主人公なんかじゃない

武田花梨

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3・赤染くんが私の部屋に!②

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 ……

 …………

 ………………


 気が付くと、赤染くんの部屋にいた。
 赤染くんの部屋に来るのは昨日に続いて二回目。男の子の部屋のにおいを感じて、なんだか気恥ずかしくなる。
 私にはお兄ちゃんや弟はいないし、お父さんだけの部屋っていうのもないから。
 ほんとうに、またこの世界に来ることができてうれしい!

「まだ、だれも帰ってきてないみたい」

 赤染くんは廊下に出て、一階リビングの様子をうかがっている。
 部屋に私がいたら、みんなびっくりしちゃうもんね。
 私たちは階段を降りてリビングに向かう。

「リンゴジュース飲む? あ、もう飽きた?」

「飽きてない! 飲みたい!」

 赤染くんがくれるなら、毎日リンゴジュースをおいしく飲める!

「とりあえず、ソファに座って」

「うん!」

 この家で、ふたりきっり。そう思うと、なんだか緊張してくるな……。べ、べつになにかしようなんて思ってないけどさっ。緊張しないほうが変だよね。
 リンゴジュースを持ってきてくれた赤染くんが、私の隣に座る。
 ととと隣っ!
 肌が触れ合うとか、服がこすれるとかするほど近いわけじゃない。ちゃんと、距離を保って赤染くんは座ってくれている。
 それでも、やっぱり隣に赤染くんがいるって思うだけで、心臓がばくばくしてくる。
 私は気持ちを落ち着けるために、リンゴジュースを口にする。甘さに心がほっとする気がした。
 落ち着いたところで赤染くんのほうを見ると……思いっきり目が合った。
 すぐに、赤染くんはふいと目をそらす。

 ……今、私のことを見てた!?

 赤染くんが、私を?

 見ているわけないよ。私みたいな脇役のことなんて、だれも興味がないよ。
 だから、うぬぼれちゃダメ……。
 たまたま、物語の中を行き来できているから、仲良くなれただけなんだから。
 でも……。
 ちらりと、赤染くんを見る。
 また、目が合う。
 すごく……なにか言いたそうな顔をしている。
 赤染くんは、なにを言ってくれるのだろう。私に、なにを伝えたいんだろう。
 おさまらない胸のドキドキ。
 赤染くんが、口を開く。

 ――ガチャッ

 扉を開く音とともに、黒いスウェットを着た黒島くんがリビングにやってきた。私は夢からさめたような気持ちになる。というか……家に、いたの? ふたりっきりじゃなかったんだ! はずかしい!
 黒島くんは、ふしぎそうに私を見る。

「なんで眞緒ちゃんがいるの? いつのまに?」

 きょろきょろと、私と赤染くんの顔を見る。

「ちょうど、今帰ってきたところなんだ。眞緒ちゃんといっしょに」

 赤染くんが、あせった様子もなくウソを言う。でも、黒島くんは首をかしげた。

「え! でもオレずっと防音室にいてドアを開けっ放しにしてたけど、玄関は開かなかったよ? さすがに、目の前の廊下を歩いていたら気付く……と思うんだけど?」

 黒髪くんは、私と赤染くんの顔を交互に見る。
 まずい。黒島くんに怪しまれている。
 赤染くんの顔を見るけど、さすがに顔が引きつっている。これはキビシイのでは……。なんて言ったらいいんだろう!?
 でも、赤染くんは、すぐに表情をやわらげた。

「あはは、なーんで防音室にいるのにドアあけてんの。防音の意味がないじゃん! タイガったらぬけてるんだから!」

 明るい声で、赤染くんがツッコミを入れる。
 その声に黒島くんもつられて笑う。

「探し物しててさ。それより聞いてよ、新しい曲の感想聞きたくて」

 黒島くんが、ポケットからスマホを取り出す。
 話を変えたことで、黒島くんの意識がそれたみたい。黒島くんはリーダーだけど、どこかぬけているというか、単純なところがあるんだよね。物語の中では、そんな自分がリーダーでいいのか悩むこともあるんだけど、メンバーと話して克服したエピソードがある。このエピソードもまた、メンバーの成長がみられてすっごく熱いんだよね!
 て、感想を本人たちに言いたい! 言わないけど!
 私のことよりも新曲の話に夢中になってくれた。よかった……。

「今ちょうど曲作ってて……」

 黒島くんは、スマホを操作して音を流し始める。
 カラリスの新曲! 聞きたい……けど、私は無意識に耳をふさぐ。

「あ! 待って! 私は聴けない!」

 大きい声を出した私にびっくりした黒島くんが、音を止める。

「どうしたの?」

「だって……黒島くんが作曲した音楽を、発表前に部外者の私が聴くのは違うというか……」

 黒島くんは、作詞作曲もできちゃうの。カラリスの曲の多くは黒島くんが制作しているんだ。
 つまり、製作途中の音楽を聴くってことは……ファンとしてズルいんじゃないかなって思う。

「えー、でも、イオリの親戚の子なら身内みたいなものだし別にいいよ!」

 明るいノリの黒島くん。よくない、だってウソだし。
 聴いてみたいよ、ほんとは。だって、文字とイラストだけの物語では聴こえない黒島くんの曲が聴けるんだもん。
 でも、私のなかの生真面目な部分が邪魔をする。
 純粋に、音楽を楽しめないよ~!
 私はふるふると首を振った。それを見て、黒島くんは笑う。

「マジメ~!」

「すみません……」

 真面目すぎて、場の空気を悪くすることはよくある。
 空気読めてない? って思うことばっかり。またやっちゃったかな……。

「ちゃんとした倫理観を持っているのが、眞緒ちゃんのいいところだよね」

 赤染くんが、フォローしてくれた。リンリカンっていうのは、ちょっとよくわからないけど……ズルをしないっていうところをほめてくれたのかな。

「たしかに~! オレさ、学校の子たちに「新曲聞かせて~!」って言われるのに慣れちゃって。こっちはファンの人たちに届けたくて作っているのに、気軽に聞かせてって言われるのはイヤなんだよね。だから、眞緒ちゃんが聞かないって言ってくれるのはすごくうれしいよ! 逆に、なんかごめん! みんな、早く聴いて自慢したいもんだと思い込んでた」

 カラリスの中では背も高くて、ダイナミックな歌声とダンスが魅力の黒島くん。私に合わせて、すこし背をかがめて話してくれている。

「ありがとう、カラリスの音楽を大切にしてくれて」

 そ、そんなこと言われちゃったら……うれしすぎて溶けそう!
 がんばって、冷静をよそおわないと……。

「ううん。発表される日を楽しみにしてます」

「ありがと!」

 ニッと笑って、白い歯を見せてくれた。少し日に焼けた肌に似合う笑顔。
 目の前で、こんな笑顔を見ちゃっていいのかな。あとで悪いこと起きないかなって心配になっちゃうくらい!
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