主人公なんかじゃない

武田花梨

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2・物語の中へ!?③

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 また、玄関のほうが騒がしくなった。ほかのメンバーが帰ってきたみたい。

「ただいまー……って、女子がいるいんだけど!?」

 中学三年生、お調子者のリーダーの黒島くろしまタイガくんが、大きなリアクションで驚いている。
 その後ろから来た中学二年生の柴村しむらシオンくんが、さっと黒島くんの後ろに隠れる。

「知らない人がいる……」

 人見知りなんだよね、柴村くんは。メンバーにしか心を開かない。
 赤染くんは、二人にもさっきと同じ説明をした。
 これで、カラリスのメンバー全員が私の目の前に。イラストじゃなくて、三次元で。
 イラストとはちょっと違うけれど、特徴も雰囲気も声も、なんとなくイメージと合っている。

「眞緒ちゃん、ゆっくりしていって。それにしてもおかなすいたー! お菓子食べよーっと!」

「僕も、食べる……」

「みんな、夕飯食べられる程度にしておきなよ」

「だいじょうぶだ! いくらでも入る!」

 メンバーは、みんなそれぞれリビングでくつろぎだした。

 圧巻。ここにいる全員、見た目がいい。

 正統派王道イケメンの赤染イオリくん。
 かわいくてムードメーカーの桃原ハルトくん。
 最年少なのにクールな黄川田ミナトくん。
 人見知りで子犬っぽい柴村シオンくん。
 元気なリーダーの黒島タイガくん。

 目の前で、カラリスの五人がおしゃべりしながら、ジュースを飲んだりお菓子をあけたりしている。

「眞緒ちゃんも食べるー?」

 ハルトくんが、ポテトチップスの袋を差し出してくれる。
 食べていいのかな……カラリスのハルトくんが渡してくれるお菓子なんて、神々しすぎない?

「遠慮はいらないよー!」

 ハルトくんのかわいい笑顔に、私もつい笑顔になる。

「あ、ありがとう。じゃあいただきます」

 袋に手を入れて、ポテトチップスを一枚つまみ、口にする。これまでで一番おいしい。
 やっぱりこれ、夢じゃないよね。夢にしてはリアルっていうかなんていうか……物語の中に入った、っていう表現がぴったりする。

 じゃあ、私がいた世界では、今の私はどうなっているんだろう?

 私は存在している? どこかに消えちゃって、家族が心配している?

 そもそも、元の世界に戻れるの?

 そう考えると、怖くなってきた。
 憧れのカラリスのメンバーが目の前にいるのはうれしいけど、でも家族と会えなくなるのはイヤ。リカコに会えないのもイヤ。
 夢じゃなくて現実だったらどうしよう、不安になってきた。

「だいじょうぶ?」

 赤染くんの声で、はっと意識を戻す。
 急に黙っちゃった私に、声をかけてくれた。

「知らない家に来て疲れたよね。俺の部屋で休んでいいよ」 

 私の返事を待たず、赤染くんが立ち上がる。
 別に疲れてないんだけど……と言おうとしたけど、赤染くんがわずかに私に目くばせした。そっか、物語の世界のことを聞きたいのかも。
 それにしても……俺の部屋って言ったよね。私が、赤染くんの部屋に行くってこと?
 パニックになっている間に、赤染くんはメンバーに状況を説明した。

「みんなゴメン。眞緒ちゃん、疲れているみたいだからちょっと部屋で休んでもらう」

「そうだよね、騒がしくしてごめん」

 一番騒いでいたリーダーの黒島くんが、急に神妙な顔つきになる。

「ゆっくり休んでねー!」

 ハルトくんが手を振ってくれた。柴村くんはうつむいたまま黄川田くんにぴったりくっついている。黄川田くんが軽く手をあげて私にあいさつしてくれた。
 みんな、すごく優しい。何者かよくわからない私に気をつかってくれる。小説の中以上に、とってもいい人たち!

「ありがとう、じゃあ少し休むね」



 赤染くんについていって、二階にあがる。
 赤染くんの部屋に、入るのか。すごい展開。
 部屋のドアを開け、赤染くんが私を招き入れてくれた。

「お、おじゃまします……」

「おじゃましますって」

 赤染くんが、おかしそうにくすくす笑う。
 あ、ここは最初にいた部屋だ! てことは、物語は赤染くんの部屋と私の部屋が繋がっているってこと?
 部屋の中には、大きな本棚があった。これも、イラストで見た覚えがある、赤染くんは読書が好きっていうキャラクターなの。でも、具体的にどんな本を読んでいるかは物語に書かれていないから、興味はあった。
 赤染くんがベッドに座る。私はどこに座ろうか。とまどっていると、赤染くんがベッドをぽんぽんとたたく。

「横、座って」

 横って! 赤染くんの隣? ベッドに?

「人様のベッドの上に座るのは……」

「俺、そういうの気にしてないから」

 赤染くんが、私の手首を握って、なかば強引にベッドに座らせた。
 いやぁぁぁぁ、すごいことが起きているよ!
 私の身体はずーっと沸騰状態だけど、その中でも手首はさらに熱い。
 赤染くんの手、あったかい。赤染くんは、この世界でちゃんと生きている人間なんだ。
 改めて赤染くんの存在を思い知る。夢じゃない。
 赤染くんも、自分の手のひらを見ている。そして、私の顔をまじまじと見た。

「眞緒ちゃん、生きている。二次元じゃない」

「同じこと、思った」

 思わず吹き出した。赤染くんがあまりに大真面目な顔をしているから。

「だってさ、おどろくよ。イラストでしか見たことがないんだから」

「私も、びっくりしちゃった」

 ふつうの会話を、赤染くんとしている。私、ちゃんとしゃべれているよね? もごもごしてないか、急に不安になってきた。
 私の不安をよそに、赤染くんは真剣な顔つきになる。

「えっと、それで眞緒ちゃんはどうやってこっちの世界に?」

 そうだ、楽しく会話している場合じゃない。

「学校から帰って、部屋で『カラリス☆ステージ!』の一巻を広げたら、いつの間にか」

「『カラリス☆ステージ!』っていうの? この世界の物語は」

「うん」

 赤染くんが、おもしろそうに目を細めた。
 そうだよね、自分の生きている世界にタイトルがついているっておもしろいよね。

「私のいる世界の物語って、どういうタイトルなの?」

 やっぱり気になる!
 赤染くんは立ち上がって本棚から一冊の本を取り出してまた私の隣に座る。
 ふわっといい香りがする。シャンプーのにおい? ボディクリーム? それとも香水?
 あまくて、すこし刺激的なにおいが赤染くんにぴったりだった。

「眞緒ちゃんの世界はこれ」

 見せてくれた本の表紙には『ひまわりダイアリー』というタイトルロゴが書いてある。
 リカコと思われる女の子が、ひまわり柄のノートを持っているイラストが描かれていた。そのとなりには、黄色くてまるっこい犬のような猫のようなどうぶつのイラスト。
 イラストになっても、リカコはかわいいな……。ひまわりは、リカコの好きな花なんだよ。

「モデルの陽田リカコちゃんが、芸能界でおきるあやかし事件を解決していく話だよ」

「あやかし事件?」

 ずいぶんフィクションな物語! あやかしなんて見たことないよ。

「おしゃべりできる『マル』が相棒」

 表紙イラストの、黄色いいきものを指さす。その指が、細くて長くてきれいで驚いてしまう。

「あやかしも、おしゃべりできるいきものも、私の世界にはいないよ」

「そうなの? あ、でもリカコは、眞緒ちゃんにはあやかしのこともマルのこともひみつにしているから知らないだけかも」

「そ、そうなのかな……」

「眞緒ちゃんが知らない間に、命の危機から救ったこともあるよ! 下校中、あやかしに襲われそうになった眞緒ちゃんを――」

 目を輝かせながら、ストーリーを教えてくれる。
 私がなにも知らない間に、リカコがマルとあやかし事件を解決していたとしたら……夢が広がる!
 とはいえ、やっぱりリカコは物語の中でもかっこいいな。
 私はなにも知らずに、ただ助けられているだけの脇役。それに不満は……ない、よ。

「眞緒ちゃんの登場シーンはね……」

 赤染くんが『ひまわりダイアリー』をひらいた。
 私に本の中を見せるため、めちゃくちゃ密着してくる。赤染くんの二の腕が、ぴったりと。
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