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第一章「帰郷」
第72話 食休み
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「うむ、我は満足だ!とても美味だった!」
ティルフィングが満面の笑みを浮かべてお腹を摩る。
鍋の中はすっかり空になり今の中は緩い空気で満ちていた。
「さて、と」
「……主」
「玻璃?どしたん?」
立ち上がろうとする鏡華に鍋の具材が尽きてから目を閉じてジッとしていた浄玻璃鏡が目を開いた。
「片付けは……此方がやる故……婿殿と……話しているといい」
「あらぁ、そう?今日はえらい気が利くねぇ……せやったら、お願いしよかな。双魔、お茶飲む?」
「ん、じゃあ、貰う」
「はいはい、そしたら、湯呑と急須を……」
ピンポーン!
鏡華が改めて立ち上がるのと同時に呼び鈴が鳴った。
「ん、俺が出るよ」
「そ?じゃあ、お願い」
襖を開けて玄関へと向かう。暖房の聞いていない廊下はとてつもなく寒い。
庭にはいつの間にか降り始めた雪が元々積もっていた雪の上に積もり始めていた。
「はいはい」
身体を震わせながら玄関の鍵を開ける。すると、そこに姿を現したのは予想通りの人物だった。
「坊ちゃま!申し訳ありません!遅くなってしまいました」
立っていたのは左文だった。近くのバス停から傘をささずに来たのか、頭やコートには雪がついている。
「ん、大丈夫だったか?」
「はい!特に問題はありませんでした。鏡華様は?」
「奥にいるよ。まあ、寒いから上がれよ」
「ああ、そうですね、申し訳ありません」
一度外に出て雪を払い落とすと左文はコートと靴を脱いで家に上がった。そのまま居間へと歩いていく。
「左文だった」
襖を開けて居間に入ると鏡華が湯呑にお茶を注いでいるところだった。
「鏡華様、ご無沙汰しております」
左文は居間に入ると正座して鏡華に頭を下げる。
「こちらこそ、お久しゅう。変わりないようで安心したわぁ」
鏡華も急須をおいて頭を下げる。
「お夕飯は済ましてきたん?」
「ええ、大丈夫です」
「そしたら、お茶飲んで。もう少しでお風呂も沸くからティルフィングはんと先に入ってええよ」
「そんな、滅相もない」
「ええの、ええの。双魔もええよね」
「ん、いいんじゃないか?」
「お二人がそうおっしゃるのでしたら……ティルフィングさん、一緒に入りましょうか」
「うむ!」
そんなやり取りをしながらお茶を飲んでいると風呂が沸いたことを知らせる電子音が家の中に鳴り響いた。
「それではお先に失礼します」
「はい、ごゆっくり」
左文とティルフィングが居間から出ていく。そして、いつの間にか浄玻璃鏡もいなくなっていた。不意に、双魔と鏡華が二人きりになる。
コトッ。鏡華は持っていた湯呑をちゃぶ台の上に置くと双魔との距離を詰めてきた。そして、ぴたりと寄り添ってくる。
「……何だよ」
「ふふ……二人きりやな……って」
「だからってくっつく必要はないだろ……」
「ええやないの、うちがこうしたいんだから……双魔が嫌ならやめるよ?」
「……好きにしればいいだろ」
「ふふふ……旦那はんのそういうところ……好きやわぁ」
鏡華は猫の様に身体を擦り付けてくる。何だか妙な雰囲気になってきた。
「だから、旦那はやめろって言ってるだろ」
「ふふふ……でも、双魔って呼ぶ方が……なんかドキドキしてまうね」
鏡華と視線を合わせると二人の頬にサッと赤らんだ。
「ねえ、背中、流したろか?それとも……同じお布団で寝る?」
「やめろ……お前さんのところの祖父さんに殺される」
「もう……いけずやわぁ……」
にべもなく断られて、鏡華は拗ねて見せる。が、双魔の頬が赤いままなのを見ると満足したように離れた。
「ふふふ……まあ、うちの好きにするさかい……油断せんといてな」
「……本当にやめろよ」
「ふふふふふふ」
楽しそうに笑っている鏡華を呆れた目で見ていると二つの足音が近づいてくる。
襖がスパーンと物凄い勢いで開き、ティルフィングが姿を現した。
「ソーマ!すごいぞ!木の風呂だった!」
「お風呂いただきました……ティルフィングさん、襖は静かに開けなくては駄目ですよ」
ティルフィングと左文のおかげで妙な雰囲気が霧散して双魔は内心ホッと息をついた。
「ほな、双魔も行ってき」
「……ん」
その後、双魔はゆっくりと風呂で疲れを癒した。と言っても鏡華が本当に突撃してこないかが不安で体の疲れしか取れなかったのは笑い種だ。
全員が風呂を済ませてから談笑して全員床に着いた。
鏡華とティルフィング、左文の三人は広い客間に布団を敷いて川の字で寢るらしい。
双魔は小さめの客間に布団を敷いてもらいそこで横たわった。
家の灯は消え夜は更けていった。
因みに、双魔も健全な少年である。鏡華の顔や言葉、匂いを思い出して悶々としてしまい、なかなか寝付けなかったのは言うまでもない。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
双魔たち四人が寝静まった六道家。その中で音も立てずに廊下を歩く影が一つ。その影はゆっくりと腰を下ろすと窓の外を見つめる。浄玻璃鏡だ。
「…………」
黙って庭を見つめている。雪は止まない。しかし、偶然できた雲の裂け目から差し込んだ月光が浄玻璃鏡を照らす。
「…………」
光を受けた浄玻璃鏡の全身が朧に光を放つ。
「……黒煙の……妖…………東方の……亡霊」
小さく、呟く。やがて、月明りは消え、暗闇に静かに雪が降り積もるだけ。
闇に蠢くモノは今宵もどうやら跋扈しているようだった。
ティルフィングが満面の笑みを浮かべてお腹を摩る。
鍋の中はすっかり空になり今の中は緩い空気で満ちていた。
「さて、と」
「……主」
「玻璃?どしたん?」
立ち上がろうとする鏡華に鍋の具材が尽きてから目を閉じてジッとしていた浄玻璃鏡が目を開いた。
「片付けは……此方がやる故……婿殿と……話しているといい」
「あらぁ、そう?今日はえらい気が利くねぇ……せやったら、お願いしよかな。双魔、お茶飲む?」
「ん、じゃあ、貰う」
「はいはい、そしたら、湯呑と急須を……」
ピンポーン!
鏡華が改めて立ち上がるのと同時に呼び鈴が鳴った。
「ん、俺が出るよ」
「そ?じゃあ、お願い」
襖を開けて玄関へと向かう。暖房の聞いていない廊下はとてつもなく寒い。
庭にはいつの間にか降り始めた雪が元々積もっていた雪の上に積もり始めていた。
「はいはい」
身体を震わせながら玄関の鍵を開ける。すると、そこに姿を現したのは予想通りの人物だった。
「坊ちゃま!申し訳ありません!遅くなってしまいました」
立っていたのは左文だった。近くのバス停から傘をささずに来たのか、頭やコートには雪がついている。
「ん、大丈夫だったか?」
「はい!特に問題はありませんでした。鏡華様は?」
「奥にいるよ。まあ、寒いから上がれよ」
「ああ、そうですね、申し訳ありません」
一度外に出て雪を払い落とすと左文はコートと靴を脱いで家に上がった。そのまま居間へと歩いていく。
「左文だった」
襖を開けて居間に入ると鏡華が湯呑にお茶を注いでいるところだった。
「鏡華様、ご無沙汰しております」
左文は居間に入ると正座して鏡華に頭を下げる。
「こちらこそ、お久しゅう。変わりないようで安心したわぁ」
鏡華も急須をおいて頭を下げる。
「お夕飯は済ましてきたん?」
「ええ、大丈夫です」
「そしたら、お茶飲んで。もう少しでお風呂も沸くからティルフィングはんと先に入ってええよ」
「そんな、滅相もない」
「ええの、ええの。双魔もええよね」
「ん、いいんじゃないか?」
「お二人がそうおっしゃるのでしたら……ティルフィングさん、一緒に入りましょうか」
「うむ!」
そんなやり取りをしながらお茶を飲んでいると風呂が沸いたことを知らせる電子音が家の中に鳴り響いた。
「それではお先に失礼します」
「はい、ごゆっくり」
左文とティルフィングが居間から出ていく。そして、いつの間にか浄玻璃鏡もいなくなっていた。不意に、双魔と鏡華が二人きりになる。
コトッ。鏡華は持っていた湯呑をちゃぶ台の上に置くと双魔との距離を詰めてきた。そして、ぴたりと寄り添ってくる。
「……何だよ」
「ふふ……二人きりやな……って」
「だからってくっつく必要はないだろ……」
「ええやないの、うちがこうしたいんだから……双魔が嫌ならやめるよ?」
「……好きにしればいいだろ」
「ふふふ……旦那はんのそういうところ……好きやわぁ」
鏡華は猫の様に身体を擦り付けてくる。何だか妙な雰囲気になってきた。
「だから、旦那はやめろって言ってるだろ」
「ふふふ……でも、双魔って呼ぶ方が……なんかドキドキしてまうね」
鏡華と視線を合わせると二人の頬にサッと赤らんだ。
「ねえ、背中、流したろか?それとも……同じお布団で寝る?」
「やめろ……お前さんのところの祖父さんに殺される」
「もう……いけずやわぁ……」
にべもなく断られて、鏡華は拗ねて見せる。が、双魔の頬が赤いままなのを見ると満足したように離れた。
「ふふふ……まあ、うちの好きにするさかい……油断せんといてな」
「……本当にやめろよ」
「ふふふふふふ」
楽しそうに笑っている鏡華を呆れた目で見ていると二つの足音が近づいてくる。
襖がスパーンと物凄い勢いで開き、ティルフィングが姿を現した。
「ソーマ!すごいぞ!木の風呂だった!」
「お風呂いただきました……ティルフィングさん、襖は静かに開けなくては駄目ですよ」
ティルフィングと左文のおかげで妙な雰囲気が霧散して双魔は内心ホッと息をついた。
「ほな、双魔も行ってき」
「……ん」
その後、双魔はゆっくりと風呂で疲れを癒した。と言っても鏡華が本当に突撃してこないかが不安で体の疲れしか取れなかったのは笑い種だ。
全員が風呂を済ませてから談笑して全員床に着いた。
鏡華とティルフィング、左文の三人は広い客間に布団を敷いて川の字で寢るらしい。
双魔は小さめの客間に布団を敷いてもらいそこで横たわった。
家の灯は消え夜は更けていった。
因みに、双魔も健全な少年である。鏡華の顔や言葉、匂いを思い出して悶々としてしまい、なかなか寝付けなかったのは言うまでもない。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
双魔たち四人が寝静まった六道家。その中で音も立てずに廊下を歩く影が一つ。その影はゆっくりと腰を下ろすと窓の外を見つめる。浄玻璃鏡だ。
「…………」
黙って庭を見つめている。雪は止まない。しかし、偶然できた雲の裂け目から差し込んだ月光が浄玻璃鏡を照らす。
「…………」
光を受けた浄玻璃鏡の全身が朧に光を放つ。
「……黒煙の……妖…………東方の……亡霊」
小さく、呟く。やがて、月明りは消え、暗闇に静かに雪が降り積もるだけ。
闇に蠢くモノは今宵もどうやら跋扈しているようだった。
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