18 / 19
素直は大事?
しおりを挟むやがて補習も終わり、空が夕焼けに染まりきった頃。
委員長は用事があるとかで足早に帰っていった。
そんな委員長を見送って、私も支度を済ませ教室を後にする。
グラウンドから聞こえる運動部の掛け声をBGMに、一人考え事をしながら歩いていると、扉が開いたままの空き教室が目に入った。
普段は特に気にしないのだけど、何故か今日に限って興味が湧いたのだ。
別段何か、奇声が聞こえてきたわけでもなく、興味を惹かれるよな事は一切ないはずなのだけど。
夏休み、人気のない静かな校舎の空気が、追試で疲れた私をそうさせたのかもしれない。
「誰か居るのかな……こんな夏休みに」
興味本位で私は覗いてみる。すると奥で、一人の男性が何やら書類を書いていた。
こちらの視線に気づいたのか、すぐに振り向き、私と目があう。
「あっ……」
「おや、もしかして部活見学の子かな? ごめんごめん、気づかなかったよ」
シャーペンを置き、そう申し訳なさそうに語りながら、こちらに近づいてくる男子生徒。
「あっいや……その」
深みのある黒い髪、端正な顔立ちに黒メガネ。語彙力が低くて申し訳ないが、正直かなり整った顔つきで、私は言葉が出なかった。
何というか、オーラで圧倒されたというか……凄く、恥ずかしい限りである。
「気づけなくて申し訳ない。一年生? 名前は?」
「えっと……その、一年生の七瀬美紀です」
「ふむ、良い名前だね。さぞ良い両親がつけてくれたんだろう」
「ありがとうございます、それはお世辞でも嬉しいです」
彼の言葉に、私は素直にお礼を返す。名前を褒めてもらえる事は、私にとって非常に嬉しい事なのだ。
これが唯一の、両親との繋がり……だから。
それで軽く心を許してしまったからか、気付いたら部屋の中に案内され、席に座っている自分がいた。
「何、私はお世辞は言わないさ。これでも、正直をモットーに生きているのでね」
「は、はぁ。それは凄いですね」
「さて、今日はどんな理由で、ここを見学しに来てくれたのかな?」
一通り世間話のようなものが終わり、とうとう一番答えにくい質問が来た。
「いやぁその、ただ覗いてただけと言いますか……」
私もこの人に見習って、正直に言ってみよう。
「……そうだったのか。それは悪い事をしたね」
見るからに落ち込んでしまった。この様子だと、部員が居ないんじゃないかとすら思える。
「いえ、ちょうど追試終わりでしたので……」
「追試? ふむ、もしかして君……頭が悪い人かな?」
包み隠さずストレートにそう聞いてくる所に、一周まわって清々しさを感じた私。
「ストレートに言いますね……まあ、そうですけども……」
「ああ、嫌味とかじゃないんだ。正直に言ってしまう癖みたいなものでね、気分を害したのなら謝るよ」
「いえ大丈夫です、慣れてますので」
普段ドSの隣にいれば嫌でも慣れるさ。下手したらドMに目覚めてしまうんじゃないかってぐらいに。
「……よし、じゃあこうしよう。君が体験入部をして、私が勉強を教える、良い案じゃないか?」
ああ、この人友達居ないんだろうな……それか部活一人だけなんだろうな……私がそう思った瞬間だった。
「いやぁ、私的には追試の後に、更に勉強なんて苦行でしかないです」
正直、嫌がらせ以外の何物でもない。
「ああ、そうじゃないよ。追試の時間、私が面倒見ようと思ってね。担当は茜先生だろ? なら話は簡単さ」
「えっ? でもそんな事、一生徒が出来るわけ……」
「ふふ、意外とそうでもないんだなこれが。どうする、君の答え次第では、今すぐ許可を取ってこれるぞ」
「そんなまさか……ハハハ。じゃあ体験入部するんで、先生から許可もらってきて下さいよー」
「そうか受けてくれるか、それはありがたい。なら、今すぐ行って来よう」
そう言い、支度を始め本当に言いに行ってしまった。
「え、えぇ……まさか本当にやれるの? いや、そんなわけ……」
少々不安を覚えつつも、私は一人窓の外を見ながら黄昏ていた。
それから十分もしないうちに戻ってきて、彼は私に許可が下りたことを伝えてきた。
「約束通り、許可は貰ってきたぞ。さて早速体験入部を始めるか」
「う、うわぁ本当にもらってきた……書類までしっかり書いてある。い、一体何者なんですか貴方?」
あまりの凄さに驚嘆し、思わずそう問いかけた私。
「そういえば自己紹介が遅れたね。二年の如月龍だ。この部活支援部の部長であり、生徒会の会長を務めている」
わざとらしく、メガネをくいっと人差し指で持ち上げながら、どこか姫華にも似た笑みを浮かべ、そう答える。
そう、今思えば……これが如月先輩との出会いだった。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる