンす!」と言っていたけど、まさかこういう意味とは誰も思っていなかったんじゃないだろうか。
確かに50歳の男性から真剣にお友だち付き合いについて提言されたら、ちょっと怖いかもしれない。
「また今度、ぷらっと出かけましょうね! あーよかった」
満足した椎葉さんは、そうだ、と言ってスーツの内ポケットからスマホを出した。
「真乃さんに報告しなくちゃ!」
誰ですか、と問いかける間もなく、榛葉さんはスマホを操作し、誰かに電話をかけている。
通話が繋がると、画面には赤いリップが特徴的なきれいな女性がうつっていた。
「真乃さんこんばんわ。そちらはおはようございますかな」
『亮くん、どうしたの? 外にいるの?』
落ち着いていて、大人の魅力が感じられる女性だった。
「実は、先日話していた高邑さんと無事お友だちになりまして」
『よかったじゃない! 今いらっしゃるの?』
椎葉さんが、インカメラをわたしに向けた。
えっ、わたしがしゃべるの?
「ええと、こんにちは……」
『はじめまして。椎葉のパートナーの石崎真乃と申します』
丁寧なあいさつ。へー、パートナーかぁ。いたんだぁ。ふぅん。
奥歯をギリギリと噛みしめる音が伝わらないよう、わたしは必死で作り笑いを浮かべた。
「真乃さんは、今カナダに住んでいるんです」
またカナダか! 日本人カナダ好きだな!
カナダにいるという真乃さんは、年の頃は四十代後半といったところか。落ち着いていて、頭がよさそうで華やかで。椎葉さんの隣にいるにふさわしい人だとすぐにわかった。
最初から、わたしはお友だち候補でしかなかったんだ。
『高邑さん。この人子どもみたいでびっくりしたでしょう? でも悪い人じゃないから、ヒマな時にでも遊んでやってください』
「はい、こちらこそ」
『ごめんなさいね、今から出勤しなくてはいけないの。またゆっくりお話しましょう』
「真乃さん、頑張って!」
慌ただしくビデオ通話が切られた。
「真乃さんはカナダで弁護士をしていて。僕たちお互いに仕事大好き人間だから一緒には暮らせないけれど、お互いの存在が支えになっているんです」
椎葉さんは幸せそうに、スマホを撫でた。
「すてきですね」
皮肉ではなく、そう思えた。それぞれの人生を生きる中で、支え合える理解者がいるというのはとても心強いだろう。
「ありがとうございます。でも僕たちの関係をいろいろ言われるのがイヤで、表向きはモテない男を演じてます」
インタビュー記事で、結婚について話していたのはフェイクだったということか。
有名人のインタビュー記事を真に受けてしまった。くやしい。
けど……。
椎葉さんを見ると、とても嬉しそうで幸せそうで、それだけでわたしも良い気分になれた。
わたしもお友だちがほしかったし。悪くない結末だったと思う。
思った通りの結果にならなかったけれど、久しぶりにときめきをくれた椎葉さんに感謝!
「わ! きれい!」
さっきまで「意味が分からない」で頭がいっぱいだったけれど、ようやく椎葉さんがここへ来たかった意味がわかった。
ライトアップされたゲートブリッジの近くを飛行機が飛んでいく。すごく近くて大きく見えて、迫力があった。
「ここでごはん食べましょう」
空いているベンチに座る。周囲にも、夜景を見に来たと思われるカップルがいた。みんな大学生くらいの子たちだけど……。
椎葉さんはベンチが汚れていないか手で確認してから、わたしを座らせてくれる。
「ありがとうございます、椎葉さんてほんと優しいですね」
椎葉さんに感化され、わたしもスムーズに褒められるようになってしまった。
「当たり前のことですよ」
わたしたちは横に並び、東京ゲートブリッジを見ながらコンビニで買ったコーヒーを飲んだ。あたたかさに心が落ち着く。
「お腹すきましたね」
椎葉さんがおにぎりの包装をはがしてのりを巻きつけていく。ゴミはビニール袋の中へ。
「ではわたしも、いただきます」
わたしもサンドイッチの封をあけて、ベーコンレタスサンドを口にする。
いい大人が、若いカップルに混ざってコンビニごはんを食べるという不思議な光景。
きらびやかな夜景とのミスマッチさに笑ってしまいそう。
「僕はずっと、こういうデートがしたかったんです」
ぽつりと、椎葉さんが口を開く。
「若い頃は車がなかくて、こういう自然が豊かなところって訪れにくくて」
「そうですね、バスと電車を乗り継いで、となると時間がかかりますし」
「で、仕事に成功してお金を持つようになると、こういうお金のかからないデートってしにくくなってしまって。みんな、僕にきらびやかな世界を期待するから」
「そう、なんですね」
すみません、わたしも期待してました……とはいえず、サンドイッチを口に押し込む。
「だから……この間、高邑さんがハンバーガーがいいって言ってくれた時、すごく嬉しかった。あの頃の僕の夢を叶えてくれる人がいるのかもって」
「わたし自身、あんまりきらびやかな世界を知らないから、求めることができないだけです」
言ってて悲しいけど、それが事実……。
椎葉さんがふたつ目のおにぎりを食べ終え、コーヒーを手にぼんやりと東京ゲートブリッジを眺める。月が橋の上に鎮座し、わたしたちの行方を野次馬根性で見ている気がした。
わたしもサンドイッチを食べ終え、コンビニ袋に包装をまとめる。
その様子を見ていた椎葉さんが、わたしに向き直った。
「高邑さん」
「はい」
真剣な表情。わたしも、背筋を伸ばして椎葉さんを見つめる。
何を言われるのだろう。夜景のきれいな公園。ここまでの盛り上がり。
すべてを加味すると……言われる言葉は想像がついてしまう。
ここで告白じゃなかったら、なに? って話!
椎葉さんはわたしの手を取り、握りしめた。
そうだよね、そうなるよね。想像通りの展開。
椎葉さんはわたしに顔を近づけてきて……。
「僕とお友だちになってくれませんか?」
………………え。
お友だちになってって言った?
あ、そうか。お友だちからはじめませんか……ってこと?
なるほどね!
「もちろん、です」
とりあえず、うなずいた。
「よかった!」
ほっとした様子で、椎葉さんは身体を離してベンチにもたれかかった。
「この年でお友だちなんてだいぶ恥ずかしかったんですけど、受け入れてくださってよかったです」
「はあ」
あれ、思ってたのとなんか違う?
「僕、ずっとお友だちがほしかったんです。でも男同士だとすぐ飲み屋に行くことになるし、女性だと高い店にお連れしないと不機嫌になる方も多くて、なかなか対等なお友だちってできなくて。高校生のように、コンビニごはんを食べてなんてことない話をしたくて」
あれ、これ本当の意味でのお友だちってこと……?
「えっとー、一応確認なんですけど、今もこれからもずっと友人関係の継続を望むという形で間違いないでしょうか?」
「はい、そうですけど……」
何を当たり前のことを聞くのだといわんばかりのきょとん顔をされた。
こっちがしたいんですけど、その顔!
「弊社にいらしたとき、みんなの前で誘ったというのはいったい……」
すると、椎葉さんははっとした顔になって頭をさげた。
「すみません、でも普通に誘っても『50歳のおっさんから誘われたけどなにかあるのでは?』って怖い思いをするんじゃないかと」
「ごじゅ……!」
つい、驚きが声に出てしまった。若く見えすぎる。てっきりアラフォーくらいかと思っていた。なんなら、落ち着いて見えるアラサー……。
「みんなの前で言えば、下心がないよ、というアピールになるかと思って。あ、もしかして勘違いさせてしまいましたか……?」
「いいや! わたしはわかってましたけどね! お友だちとして誘ってくださっているって! あんなに堂々と人前で、ねぇ!」
「そうでしたか! よかったです!」
わかるかーい、と心の中で思いつつ、とうに空になった紙コップに口をつける。
亘理さんが「あいつは信用ならない、男のカンす!」と言っていたけど、まさかこういう意味とは誰も思っていなかったんじゃないだろうか。
確かに50歳の男性から真剣にお友だち付き合いについて提言されたら、ちょっと怖いかもしれない。
「また今度、ぷらっと出かけましょうね! あーよかった」
満足した椎葉さんは、そうだ、と言ってスーツの内ポケットからスマホを出した。
「真乃さんに報告しなくちゃ!」
誰ですか、と問いかける間もなく、榛葉さんはスマホを操作し、誰かに電話をかけている。
通話が繋がると、画面には赤いリップが特徴的なきれいな女性がうつっていた。
「真乃さんこんばんわ。そちらはおはようございますかな」
『亮くん、どうしたの? 外にいるの?』
落ち着いていて、大人の魅力が感じられる女性だった。
「実は、先日話していた高邑さんと無事お友だちになりまして」
『よかったじゃない! 今いらっしゃるの?』
椎葉さんが、インカメラをわたしに向けた。
えっ、わたしがしゃべるの?
「ええと、こんにちは……」
『はじめまして。椎葉のパートナーの石崎真乃と申します』
丁寧なあいさつ。へー、パートナーかぁ。いたんだぁ。ふぅん。
奥歯をギリギリと噛みしめる音が伝わらないよう、わたしは必死で作り笑いを浮かべた。
「真乃さんは、今カナダに住んでいるんです」
またカナダか! 日本人カナダ好きだな!
カナダにいるという真乃さんは、年の頃は四十代後半といったところか。落ち着いていて、頭がよさそうで華やかで。椎葉さんの隣にいるにふさわしい人だとすぐにわかった。
最初から、わたしはお友だち候補でしかなかったんだ。
『高邑さん。この人子どもみたいでびっくりしたでしょう? でも悪い人じゃないから、ヒマな時にでも遊んでやってください』
「はい、こちらこそ」
『ごめんなさいね、今から出勤しなくてはいけないの。またゆっくりお話しましょう』
「真乃さん、頑張って!」
慌ただしくビデオ通話が切られた。
「真乃さんはカナダで弁護士をしていて。僕たちお互いに仕事大好き人間だから一緒には暮らせないけれど、お互いの存在が支えになっているんです」
椎葉さんは幸せそうに、スマホを撫でた。
「すてきですね」
皮肉ではなく、そう思えた。それぞれの人生を生きる中で、支え合える理解者がいるというのはとても心強いだろう。
「ありがとうございます。でも僕たちの関係をいろいろ言われるのがイヤで、表向きはモテない男を演じてます」
インタビュー記事で、結婚について話していたのはフェイクだったということか。
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けど……。
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