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第三章「反魂香」
第19話 黄昏時の気晴らし
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クジによる出場者の選定が終わった後、遺物科の選挙は週明けに開催されることが通達され解散となった。そのあと双魔が遺物と契約したことを知らなかったクラスメイト達に詰め寄られ息も絶え絶えとなった双魔だったがアッシュのとりなしのおかげで何とか帰路に着けた。
(ああ……最悪だ)
少し前までアッシュと歩いていたが何やら用事があるとのことで二つ前の十字路で別れ、今は一人だ。
(……取り敢えずどこかで気分転換を)
ふらふらと歩く上に双魔の見た目は個人個人で判別した場合、それなりに目を引く。本人は気づいていないがすれ違った何人かが物珍し気に振り返って双魔を見ていた。
双魔の足は勝手にアパートではなくウエストミンスター寺院の方へと向いた。
いくつかの路地を抜けて厳かな寺院の傍を通り過ぎる。そして、さらにしばらく進むと少し古ぼけた木製の看板が見えてくる。看板には”Anna”の文字。双魔の行きつけのパブだ。看板と同じく少し古ぼけたドアに手を掛けた。
店に足を踏み入れると外観とは裏腹に騒がしく非常に賑わっている。時刻は夕時、仕事終わりの一杯を楽しみに来た客たちで店は満杯だ。
各テーブル席ではビールジョッキを片手に酒飲み親父たちが陽気に騒いでいる。何人かの顔見知りがこちらに気づいて手を振ってきたので軽く手を挙げて答えた。そのまま奥のカウンター席まで足を運び脚の高い椅子に腰掛けた。
「いらっしゃい」
座った席の目の前に立っていた白髪交じりの頭に銀縁眼鏡、カイゼル鬚を生やした長身のバーテンダーが笑顔で双魔を歓迎した。
「マスター、久しぶり」
「そうだね、前に来てくれてから一月くらい経ったかな?聞いたよ、最近忙しいんだって?」
口元に笑みを浮かべてグラスを拭きながらマスターと呼ばれたバーテンダーが言った。
「……ん、まあな」
ローブを脱いで椅子の背もたれに掛けながら短く答える。
マスターはグラスを置くと酒瓶を手に取り中身をメジャーカップに注ぎ、それをさらにシェイカーに注ぐ。
「この前、天全とシグリが来たよ」
何種類かの素材を入れたシェイカーを振りながらそんなことを言う。
「親父と母さんが?」
「ああ、珍しく二人でね。シグリはずっと嬉しそうに天全にベッタリだったよ。天全は鬱陶しそうにしてたけどあれは照れていただけだな。ハッハッハ」
笑いながらカクテルグラスにシェイカーの中身を注いで輪切りのライムとミントの葉を添える。
彼の本名はセオドア=ラモラックと言い双魔の父、伏見天全と母、伏見シグリ、それとハシーシュの古い友人らしい。双魔も幼いころからの付き合いで悩み事があると相談に乗ってくれる頼れる人物だ。
「まあ、これでも飲むといい」
出来上がったカクテルを静かに双魔の前に置く。
「ん、ありがとう」
双魔はグラスを手に取ると空の一部を注いだようなスカイブルーの液体をのどに流し込む。アルコールの刺激を柑橘の酸味とミントの風味で押さえられていて、爽やかな味は沈んだ気分を塗り替てくれる。
「あー!伏見君、未成年はお酒飲んじゃダメなんスよ!」
カクテルの味を楽しんでいると後ろから元気な声が聞こえてきた。
振り返るとウエイトレス姿のアメリアが銀の丸いトレーを持って立っていた。
「ギオーネか」
「おー、やっぱり顔色良くないっスね!でも、一応選挙出場決定おめでとうっス!遺物と契約してたなんてアタシ知らなかったっスよ!」
ビシッと敬礼して見せる。彼女はこのパブで学園生活の傍らこのパブでアルバイトをしているのだ。双魔の学園での様子をセオドアに教えているのも恐らくアメリアなのだろう。
「アメリアちゃん、お疲れ様。今日はこれで上がりだったかな?」
「はいっス」
「えー、アメリアちゃん帰っちゃうのかよー!おじさんたち寂しいなー!」
「ホントホント!」
「ちげえねぇ!酒の味も半減だ!」
アメリアが帰ると知ったテーブルで騒いでいた常連客達が厳つい見た目で甘えた声を挙げる。
「ごめんなさいっス……また今度お酒注いであげるから許して欲しいっス!」
そう言って敬礼しながら客たちに向かってウインクをした。
「「「許しちゃう~!」」」
アメリアにデレデレの三人はだらしない笑顔を浮かべた。
「相変わらずモテモテだな」
双魔が苦笑すると、セオドアも楽しそうに笑った。
「みんないい人ばかりっス!じゃあ、伏見君もお酒はほどほどにしないとお嬢に怒られるっスよ」
「……ガビロール?ギオーネ、面倒なことになるからあいつには言うなよ?」
「分かってるっス!じゃあ、マスターお疲れサマっス!」
「ああ、お疲れ様。奥にまかないが用意してあるから食べて帰るといいよ」
「わーい!ありがとうっス!」
アメリアは踊りだしそうな勢いで店の奥へと下がっていった。
「どこでも騒がしい奴だな……」
双魔はグラスに残ったカクテルを一気に飲み干した。
「アメリアちゃんが来てくれる日は売り上げが上がって助かってるよ」
次のグラスを用意しながらセオドアが笑った。
「ところで天全とシグリは双魔のところには顔を出さなかったのかい?」
「あっちから会いに来ることはほとんどないな……最後に会ったのは夏季休暇で帰った時が最後だ」
「そうか……シグリは双魔に会いたいようだったけどね」
「母さんが俺にあんまり構うと親父が拗ねるからな」
げんなりとした双魔を見てセオドアは再び楽しそうに笑った。
「遺物との契約に選挙出場か、年末年始は土産話が一杯だね。シグリも喜ぶだろう」
「帰るか分からないけどな……って、やっぱりそれも聞いてたのか?」
「もちろん、忙しいようで何よりだよ」
棚から酒瓶を何本か出してウエイトレスに渡しながら答える。
「今日は何か食べていくかい?」
「いや、家で左文と噂の遺物さまが待ってるから、あと何杯か飲んだら帰るよ」
「そうか、じゃあ遺物契約者になったお祝いだ今日は僕の奢りでいいよ」
「本当か!じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうよ」
その後三杯ほど酒をごちそうになり店を出た。店の外は既にとっぷりと日が暮れていて通りには通り沿いの店の照明と街灯が夜の街を彩っていた。
(ああ……最悪だ)
少し前までアッシュと歩いていたが何やら用事があるとのことで二つ前の十字路で別れ、今は一人だ。
(……取り敢えずどこかで気分転換を)
ふらふらと歩く上に双魔の見た目は個人個人で判別した場合、それなりに目を引く。本人は気づいていないがすれ違った何人かが物珍し気に振り返って双魔を見ていた。
双魔の足は勝手にアパートではなくウエストミンスター寺院の方へと向いた。
いくつかの路地を抜けて厳かな寺院の傍を通り過ぎる。そして、さらにしばらく進むと少し古ぼけた木製の看板が見えてくる。看板には”Anna”の文字。双魔の行きつけのパブだ。看板と同じく少し古ぼけたドアに手を掛けた。
店に足を踏み入れると外観とは裏腹に騒がしく非常に賑わっている。時刻は夕時、仕事終わりの一杯を楽しみに来た客たちで店は満杯だ。
各テーブル席ではビールジョッキを片手に酒飲み親父たちが陽気に騒いでいる。何人かの顔見知りがこちらに気づいて手を振ってきたので軽く手を挙げて答えた。そのまま奥のカウンター席まで足を運び脚の高い椅子に腰掛けた。
「いらっしゃい」
座った席の目の前に立っていた白髪交じりの頭に銀縁眼鏡、カイゼル鬚を生やした長身のバーテンダーが笑顔で双魔を歓迎した。
「マスター、久しぶり」
「そうだね、前に来てくれてから一月くらい経ったかな?聞いたよ、最近忙しいんだって?」
口元に笑みを浮かべてグラスを拭きながらマスターと呼ばれたバーテンダーが言った。
「……ん、まあな」
ローブを脱いで椅子の背もたれに掛けながら短く答える。
マスターはグラスを置くと酒瓶を手に取り中身をメジャーカップに注ぎ、それをさらにシェイカーに注ぐ。
「この前、天全とシグリが来たよ」
何種類かの素材を入れたシェイカーを振りながらそんなことを言う。
「親父と母さんが?」
「ああ、珍しく二人でね。シグリはずっと嬉しそうに天全にベッタリだったよ。天全は鬱陶しそうにしてたけどあれは照れていただけだな。ハッハッハ」
笑いながらカクテルグラスにシェイカーの中身を注いで輪切りのライムとミントの葉を添える。
彼の本名はセオドア=ラモラックと言い双魔の父、伏見天全と母、伏見シグリ、それとハシーシュの古い友人らしい。双魔も幼いころからの付き合いで悩み事があると相談に乗ってくれる頼れる人物だ。
「まあ、これでも飲むといい」
出来上がったカクテルを静かに双魔の前に置く。
「ん、ありがとう」
双魔はグラスを手に取ると空の一部を注いだようなスカイブルーの液体をのどに流し込む。アルコールの刺激を柑橘の酸味とミントの風味で押さえられていて、爽やかな味は沈んだ気分を塗り替てくれる。
「あー!伏見君、未成年はお酒飲んじゃダメなんスよ!」
カクテルの味を楽しんでいると後ろから元気な声が聞こえてきた。
振り返るとウエイトレス姿のアメリアが銀の丸いトレーを持って立っていた。
「ギオーネか」
「おー、やっぱり顔色良くないっスね!でも、一応選挙出場決定おめでとうっス!遺物と契約してたなんてアタシ知らなかったっスよ!」
ビシッと敬礼して見せる。彼女はこのパブで学園生活の傍らこのパブでアルバイトをしているのだ。双魔の学園での様子をセオドアに教えているのも恐らくアメリアなのだろう。
「アメリアちゃん、お疲れ様。今日はこれで上がりだったかな?」
「はいっス」
「えー、アメリアちゃん帰っちゃうのかよー!おじさんたち寂しいなー!」
「ホントホント!」
「ちげえねぇ!酒の味も半減だ!」
アメリアが帰ると知ったテーブルで騒いでいた常連客達が厳つい見た目で甘えた声を挙げる。
「ごめんなさいっス……また今度お酒注いであげるから許して欲しいっス!」
そう言って敬礼しながら客たちに向かってウインクをした。
「「「許しちゃう~!」」」
アメリアにデレデレの三人はだらしない笑顔を浮かべた。
「相変わらずモテモテだな」
双魔が苦笑すると、セオドアも楽しそうに笑った。
「みんないい人ばかりっス!じゃあ、伏見君もお酒はほどほどにしないとお嬢に怒られるっスよ」
「……ガビロール?ギオーネ、面倒なことになるからあいつには言うなよ?」
「分かってるっス!じゃあ、マスターお疲れサマっス!」
「ああ、お疲れ様。奥にまかないが用意してあるから食べて帰るといいよ」
「わーい!ありがとうっス!」
アメリアは踊りだしそうな勢いで店の奥へと下がっていった。
「どこでも騒がしい奴だな……」
双魔はグラスに残ったカクテルを一気に飲み干した。
「アメリアちゃんが来てくれる日は売り上げが上がって助かってるよ」
次のグラスを用意しながらセオドアが笑った。
「ところで天全とシグリは双魔のところには顔を出さなかったのかい?」
「あっちから会いに来ることはほとんどないな……最後に会ったのは夏季休暇で帰った時が最後だ」
「そうか……シグリは双魔に会いたいようだったけどね」
「母さんが俺にあんまり構うと親父が拗ねるからな」
げんなりとした双魔を見てセオドアは再び楽しそうに笑った。
「遺物との契約に選挙出場か、年末年始は土産話が一杯だね。シグリも喜ぶだろう」
「帰るか分からないけどな……って、やっぱりそれも聞いてたのか?」
「もちろん、忙しいようで何よりだよ」
棚から酒瓶を何本か出してウエイトレスに渡しながら答える。
「今日は何か食べていくかい?」
「いや、家で左文と噂の遺物さまが待ってるから、あと何杯か飲んだら帰るよ」
「そうか、じゃあ遺物契約者になったお祝いだ今日は僕の奢りでいいよ」
「本当か!じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうよ」
その後三杯ほど酒をごちそうになり店を出た。店の外は既にとっぷりと日が暮れていて通りには通り沿いの店の照明と街灯が夜の街を彩っていた。
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