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9.鈴蘭のためにできること
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「実はね、鈴蘭にイベントの売り子を頼みたくて」
「うりこ?」
教室とかで話すと誰かに聞かれる気がして、あたしたちはゆっくり下校しながら小さな声で会話することにした。
あたしは、参加するハンドメイドイベントの内容や、売り子について説明した。
売り子の仕事は、お金のやりとりをしたり、お客さんに商品の説明をしたりすることだよ。
「マスコットって……だれの作品?」
まさか、という顔をして、ちらりと桐ケ谷の顔を見る。
まぁ、この場にいるっていうことで、予想はつくよね。
「そう、桐ケ谷の作品」
桐ケ谷には、事前に「鈴蘭に、桐ケ谷のマスコット作りについて話しても良いか」と尋ねてあるんだ。桐ケ谷は戸惑っていたけど、鈴蘭ならいいよ、と了承してくれた。
桐ケ谷と鈴蘭、ふだんまったく会話がないのに、なんでかお互い信頼している感じ。ちょっと、嫉妬しちゃうな。
「へぇ……桐ケ谷くんが」
「ヘンだろ?」
桐ケ谷が、自虐的に言う。
「そんなことないよ! 桐ケ谷くんのことをヘンだと言ったら、私はもっとヘンだし……」
鈴蘭は勢いよく否定した。
きたきた。このときを待っていたんだよ。
「あ、ちょっと待って」
あたしは、自分の番だと思って立ち止まり、ランドセルを身体の前に持ってきた。
何事かと、桐ケ谷と鈴蘭もあたしの前で立ち止まる。
「どうしたの陽乃葉ちゃん。忘れ物?」
あー、ドキドキする! でも、今日こそは。
「ねえ、ランドセルの中を見てみて」
軽い口調で言うけれど、内心は心臓ばくばく。
手が震えないように、必要以上に手に力を入れてランドセルのフタを開いた。
なんだろう、と桐ケ谷と鈴蘭があたしのランドセルを覗き込む。
「……え」
「ぬいぐるみ……?」
あたしは今日、あむちゃんを連れてきた。
鈴蘭のくーたんに比べてふた回りくらい大きいあむちゃんにはきゅうくつだけど、ランドセルの中に入れてきちゃった。
「あたしのかわいいお友だちのあむちゃんでーす!」
ランドセルのフタを元に戻し、ランドセルを背負いなおす。
桐ケ谷も鈴蘭も、黙ってあたしを見ていた。
「あたし、あむちゃんとおしゃべりとか楽しんじゃうタイプなんだよね!」
口ではいつも通り明るく言っているけど、本当はこわい。どう思われるかわからなくて……。
鈴蘭みたいに、守ってあげたくなるようなかわいい子がぬいぐるみを持っているのは許されても、あたしみたいな気の強い委員長が持っているのはダメなんじゃないか、とか。
桐ケ谷みたいに、クリエイティブな趣味とは違って幼稚なんじゃないか、とか。
いろんな思いが頭を駆け巡る。
でもね。鈴蘭の秘密を知った上で、桐ケ谷の秘密を鈴蘭に教えるようにおねがいしておいて、あたしだけなにも言わないのはズルいとおもったんだ。
理解はしてくれなくても、知ってほしいってずっとおもっていた。
鈴蘭と桐ケ谷はなにも言わない。
ふたりがなかなか言葉を発してくれなくて、あたしはだんだん不安になる。
ふたりならわかってくれるって、理想を押し付けていたのかな……。顔がひきつる。
「あはは、やっぱあたしがぬいぐるみなんてヘン……」
自虐めいた言葉を言いかけたところで、鈴蘭があたしに抱きついてきた。
「ど、どうしたの鈴蘭」
ふわっとしたいいにおいを髪の毛から漂わせ、あたしにくっついている。
「ありがとう、教えてくれて……」
鈴蘭は身体を離して、あたしを見上げた。
「すごく、さみしかったよね。大切な存在を隠しているなんて」
さみしかったよね、という問いかけに、なんだかあたしの心があったかくなる。
ずっとずっと、こんなにも好きなあむちゃんのことを誰にも言えなかった。けど、それはすごくさみしいことだった。
犬や猫を飼っているなら、写真を見せあってかわいいって言えるのに。なんでぬいぐるみはダメなんだろう。それがとても、さみしかった。
同じだ。あたしは鈴蘭の、鈴蘭はあたしの気持ちをわかってくれていた。
こんなに近くに、あたしの理解者がいたなんて。
「なぁんだ。陽乃葉、ずっと黙ってたのか」
桐ケ谷が、すこし冷めたような声を出した。
あたしは思わず身をすくめる。
鈴蘭も、あたしから身体を離した。
「ごめん……」
桐ケ谷の秘密を知っておきながら、あたしの秘密についてはずっと黙っていた。それについて、気を悪くするのは当然だよね……。
あたしのこわばった顔を見たのか、桐ケ谷は慌てたようににやりと笑った。
「怒ってないって。そういうことなら、みんな早く言えよ。かわいくてもふもふしていて、癒されるものが好きなもの同士、もっと早く仲良くできたじゃん」
桐ケ谷の言葉に、あたしと鈴蘭は顔を見合わせてふふっと笑う。
自分の秘密を話したからって、理解される方が少ないかもしれない。余計にキズつくかもしれない。理解を求めて、ウザがられちゃうこともある。
だから、話す相手は選ばなくちゃいけないけど……。
秘密を共有できたあたしたちは、きっともっと仲良くなれるんじゃないかな!
「ね、にじいろでクレープ食べよ!」
「うりこ?」
教室とかで話すと誰かに聞かれる気がして、あたしたちはゆっくり下校しながら小さな声で会話することにした。
あたしは、参加するハンドメイドイベントの内容や、売り子について説明した。
売り子の仕事は、お金のやりとりをしたり、お客さんに商品の説明をしたりすることだよ。
「マスコットって……だれの作品?」
まさか、という顔をして、ちらりと桐ケ谷の顔を見る。
まぁ、この場にいるっていうことで、予想はつくよね。
「そう、桐ケ谷の作品」
桐ケ谷には、事前に「鈴蘭に、桐ケ谷のマスコット作りについて話しても良いか」と尋ねてあるんだ。桐ケ谷は戸惑っていたけど、鈴蘭ならいいよ、と了承してくれた。
桐ケ谷と鈴蘭、ふだんまったく会話がないのに、なんでかお互い信頼している感じ。ちょっと、嫉妬しちゃうな。
「へぇ……桐ケ谷くんが」
「ヘンだろ?」
桐ケ谷が、自虐的に言う。
「そんなことないよ! 桐ケ谷くんのことをヘンだと言ったら、私はもっとヘンだし……」
鈴蘭は勢いよく否定した。
きたきた。このときを待っていたんだよ。
「あ、ちょっと待って」
あたしは、自分の番だと思って立ち止まり、ランドセルを身体の前に持ってきた。
何事かと、桐ケ谷と鈴蘭もあたしの前で立ち止まる。
「どうしたの陽乃葉ちゃん。忘れ物?」
あー、ドキドキする! でも、今日こそは。
「ねえ、ランドセルの中を見てみて」
軽い口調で言うけれど、内心は心臓ばくばく。
手が震えないように、必要以上に手に力を入れてランドセルのフタを開いた。
なんだろう、と桐ケ谷と鈴蘭があたしのランドセルを覗き込む。
「……え」
「ぬいぐるみ……?」
あたしは今日、あむちゃんを連れてきた。
鈴蘭のくーたんに比べてふた回りくらい大きいあむちゃんにはきゅうくつだけど、ランドセルの中に入れてきちゃった。
「あたしのかわいいお友だちのあむちゃんでーす!」
ランドセルのフタを元に戻し、ランドセルを背負いなおす。
桐ケ谷も鈴蘭も、黙ってあたしを見ていた。
「あたし、あむちゃんとおしゃべりとか楽しんじゃうタイプなんだよね!」
口ではいつも通り明るく言っているけど、本当はこわい。どう思われるかわからなくて……。
鈴蘭みたいに、守ってあげたくなるようなかわいい子がぬいぐるみを持っているのは許されても、あたしみたいな気の強い委員長が持っているのはダメなんじゃないか、とか。
桐ケ谷みたいに、クリエイティブな趣味とは違って幼稚なんじゃないか、とか。
いろんな思いが頭を駆け巡る。
でもね。鈴蘭の秘密を知った上で、桐ケ谷の秘密を鈴蘭に教えるようにおねがいしておいて、あたしだけなにも言わないのはズルいとおもったんだ。
理解はしてくれなくても、知ってほしいってずっとおもっていた。
鈴蘭と桐ケ谷はなにも言わない。
ふたりがなかなか言葉を発してくれなくて、あたしはだんだん不安になる。
ふたりならわかってくれるって、理想を押し付けていたのかな……。顔がひきつる。
「あはは、やっぱあたしがぬいぐるみなんてヘン……」
自虐めいた言葉を言いかけたところで、鈴蘭があたしに抱きついてきた。
「ど、どうしたの鈴蘭」
ふわっとしたいいにおいを髪の毛から漂わせ、あたしにくっついている。
「ありがとう、教えてくれて……」
鈴蘭は身体を離して、あたしを見上げた。
「すごく、さみしかったよね。大切な存在を隠しているなんて」
さみしかったよね、という問いかけに、なんだかあたしの心があったかくなる。
ずっとずっと、こんなにも好きなあむちゃんのことを誰にも言えなかった。けど、それはすごくさみしいことだった。
犬や猫を飼っているなら、写真を見せあってかわいいって言えるのに。なんでぬいぐるみはダメなんだろう。それがとても、さみしかった。
同じだ。あたしは鈴蘭の、鈴蘭はあたしの気持ちをわかってくれていた。
こんなに近くに、あたしの理解者がいたなんて。
「なぁんだ。陽乃葉、ずっと黙ってたのか」
桐ケ谷が、すこし冷めたような声を出した。
あたしは思わず身をすくめる。
鈴蘭も、あたしから身体を離した。
「ごめん……」
桐ケ谷の秘密を知っておきながら、あたしの秘密についてはずっと黙っていた。それについて、気を悪くするのは当然だよね……。
あたしのこわばった顔を見たのか、桐ケ谷は慌てたようににやりと笑った。
「怒ってないって。そういうことなら、みんな早く言えよ。かわいくてもふもふしていて、癒されるものが好きなもの同士、もっと早く仲良くできたじゃん」
桐ケ谷の言葉に、あたしと鈴蘭は顔を見合わせてふふっと笑う。
自分の秘密を話したからって、理解される方が少ないかもしれない。余計にキズつくかもしれない。理解を求めて、ウザがられちゃうこともある。
だから、話す相手は選ばなくちゃいけないけど……。
秘密を共有できたあたしたちは、きっともっと仲良くなれるんじゃないかな!
「ね、にじいろでクレープ食べよ!」
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