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ドSロリこと、許斐 姫華。 前編
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生きるとは何か、なんて事を度々考える時がある。
結論など決まって出はしない、不毛であると理解はしているつもりだ。
しかし、そう分かってはいるものの、ついつい考えてしまうものである。
それはきっと、今という現実に楽しみを得ていないからだと思う。
私、許斐姫華は幼い頃に母を亡くし、孤児院にてしばらくの時を過ごした。
そこで出会った幼馴染とも呼べる大事な友達、七瀬美紀とはまるで家族のように仲が良い。
孤児院にて出会った、唯一の友達だった。私は美紀とほとんどの時間を過ごしていたのだが、やがて彼女は養女として引き取られ、そこで七瀬という姓をもらうことになった。
私も別の人に養女として引き取られ、許斐という姓をもらった。
それでも、美紀との交流は相変わらず続いている。
やがて十六歳になり、私達は同じ高校へ進学を決めたのだ。
――私立美桜学園。それが、私達の新しい学び舎であり、始まりだった。
「……どうしたの? 何か考え事?」
不意に話しかけてくるのは、前の席に座っている美紀だ。
薄桃色の髪を腰まで伸ばし、頭頂部の両端に白いリボンをつけ、ツインテールのような髪型。
私と違い、豊満な胸部を持ち合わせており女性としての魅力に溢れている。
「ふふ、そうね。少し考え事をしていたわ。割とどうでもいい事だけど」
なんというか、タイミングが良いと言うべきか。
「あーもしかして、友達作れるか心配している感じー?」
突然、突拍子もないことを私に問いかけてくる美紀。
そう、先程も言った通り……私達二人は今年から美桜学園へと通う事になったのだ。十六歳、少しでも立派な所に行こうと、それなりに頑張ったつもりだ。
その結果、この街――桜崎市では有名な「私立美桜学園」に入学し、私達は無事同じクラスにもなれた。
しかし、もう四月も後半という所で、美紀はクラスに馴染み始めているものの、私自身全く溶け込めてはいなく。
いや、その気がない者に溶け込めるわけがないだろう。……と美紀に言いたいが、聞く耳を立ててはくれなかった。
そして、授業の合間の休み時間である現在に至るわけなのだけど。
「だから言ったじゃない。私は友達を作る気なんてないわ、と」
「はぁ……違うでしょ。作れない、の間違いだよね? 姫華、人見知りが激しいから」
さりげなく的確な突っ込みを入れてくる美紀、思わず言葉に詰まる。
「ほら、図星じゃん」
伊達に十年も一緒に居ないか。……なんて関心していると、美紀がどこか呆れた様子で呟いた。
「本当、姫華の人見知りもどうにかならないかなぁ……。一度心を開けば平気だと思うんだけどな、いかんせんその一度が中々ねえ」
「ふふ、人の事は気にしないでいいのよ美紀。私は別に困ってなどいないのだから、気を回す必要はないわ」
そう強がって見せたものの、美紀の表情は変わらない。
「もう少し積極的に交友関係を広げたらどうかね! 姫華クン!」
「……無理ね。私は、人に合わせるのが苦手だから」
正直な話、私は他人に媚びへつらい、関係を気にしながら、誘いを無理してでも断らず参加して……みたいな事が、出来るとは思えない。
どうしてそこまで他人に気を遣っていかなきゃいけないのよ。そんな友達なら私はいらないわね。
「いやいやぁ……多少は人に合わせるってことも大事なんですよ」
私の言葉に苦笑しながらも、美紀はそう答える。
「そうね、まともな人がいたら……私も考えるわ」
ちょうど良いタイミングで次の授業を知らせるチャイムが鳴り響き、皆席へと戻っていく。
そんな周りの行動と、教室に入ってきた先生により、美紀は渋々前を向き直したのだった。
――今までも、よく私の交友関係を気にする事は度々あった。
しかし、私は過去にあった……とある事件により、精神的外傷を負ってしまい、元々人見知りではあったものの、より一層人を近づけなくなって。
そういう所も知っているから、尚更ああして心配し、言ってくるのかもしれない。
……そして、美桜学園に入ってから、それが激化しつつある。
やはり入学したてで友達の作りやすいこの時期に、どうにか友人を作ってほしいと思っているのかもしれない。
ただ、美紀には悪いけど……今回もきっと、私は新しい友達を作ることはないと思う。
「信用に足る……そんな人が、このクラスにいるのかしらね」
そう、この時の私は少なくとも……今までと変わらない、美紀と過ごすいつもの日々で終わると思っていた。
「さて、じゃあ授業始めるよー」
現代文の先生である、美冬先生が明るく挨拶をしながら授業を始める。
実はこの美冬先生、本来保健室の先生だっていうから驚きだ。
詳しくないので知らないが、二つ掛け持ちとか、普通ないのでないだろうか……。
「はーい、それでは教科書の十七ページを開いてー」
そう先生が合図したと同時に、隣の人が徐に手を挙げる。
「ん? もしかして忘れちゃった? 全くー最初から忘れるなんて関心しないなぁ。隣から見せてもらってね?」
そう優しく怒る美冬先生の言葉が、思わず引っかかる。ん? 隣……?
いや、隣と言っても……もう片方隣がいるわけだし。私に来る確率なんて半分……。
「あ、あの……もし良かったら見せてもらえませんか……?」
何の躊躇なく、隣の彼女が私にそう言ってくる。
……ええ、そう。その半分を引いたのよ私は。まあ、もう片方が男だった時点で、薄々分かっていたけども。
「あ……え、ええ……。別に、構わないけど……」
あまり他人と話す事に慣れてないのもあり、私はどこか、ぎこちない風を見せながら答えてしまう。
何故だろう、凄く恥ずかしい。
「ありがとうございます……」
そう言い、机をくっつけてきた彼女。そしてさっきから何故この人は敬語なのだろうか。
「本当ごめんなさい、私自身忘れた訳じゃないんだけど……幼馴染に貸しちゃって」
「……それはまた、難儀な話ね。貸さなければ良かったのに」
全くどこのどいつよ、そいつのせいで私が貸す羽目になったと思うと憎しみが生まれるわね。
「いやぁ……はは……それを言われちゃうと何にも言えないです」
「……あの、さっきから気になっているのだけど、どうして敬語なのかしら。同い年でしょう?」
私は思わず、先程からの敬語口調の理由を問いかけてみることに。
「――あ、いや何というか……許斐さんって、凄く話しかけ辛いオーラがあったから、つい……」
こうも正面から言われると、くるものがあるわね。人間全てストレートに言う事が正しいとは限らないと実感。
そして、正面の席に座る美紀が僅かに肩を震わせる。恐らく……いや、確実に笑った気がした。
「そ、そうかしら……? 自分では分からないわ」
自分から人を遠ざけている事を敢えて伏せ、あからさまな嘘で誤魔化そうと試みる。
「んーでも、何か話してみて良い人そうだなってイメージに変わったよ!」
「それはまた物凄い変わり様ね……まだ少ししか、会話してないというのに」
変な子、と言ったら語弊があるかもしれないが、何というかこの子は人を信じやすいのかもしれない。
「意地悪そうな感じはあるけど、悪い人ではなさそうって思ったからさ」
「……普通、本人に向かって意地悪そうとか、言わないと思うのだけど」
あまりにはっきり言うものだから、つい本音を呟いてしまった私。
「あっいやその悪口とかじゃなくてね? 何というか、ドSというか……」
「……あなた、中々面白い人ね。名前、聞かせてもらっても?」
私の呟きにあたふたしている彼女に、私は思わずそう問いかける。
「あ、えっと藤乃藍だよ、よろしくね!」
変というか、何というか……これが、彼女……藤乃藍との出会いだった。
恐らく、美紀以来……二人目の友達だったと思う。
それから私達は授業中なのにも関わらず、小さな声でずっと会話に華を咲かせていた。
結論など決まって出はしない、不毛であると理解はしているつもりだ。
しかし、そう分かってはいるものの、ついつい考えてしまうものである。
それはきっと、今という現実に楽しみを得ていないからだと思う。
私、許斐姫華は幼い頃に母を亡くし、孤児院にてしばらくの時を過ごした。
そこで出会った幼馴染とも呼べる大事な友達、七瀬美紀とはまるで家族のように仲が良い。
孤児院にて出会った、唯一の友達だった。私は美紀とほとんどの時間を過ごしていたのだが、やがて彼女は養女として引き取られ、そこで七瀬という姓をもらうことになった。
私も別の人に養女として引き取られ、許斐という姓をもらった。
それでも、美紀との交流は相変わらず続いている。
やがて十六歳になり、私達は同じ高校へ進学を決めたのだ。
――私立美桜学園。それが、私達の新しい学び舎であり、始まりだった。
「……どうしたの? 何か考え事?」
不意に話しかけてくるのは、前の席に座っている美紀だ。
薄桃色の髪を腰まで伸ばし、頭頂部の両端に白いリボンをつけ、ツインテールのような髪型。
私と違い、豊満な胸部を持ち合わせており女性としての魅力に溢れている。
「ふふ、そうね。少し考え事をしていたわ。割とどうでもいい事だけど」
なんというか、タイミングが良いと言うべきか。
「あーもしかして、友達作れるか心配している感じー?」
突然、突拍子もないことを私に問いかけてくる美紀。
そう、先程も言った通り……私達二人は今年から美桜学園へと通う事になったのだ。十六歳、少しでも立派な所に行こうと、それなりに頑張ったつもりだ。
その結果、この街――桜崎市では有名な「私立美桜学園」に入学し、私達は無事同じクラスにもなれた。
しかし、もう四月も後半という所で、美紀はクラスに馴染み始めているものの、私自身全く溶け込めてはいなく。
いや、その気がない者に溶け込めるわけがないだろう。……と美紀に言いたいが、聞く耳を立ててはくれなかった。
そして、授業の合間の休み時間である現在に至るわけなのだけど。
「だから言ったじゃない。私は友達を作る気なんてないわ、と」
「はぁ……違うでしょ。作れない、の間違いだよね? 姫華、人見知りが激しいから」
さりげなく的確な突っ込みを入れてくる美紀、思わず言葉に詰まる。
「ほら、図星じゃん」
伊達に十年も一緒に居ないか。……なんて関心していると、美紀がどこか呆れた様子で呟いた。
「本当、姫華の人見知りもどうにかならないかなぁ……。一度心を開けば平気だと思うんだけどな、いかんせんその一度が中々ねえ」
「ふふ、人の事は気にしないでいいのよ美紀。私は別に困ってなどいないのだから、気を回す必要はないわ」
そう強がって見せたものの、美紀の表情は変わらない。
「もう少し積極的に交友関係を広げたらどうかね! 姫華クン!」
「……無理ね。私は、人に合わせるのが苦手だから」
正直な話、私は他人に媚びへつらい、関係を気にしながら、誘いを無理してでも断らず参加して……みたいな事が、出来るとは思えない。
どうしてそこまで他人に気を遣っていかなきゃいけないのよ。そんな友達なら私はいらないわね。
「いやいやぁ……多少は人に合わせるってことも大事なんですよ」
私の言葉に苦笑しながらも、美紀はそう答える。
「そうね、まともな人がいたら……私も考えるわ」
ちょうど良いタイミングで次の授業を知らせるチャイムが鳴り響き、皆席へと戻っていく。
そんな周りの行動と、教室に入ってきた先生により、美紀は渋々前を向き直したのだった。
――今までも、よく私の交友関係を気にする事は度々あった。
しかし、私は過去にあった……とある事件により、精神的外傷を負ってしまい、元々人見知りではあったものの、より一層人を近づけなくなって。
そういう所も知っているから、尚更ああして心配し、言ってくるのかもしれない。
……そして、美桜学園に入ってから、それが激化しつつある。
やはり入学したてで友達の作りやすいこの時期に、どうにか友人を作ってほしいと思っているのかもしれない。
ただ、美紀には悪いけど……今回もきっと、私は新しい友達を作ることはないと思う。
「信用に足る……そんな人が、このクラスにいるのかしらね」
そう、この時の私は少なくとも……今までと変わらない、美紀と過ごすいつもの日々で終わると思っていた。
「さて、じゃあ授業始めるよー」
現代文の先生である、美冬先生が明るく挨拶をしながら授業を始める。
実はこの美冬先生、本来保健室の先生だっていうから驚きだ。
詳しくないので知らないが、二つ掛け持ちとか、普通ないのでないだろうか……。
「はーい、それでは教科書の十七ページを開いてー」
そう先生が合図したと同時に、隣の人が徐に手を挙げる。
「ん? もしかして忘れちゃった? 全くー最初から忘れるなんて関心しないなぁ。隣から見せてもらってね?」
そう優しく怒る美冬先生の言葉が、思わず引っかかる。ん? 隣……?
いや、隣と言っても……もう片方隣がいるわけだし。私に来る確率なんて半分……。
「あ、あの……もし良かったら見せてもらえませんか……?」
何の躊躇なく、隣の彼女が私にそう言ってくる。
……ええ、そう。その半分を引いたのよ私は。まあ、もう片方が男だった時点で、薄々分かっていたけども。
「あ……え、ええ……。別に、構わないけど……」
あまり他人と話す事に慣れてないのもあり、私はどこか、ぎこちない風を見せながら答えてしまう。
何故だろう、凄く恥ずかしい。
「ありがとうございます……」
そう言い、机をくっつけてきた彼女。そしてさっきから何故この人は敬語なのだろうか。
「本当ごめんなさい、私自身忘れた訳じゃないんだけど……幼馴染に貸しちゃって」
「……それはまた、難儀な話ね。貸さなければ良かったのに」
全くどこのどいつよ、そいつのせいで私が貸す羽目になったと思うと憎しみが生まれるわね。
「いやぁ……はは……それを言われちゃうと何にも言えないです」
「……あの、さっきから気になっているのだけど、どうして敬語なのかしら。同い年でしょう?」
私は思わず、先程からの敬語口調の理由を問いかけてみることに。
「――あ、いや何というか……許斐さんって、凄く話しかけ辛いオーラがあったから、つい……」
こうも正面から言われると、くるものがあるわね。人間全てストレートに言う事が正しいとは限らないと実感。
そして、正面の席に座る美紀が僅かに肩を震わせる。恐らく……いや、確実に笑った気がした。
「そ、そうかしら……? 自分では分からないわ」
自分から人を遠ざけている事を敢えて伏せ、あからさまな嘘で誤魔化そうと試みる。
「んーでも、何か話してみて良い人そうだなってイメージに変わったよ!」
「それはまた物凄い変わり様ね……まだ少ししか、会話してないというのに」
変な子、と言ったら語弊があるかもしれないが、何というかこの子は人を信じやすいのかもしれない。
「意地悪そうな感じはあるけど、悪い人ではなさそうって思ったからさ」
「……普通、本人に向かって意地悪そうとか、言わないと思うのだけど」
あまりにはっきり言うものだから、つい本音を呟いてしまった私。
「あっいやその悪口とかじゃなくてね? 何というか、ドSというか……」
「……あなた、中々面白い人ね。名前、聞かせてもらっても?」
私の呟きにあたふたしている彼女に、私は思わずそう問いかける。
「あ、えっと藤乃藍だよ、よろしくね!」
変というか、何というか……これが、彼女……藤乃藍との出会いだった。
恐らく、美紀以来……二人目の友達だったと思う。
それから私達は授業中なのにも関わらず、小さな声でずっと会話に華を咲かせていた。
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