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10.かわいいものに癒されるあたしたち
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いよいよイベントが始まった。
一般客の入場が始まると、会場はハンドメイド商品を見に来た人でいっぱいになる。
常連の人っぽいブースにはさっそく列ができていた。水田さんの前にも、人が集まっているみたい。
あたしたちの前には……当然、並ばれない。
座って待っているのももどかしいけど、だからといって大きな声で宣伝するのはマナー違反らしいし……。
せめて、にこやかにしていよう。買いに来てくれた人が怖がらないように。
あと、黙り込んで座っているのも圧が強そうだから、小さな声で鈴蘭とおしゃべりしてみよう。気軽にマスコットを手にしてもらえるように。
「そういえば、ちょっと前に鈴蘭のこと見かけたんだ。手芸用品店で」
「あ、そうなの? 私、ぬいぐるみやお人形の洋服とか小物を作るのが好きで、よく行くんだ」
そういうと、鈴蘭はくーたんが着ている服をぴらぴらと見せてきた。
「あ、そういうことね。すっごく楽しそうだった」
「私の唯一の趣味だからね!」
学校にいるときより、今の方がリラックスしていて楽しそう。声もハキハキしているし、考え方もポジティブ。
まわりが女性ばかりだし、じろじろ見てくる男子がいないことがいいのかも。みんな、かわいいものに夢中で人間にはあまり興味がない感じだもんね。
今回に限らず、鈴蘭をこういう場に誘ってみよう。居場所が学校だけじゃない、もっとたくさん自分らしくいられるところはあるよって知ってほしい。
あたしが決意していると。
「おねーちゃん!」
「おねーちゃん!」
聞き覚えのある騒がしい声に、あたしは顔をあげる。
「由愛と愛生! みんなも!」
双子の妹の由愛と愛生をがっちりつかんで走り回らないようにしているお父さんと、目をキラキラさせて財布と袋を握りしめているお母さん、そして背筋をピンと伸ばして歩くおばあちゃんがこちらに来た。
「来てくれたんだ!」
「どうも~陽乃葉の祖母と親と妹たちです」
お母さんが、鈴蘭と桐ケ谷にあいさつする。お母さんの口から「陽乃葉」って聞いたの、久しぶりかも。
桐ケ谷は慌てて立ち上がり、後ろ手に作成中のクマを隠して立ち上がった。
「こんにちは!」
「こんにちは。妹ちゃんたち、かわいい~~~!」
鈴蘭が、頬を赤くして由愛と愛生を見ている。子ども好きなのかな。
「こーんにちはっ! わたし、このタコのキーホルダーほしいな」
「こーんにちはっ! わたし、このパンダがいい! かわいい!」
由愛は、今日置かれているマスコットの中ではクセが強い、卵の殻を頭と身体につけたカラフルなタコを指さした。そして愛生は皮肉めいた笑顔のパンダを指さす。
「これがいいの? じゃあ、このふたついただきます」
お母さんが、あたしに向かって言った。敬語で言われて、ちょっとむずかゆい。
「わぁ、ありがとう! お客さん第一号だよ! 桐ケ谷!」
桐ケ谷は、喜ぶでもなく「っす」と言ってまたこちらに背を向けて座り込んでしまった。
たぶん、照れているんだろうけど……接客には向いていなさすぎる。自己評価は正しかった。
持って歩きたいと言う由愛と愛生にひとつずつ手渡しする。
「やったぁ!」
「かわいい!」
「こら、ぶんぶん振り回さない!」
お父さんに叱られても気にせず、ふたりはマスコットのストラップ部分を持って振り回している。あいかわらず荒くれものだな……。これだから、あたしは由愛と愛生にあむちゃんを見せられないでいる。
由愛と愛生はマスコット同士あいさつをしはじめた。お人形ごっこが始まったみたい。
その様子を後ろで見ていたおばあちゃんが、あたしたちの前に立つ。
「よくがんばったね、みんな」
「ううん。おばあちゃんのおかげ!」
「陽乃葉ちゃんがうれしそうで、おばあちゃんもうれしいよ」
なぜか、おばあちゃんが涙ぐんでいる。
「もう、どうして泣くの~」
「えへへ。なんだか感動しちゃってね。じゃあ、あんまり居座るのもよくないから、このへんで。水田さんにもあいさつしなくちゃ。みんな、行こう」
「うん! 来てくれてありがとう!」
家族は、その場を離れていった。
おばあちゃんと、お母さんと、お父さんと、由愛と、愛生の後ろ姿を見ながら、やっぱりあたしが五人を助けなきゃって気持ちになった。「お姉ちゃん」として生きていて疲れることもあるけど、この幸せを守れるなら辛くない。
おばあちゃんは、自分のお店を守るために今日も午後からはにじいろをオープンする。あたたかくなってヒザの具合も良くなってきたみたいで、あたしの手伝いを断る日も増えてきたんだ。
おばあちゃんが元気なのはうれしいけど、頼られないのはちょっとさみしかったりして。
一般客の入場が始まると、会場はハンドメイド商品を見に来た人でいっぱいになる。
常連の人っぽいブースにはさっそく列ができていた。水田さんの前にも、人が集まっているみたい。
あたしたちの前には……当然、並ばれない。
座って待っているのももどかしいけど、だからといって大きな声で宣伝するのはマナー違反らしいし……。
せめて、にこやかにしていよう。買いに来てくれた人が怖がらないように。
あと、黙り込んで座っているのも圧が強そうだから、小さな声で鈴蘭とおしゃべりしてみよう。気軽にマスコットを手にしてもらえるように。
「そういえば、ちょっと前に鈴蘭のこと見かけたんだ。手芸用品店で」
「あ、そうなの? 私、ぬいぐるみやお人形の洋服とか小物を作るのが好きで、よく行くんだ」
そういうと、鈴蘭はくーたんが着ている服をぴらぴらと見せてきた。
「あ、そういうことね。すっごく楽しそうだった」
「私の唯一の趣味だからね!」
学校にいるときより、今の方がリラックスしていて楽しそう。声もハキハキしているし、考え方もポジティブ。
まわりが女性ばかりだし、じろじろ見てくる男子がいないことがいいのかも。みんな、かわいいものに夢中で人間にはあまり興味がない感じだもんね。
今回に限らず、鈴蘭をこういう場に誘ってみよう。居場所が学校だけじゃない、もっとたくさん自分らしくいられるところはあるよって知ってほしい。
あたしが決意していると。
「おねーちゃん!」
「おねーちゃん!」
聞き覚えのある騒がしい声に、あたしは顔をあげる。
「由愛と愛生! みんなも!」
双子の妹の由愛と愛生をがっちりつかんで走り回らないようにしているお父さんと、目をキラキラさせて財布と袋を握りしめているお母さん、そして背筋をピンと伸ばして歩くおばあちゃんがこちらに来た。
「来てくれたんだ!」
「どうも~陽乃葉の祖母と親と妹たちです」
お母さんが、鈴蘭と桐ケ谷にあいさつする。お母さんの口から「陽乃葉」って聞いたの、久しぶりかも。
桐ケ谷は慌てて立ち上がり、後ろ手に作成中のクマを隠して立ち上がった。
「こんにちは!」
「こんにちは。妹ちゃんたち、かわいい~~~!」
鈴蘭が、頬を赤くして由愛と愛生を見ている。子ども好きなのかな。
「こーんにちはっ! わたし、このタコのキーホルダーほしいな」
「こーんにちはっ! わたし、このパンダがいい! かわいい!」
由愛は、今日置かれているマスコットの中ではクセが強い、卵の殻を頭と身体につけたカラフルなタコを指さした。そして愛生は皮肉めいた笑顔のパンダを指さす。
「これがいいの? じゃあ、このふたついただきます」
お母さんが、あたしに向かって言った。敬語で言われて、ちょっとむずかゆい。
「わぁ、ありがとう! お客さん第一号だよ! 桐ケ谷!」
桐ケ谷は、喜ぶでもなく「っす」と言ってまたこちらに背を向けて座り込んでしまった。
たぶん、照れているんだろうけど……接客には向いていなさすぎる。自己評価は正しかった。
持って歩きたいと言う由愛と愛生にひとつずつ手渡しする。
「やったぁ!」
「かわいい!」
「こら、ぶんぶん振り回さない!」
お父さんに叱られても気にせず、ふたりはマスコットのストラップ部分を持って振り回している。あいかわらず荒くれものだな……。これだから、あたしは由愛と愛生にあむちゃんを見せられないでいる。
由愛と愛生はマスコット同士あいさつをしはじめた。お人形ごっこが始まったみたい。
その様子を後ろで見ていたおばあちゃんが、あたしたちの前に立つ。
「よくがんばったね、みんな」
「ううん。おばあちゃんのおかげ!」
「陽乃葉ちゃんがうれしそうで、おばあちゃんもうれしいよ」
なぜか、おばあちゃんが涙ぐんでいる。
「もう、どうして泣くの~」
「えへへ。なんだか感動しちゃってね。じゃあ、あんまり居座るのもよくないから、このへんで。水田さんにもあいさつしなくちゃ。みんな、行こう」
「うん! 来てくれてありがとう!」
家族は、その場を離れていった。
おばあちゃんと、お母さんと、お父さんと、由愛と、愛生の後ろ姿を見ながら、やっぱりあたしが五人を助けなきゃって気持ちになった。「お姉ちゃん」として生きていて疲れることもあるけど、この幸せを守れるなら辛くない。
おばあちゃんは、自分のお店を守るために今日も午後からはにじいろをオープンする。あたたかくなってヒザの具合も良くなってきたみたいで、あたしの手伝いを断る日も増えてきたんだ。
おばあちゃんが元気なのはうれしいけど、頼られないのはちょっとさみしかったりして。
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