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15 ダンジョンに行こう
しおりを挟む家にたどり着いた時にはもう深夜になっていた。
「……ただいま」
ルーヴェルはもう眠ってしまっているかもしれないと、小声で告げる。彼の部屋から獣がそっと出てきた。
「起きてたんだ」
買ってきた生活用品をテーブルの上に並べ、所定の場所へ入れていく。その間、ルーヴェルは何をするでもなくエルンの行動を見守っていた。
「今日もリチャードさんに会ってきたよ。ルーヴェル君が元気だって言ったらすごく喜んでた。君をよろしく頼むねって頼まれたし、いいものを食べさせてほしいってお金もたくさんもらったから、ちょっといい羊肉を買ってきたよ」
もちろん嘘である。
ルーヴェルの父であるリチャードとは会っていない。
けれど、毎月エルンの私書箱に金が届く。だからエルンはその金で大きめの生肉を買って帰り、余った分は貯金して、いつか彼が人間の姿に戻れたら返そうと思っていた。
手紙も添えられているが、相変わらず定型文が続くのみだった。実の父親からのそんな心無い仕打ちを打ち明けられなくて、エルンはこうして街から帰ってくるたびに嘘をつき続けていた。
「……ソフィアさんも元気そうだったよ」
いつもならもう少し何かを言って虚構を補強するのだが、今日はそれ以上何も言えなかった。
「……ルーヴェル君。抱きしめてもいいかい?」
彼に近寄って尋ねる。
いつも洗っているからか、ルーヴェルの毛皮からはふんわりとおひさまの匂いがするようになっていた。彼は慣れた仕草でしっぽを出す。エルンは自分の身長ほどもあるふさふさのしっぽに抱きついた。
最近では、ルーヴェルはこうしてエルンに毛皮を触れさせてくれるようになっていた。エルンが気持ちよさそうにするものだから、場合によっては自分からもふもふを提供してくれることもある。
「……あのね」
ソフィアのことを言おうかどうか少し迷い、口をつぐむ。
きっと彼は悲しむと思った。いつか知ることになるのだろうが、今はまだ勇気が出ない。
代わりに、今日カルムから聞いた情報を告げた。
「君がこの姿になったダンジョンに、他の個体の目撃証言があって、近い内に行ってこようかと思うんだ」
「ワウ?」
彼は僕の方を振り返る。
「一緒に行くかい?」
ルーヴェルはコクコクと首を縦に振る。
これまでも素材や情報を求めて、ダンジョンへ足を運んでいた。
しかし、二人が進むのはせいぜい五階までだった。目撃証言のあった七階には、あの討伐の日以来足を踏み入れていない。冒険者を雇うには金が必要で、そんなにホイホイと雇えるような金額ではなかった。
更には、五階以降に現れる魔獣やダンジョン内の植生も、五階までと大差なく、強さのレベルがあがっていくだけだった。だから、それ以上先へ進むのは危険だと判断していたのだ。
「ギルドに仲間募集のチラシを出したほうがいいかな……」
考えるが、それで来てくれた相手がルーヴェルと仲良くできるかわからない。
「……まずは、魔道具を手に入れて二人でいってみようか」
告げると、ルーヴェルはどこか申し訳無さそうに頷いた。ぎゅう、としっぽに抱きつく。
「とりあえずの調査なんだから、危なくなったら帰るからね」
そうして準備を整え、翌週から二人はダンジョンへと赴いたのだった。
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