魔剣少女と契約した低血圧系魔術師、実は  の生まれ変わりでした?魔導学園で学生と講師を両立しながら何とか生きていこうと思います。

精神感応4

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第二章「捜査開始」

第73話 韋駄天兎、動く

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 静かに天より六華が舞い落ちる夜。

 古い建築物が並ぶ一画の狭い路地で音もなく塀の一部が崩れ落ちる。その断面は切れ味鋭い刃物に当てられたかのように平面だ。

 「クッ!」
 「………………」

 目にもとまらぬ速さで飛び回る灰色のコートを羽織った者をボロボロの布を纏い、片刃の長剣を持った大男が追い回している。

 コートの男は縦横無尽に動き回って、大男をの攪乱試みているが、ボロ布をはためかせ、伸びきった髪をなびかせながら、その見た目には見合わない速さでコートの男を追跡していく。

 「…………」
 「チッ!」

 大男の振るった刃が微かにコートの男を微かに捉えた。

 コートのへその少し上あたりに切れ目が入る。そして、はらりと何かが地面に落ちた。街灯に照らされたそれは孔雀柄の派手な布切れだ。

 「これは……少し厳しいかな……幸徳井殿に救援を要請したけど……それが来てくれるまで逃げていられるかな……っと、危ない危ない」

 再び俊敏な動きで繰り出してきた斬撃を凄まじい瞬発力と跳躍力で躱して、同時に正体不明の大男から距離を取る。

 夜の帳が降り切って数刻後、京の街角で正体不明の者と交戦しているのは風歌剣兎、その人であった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 数時間前、双魔たちと別れた剣兎は早速、発生している怪異への対策に乗り出した。陰陽寮は昔と異なり、いまや皇室直轄の組織である。要は”宮廷魔術団”である。

 幾ら法務省の高官である剣兎でもそうそう自由には出来ない。普通はそう考えて当然のことなのだが、この”陰陽寮”という組織は他とは異なる。

 ”陰陽寮”は土御門宗家当主を組織のトップである”陰陽頭おんみょうのかみ”として末端に至るまで所属する全ての人間が土御門一門である。
 
 そして、剣兎は現在十二存在する土御門分家の一つ、風歌家風歌一門の当主だ。つまり、組織外の人間ながら陰陽寮内でかなりの力を有している。

 宗家の現当主、晴久は絶大な力を持ち、鷹揚な人物なので、分家の当主たちはある程度の独断は許されている。

 「ご当主、警備課長に来ていただきました」
 「花房さん、ありがとう……おや?」
 「剣兎さん、ご無沙汰してます」
 「今は君が警備課長だったのか。これは心強いね……元気かな?幸徳井檀殿」

 紗枝が連れてきた体格のいい角刈りの青年と剣兎は顔見知りだった。

 彼の名は幸徳井かでいだん。土御門分家、幸徳井家幸徳井一門次期当主であり、ブリタニア王立魔導学園魔術科に留学している幸徳井梓織は彼の妹である。

 非常に真面目で義理堅い性格で若いながら晴久や一門の多くの人間から信頼されている好漢だ。陰陽寮の紺色の制服を一切の乱れなく着こなし、美しい姿勢で剣兎に頭を下げている。

 「いやいや、君が指揮を執っているなら頼もしい限りだよ。まあ、話をしよう。座って座って」

 剣兎に言われて頭を上げた檀は剣兎の正面に腰掛けた。

 「お褒めいただき光栄なのですが……ここ数日の怪異については未だに何も掴めておらず、厳戒態勢を敷くくらいしかできず……不甲斐ないばかりです……死者も出てしまいました」

 表情を暗くする檀を見かねて剣兎は明るい声を出す。

 「いやいや、言い方は悪いけれど幸いにも一般人には被害が出ていないようだ……考えるべきは今後の対応だ。違うかい?」
 「そうですね……その通りです」

 檀の表情は一転、使命感に燃え、覇気に満ちたそれに変化した。

 「そこで、今回の件には僕も協力したいと考えているんだけど……どうかな?」
 「剣兎さんがですか?それは……非常にありがたいのですが……ご迷惑では?」
 「いやいや、僕が陰陽寮に来たのは年末年始の宮中儀式の警護の最終確認だからね。謎の怪異が暴れまわっている。それも洛中にも影響を及ぼしているなんて聞いたら黙ってられないよ」
 「そういうことでしたら。是非お願いします!」

 檀は剣兎に向かって勢いよく頭を下げる。

 「うん、それじゃあ、早速本題に入ろう。今、夜の警邏はどうなってる?」
 「今は、二条の検非違使たちと協力して警備班を全投入して洛中、洛東、洛西、洛北、洛南を警邏しています。特に最初の異変が起きた洛東は重点的に……ただ、何も判明せず、死人や行方不明者はいつの間にかとしか言えない状況で発生しています」
 「ふむ……そうか……うーん……」

 剣兎は顎に手を当てて、眼を閉じて何かを考えるような素振りを見せる。その間に紗枝が用意した新しいお茶を二人分テーブルに置いた。脇には資料を挟み込んだファイルを抱えている。

 「被害に遭っている者たちの実力はどの程度かな?」
 「はい、奇声の方は新人が多いですが……殺害、行方不明の方は相応の実力を持った精鋭たちです」
 「……そうか……彼らに共通点は?花房殿はないと言っていたけど。君は何か掴んでるんじゃないかな?」
 「……判明したのは先ほどですが……殺害された者たちは皆一様に元々土御門の血族ではないのですが、外の由緒正しき家出身の者でした。二条の方も由緒正しき家の者たちであると……行方不明者たちについては何とも……」
 「…………そうか」
 「どうしましょうか?今は警邏の方法を変えてみようかと思案しているのですが……」

 檀の言葉を聞いて剣兎は顎に当てていた手を離して膝を叩いた。

 「よし、決めた!今回は風歌一門の人員を動員して臨時警備班を増設しよう。幸徳井一門からも人は出せるかな?」
 「はい、元よりそのつもりでした。五十名、うち十名は内裏警護職経験者の精鋭です」

 内裏警護職とは内裏、すなわち帝やその親族の私的居住域を警護することであり、陰陽頭自ら選出する陰陽寮内でもトップクラスの実力者たちである。

 「うん、結構。うちも五十人出そう。内裏警護職経験者は九人ってところかな?それと……」
 「それと……何でしょう?」
 「賀茂家一門の跡目、賀茂かも春日かすが殿に協力を要請しよう」

 ”賀茂家”は土御門十二分家の一つで、魔力感知に長けた一門だ。京周辺の地脈の変化や、洛中で不審な魔力がないかなどの見張り役を土御門宗家から賜っている。

 「ご当主は晴久様のご命令で広域の魔力探査網を張って動くのは難しいけどお孫さんなら大丈夫なはずだ。今は……どこにいるかな?」
 「賀茂家の次期当主様ならもう少しすればこちらに来る予定ですが……」

 紗枝がメモ帳を捲りながら教えてくれる。

 「それは丁度いいですね。それではその間に班の構成を決めてしまいましょう」

 檀は紗枝からファイルを受け取り、それをテーブルの上に広げた。

 「今の警備班は五人一組全部で二十班、うち一班から十班までの班長は内裏警護職経験者です。これらの班と風歌、幸徳井両一門の内裏警護職経験者を班長とした十九班を現場に投入。残りの班は本部待機と現場班の繋ぎをさせたいのですが……どうでしょう?」
 「うん、本部には幸徳井殿と賀茂殿に詰めてもらって指示を出してもらえばいいかな。有事の際にも対応がしやすい。それと、僕も出るよ」
 「剣兎さん自らですか!?そんな……いいんですか?」

 檀は一瞬驚いた後、申し訳なさそうな表情で剣兎を見た。それを見た剣兎は笑顔を浮かべる。

 「うん、気にしなくていい。今回は僕も気になることがあるしね……厄介なのはまだ誰も怪異に直接触れていない人死にと行方不明者の方だ……僕は単独行動でそちらを優先して調べたいと思うんだけど……いいかな?」
 「分かりました。ご協力感謝します」

 檀は再び剣兎に向かって深々と頭を下げた。

 「いいから、いいから。それじゃあ、僕は外をブラついて暗くなってきたらそのまま調査に入るよ」
 「承知しました。春日さんと話がついたら一度連絡します。剣兎さんも何かあればすぐに連絡してください」
 「了解。それじゃあ、また後で会おう。花房殿、お茶ごちそう様」
 「は、はい!」

 剣兎は檀と紗枝の二人に見送られて軽い足取りで陰陽寮を後にしたのだった。

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