母と男

夢底士泳

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白い肌

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腹水がたまるようになったらもう、死期はすぐそこだときいた。

電車を乗り継いで、走って病院に行った。
医療麻薬のパッチが貼られた胸元が白く露出していたのを見て、胸に悔しさと恨みが沸き起こり煮立つのを感じた。何に対してか。母さんの細胞のミスコピーの癌なのかそれとも、健康な人々か。どうにもならないとやけに落ち着き払った医師か。すべてなのか。

母さんの肌はこんなに白かっただろうか。そして、母さんが弱々しく女性の身体を持って生まれたことにも、哀しさと悔しさをおれは持った。

母さん。おれは母さん以外のすべてに対して、怒って、そして泣いている。

母さんの顔は凛としていた。窓の外では雪が斜線を描き続けている。

薄黄緑いろのシーツにおれの汗が落ちた。
何もかもを、壊したかった。
おれを、母さんさえも、殴り殺してしまいたくなった。ベッドを破壊して、窓を割って、点滴の袋を裂いて。
母さんなんで、こんなものに繋がれているんだ。
母さんどうして、どうして、なんで。

あの肌が。母さんの白い乳房が。
おれに途方もないかなしみを、物語にすらならないかなしみを、
終わらない孤独を、焼き付けて。
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