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11話〜勇者様と私団〜別パーティーに引き抜かれたからもう遅い!
しおりを挟む「えー? いいじゃないですか。勇者様と私」
「パーティーが増えたらどうすんだよ」
「増えた場合は、勇者様と私団にしようと思っています」
「ベースは変わらないんだな」
徐々に夜の帳が下りる白銀草原。草原は広く見晴らしもいいので初心者冒険者が腕試しをするのに、うってつけの場所である。さらに他の地域に比べると魔物が弱いという特徴があった。
魔法を使う魔物は皆無だし、変則的能力を使う魔物もいない。己の力や身体能力のみ向かってくる魔物ばかりなので、注意すれば危険も少ない。
コウとクリスは草原の中でも、比較的弱そうな魔物を狙い腕試しを続いていた。
戦法としては、クリスが数少ない攻撃魔法のマジックアローで先制攻撃。弱ったところをコウが剣で仕留めるといった老獪なコンビネーションで、すでにぶちスライム×3、ジャブジャブウサギ×1、を倒してリプレイを1個ストックした。
タライワニと突貫オーク……は強そうなのでスルーした、むしろ逃げてきた。
「勇者様そろそろ暗くなるし戻りませんか? 夜は視界も悪いし危険ですよ」
「そうだな。ここのデータも取れたし今日は……」
「だからちげーつってんだろ! ポーションはカバンの上に入れろよ! 何で下に入ってんだ? あぁ!? 」
コウの声は突如、草原に響き渡る怒声にかき消された。よく見るとあのギルドにいたフォボスと、いけ好かない女魔道士がいた。怒られているのは年端もいかない女の子だった。
「すいません。街でその……エイミーさんの服を買った時にすぐに出せるように、しておけと……言われました」
怒られるからだろうか。コウの目には余計に線の細く気の弱そうな子に見えた。
「そりゃ街の中での話よ。ダンジョンの中で私が今から着替えるから、私服出しなさいとか言うと思ってんの? ほんっと気が利かないわぇ」
「ポーションだってよ、カバンの奥にあったらいざって時に取り出せないだろ。管理しとけって言ってるだろ。お前今日はもう外で寝ろ」
そう言ってフォボスと女魔道士は、街の方に向かって歩き出す。
「あっ……あの外って宿屋の外のことでしょうか? それとも街の……」
「草原に決まってんだろ。いいか街の中でお前を見かけたら容赦しねえぞ」
「反省しなさい。それから荷物ちゃんとまとめきなさいよ。ほんっと、奴隷の癖に使えないわね」
言いたい放題言って、フォボス達は踵を返した。一連の流れを見るに、年端もいかぬ子に対して慈悲の欠片も持ち合わせてないように見えた。
基本的にコウはことなかれ主義だ。他人のことに口を挟むのを良しとしていない。ただ単に面倒だからという理由なのだが、権力を使い威張ったりする者を見ると、じっとしていられない性質であった。
「たかがポッと出のCランクが、そんなに偉いのかよ」
わざと聞こえるように、大きな声でコウは言った。
「……何か言ったかお前?」
ドスの効いた声だった。フォボスはコウなど敵でもないと言わんばかりに、肩を揺らして歩いてきた。ギルドで見せていたような人の良さそうな笑顔はない。
人を殺しそうな顔をしてんな……とコウは感じた。コウの勘と生存本能が警鐘を鳴らしている。コイツは危険なヤツだと。
それでも一度、言い出して不恰好に引くのは尚更我慢できなかった。
それにコウは再戦を控えた、アーレス王子の方が多分こいつより強いという根拠のない確信があった。
フォボスに勝てなければ、きっとアーレス王子にも勝てないだろうと、たかをくくったのだ。
「別にぃ。ただの独り言だよ、何か気に触ったか?」
「今、草原に俺たち以外の誰がいるんだ? あぁ?
Cランクて俺のこと名指ししてんだろ、舐めてんのか新入りィ」
チンピラのような口調と言い回しに、コウよりも側にいたクリスティの方が重圧を感じていた。いざとなったら勇者様のお役に立つ為に戦おうと、短いロッドを小さなカバンから取り出した。その手は小さく震えていた。
「草原に一人きりにしたら危ないだろ。最悪死んだらどうするつもりだ?」
「余所者のてめぇに関係ねぇだろうが! ケンカ売ってんのかオイ!」
「別にケンカは売ってねえよ。ただ口を出しただけだ、おたくらがあまりに見苦しいんでね」
「土下座しろ、それで命は勘弁してやる」
「やってみろよ、やれるならな」
土下座は嫌だなぁと、思いながら低めの声で返した。
フォボスは剣の鞘に手を当てがったので、コウも剣を抜く準備し膠着状態に入った。
「やめときなさいなフォボス。ここで新人を殺したら
あたしらのランクに傷がつく。メリットはないよ、こんな乞食冒険者をここで殺しても」
ぶっそうなことを言うフォボスの相方の女魔道士は、一応は止めようとしてくれるようだ。
誰よりもそれにエールを送ったのはクリスティだ。心の中で、教会で信仰する神に停戦の祈りを捧げていた。
「フォボス。殺すならダンジョンにしときなって」
「ちっ……命拾いしたな新入り小僧。ダンジョンで会った時は覚悟しとけよ、常に後ろに気をつけとけ!」
フォボスは盛大に舌打ちをし、去ろうとする。
「後ろに気をつけろよ。すぐお前のランクくらい追い越してやるから」
捨て台詞を吐かれ去られるのが嫌だから、どうしても言い返したいコウは反射的に返した。
フォボスが振り返り睨みつけるが、相方の女魔道士がフォボスを止め、いよいよ我慢の限界に達したクリスティが、コウの口を後ろから手で物理的に封じた。
フォボス達が去り、ポツリ残されたのは彼等の仲間の少女だ。
クリスティが気を使い、優しい声色で問いかけた。
「何かトラブルあったようですけど、大丈夫でしたか?」
「その……あ、ありがとう、ございます」
かなり萎縮しており会話がままならい様子だったので、コウはおちつかせようと、水筒の水を与えると少女は水を飲み干し改めてお礼を言った。
「一度、ギルドであいつに会ったんだ。そん時はニコニコしてたけど、さっきの態度がやつの本心らしい」
「あっ……えっと、ご飯も食べさせてもらえますし、毎日ではないけど、宿屋でも寝させてくれますから……いい方ですよ」
なんとかフォボスをフォローしようとしているが、言葉のフシからロクな扱いを受けていないのを、コウとクリスティは同時に感じとった。それとフォボスが恐怖支配しているということも。
そして互いに顔を見合わせた。
「街の外で寝る日もあるんですか?」とクリスティ。
少女は首を横に振った。
「えと……今日が初なんですけど、私ミスも多いので、仕方ないのことだと……思います」
「さっき言ってけどさ。宿屋を使わせないような言い振りしたけど、今日はどこで寝るんだ?」
「えと、草原で寝ます」
「危ないですよ! 勇者様ですらジャブジャブウサギに顔にパンチを喰らったんですよ! 一応、神官としてそんな危ないこと見過ごせません」
「え……? 勇者?」
「メサイア文献に予言された、正真正銘の勇者様です」と、クリスティはコウを手で示した。
少し照れたようにコウは頰を指でかいた。
「どうやら数百年前の預言者が間違えて、俺を指名しちまったらしい。大方、飲み過ぎて文章でも間違えたんじゃねえかな」
「ともかくさ、クリス。この子をクリスの部屋で一晩寝させてあげたらどうかな?」
「嫌ですよ」
さっきまでの前フリを、一刀両断するクリスの即答。それにコウがつっかかった。
「何でだよ。さっき草原で寝せるのは反対って言ったろ」
「私のベッド一人用ですもの! 広々と使いたいんですよ私は!」
クリスも負けじと持論を展開しだしーー
「勇者様と一緒に寝たらいいじゃないですか!」
と責任転嫁しはじめた。
「俺に丸投げかよ! 色んな意味でダメだろ、じゃあラシャ司祭に、部屋の便宜を図ってもらうのはどうだ?」
「うーん。ウチの教会はケガ人の治癒と、神の教えを広めるのと、勇者様召喚が目的の機関で救貧院じゃありませんからね。一応、交渉してみますけど」
「てかさ、フォボスのパーティー抜けてウチに来たらどう? ちょうどパーティー名を変えるとこだったんだ。クリスはどう思う?」
「 私、構いませんよ」
「ありがとうございます……でも私はフォボスさんに買われた奴隷ですから」
聞けば金貨一枚でフォボスに買われ、荷物運びや雑用などの仕事を手伝っているのだという。それに対し報酬は出来高でミスが少なければ、上げるという極めて曖昧な基準だった。
それに月で銅貨10枚という笑えない報酬で、少女はコキ使われていた。
「クリス。残りの銀貨全部合わせて金貨1枚あるかな?」
「ありますよ。ウチのパーティーに入りませんか? ちょうど今日、冒険者登録したんですよ」
「この金を、あの野郎に叩きつけてやればいいさ」
コウは不安を取り除くように、不必要に笑ってみせた。
「どうして初対面の私に……そこまで、してくれるんです? 意味がわから……ないです」
少女は大粒の涙を目に浮かべ、ぼろぼろと泣き出した。
コウはハンカチを渡したら、少女は目元を拭い思いっきり鼻をかまれたので、これは洗濯が必要だな……とちょっと萎えた。
「深い考えはねえよ。金で幸運は買えないが少なくとも不幸は防げる。なら金が喜ぶ使い方をしてやらないとな。それに元々、俺の金じゃねーし」
「勇者様……最後のセリフで全部台無しです」
クリスティが珍しく正論を言った。
「正直な方達ですね」
少女は名前をアリスといった。
登録パーティー名
勇者様と私団
現在パーティー人数3名
コウ
クリス
アリス
それから4日経ち、王子アーレスとの再戦まで残り5日。
冒険者稼業を始めた勇者様と私団は、ちょっとした問題にぶつかっていた。
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