魔剣少女と契約した低血圧系魔術師、実は  の生まれ変わりでした?魔導学園で学生と講師を両立しながら何とか生きていこうと思います。

精神感応4

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第四章「物狂の刀鍛冶」

第93話 三十年前の事件

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 「さて、話を元に戻すか」

 ティルフィングの髪を撫でながら、双魔は視線を前に戻した。

 「そうですね、済んだことは他に任せられますが……やはり、残っている問題は我々で解決するしかないでしょう」
 「となると、大まかに残っているのは僕と坂上殿をやった怨霊鬼の方かな?」
 「うん、剣兎はんの言う通りやね。まあ、もう少し細かく考えた方がええとは思うけど」
 「そうだな……誰か、何か書く物を持ってないか?」
 「ああ、それでしたらこれを使ってください」

 紗枝がスーツの胸ポケットに挿してあったペンを双魔に差し出す。

 「ありがとさん」

 双魔は受け取ったペンのキャップを外すと、地図の空欄に問題となる点をすらすらと書いていく。

 「まあ、考える必要があるのはこの四つだな」

 双魔の書いた文を皆で覗き込む。双魔が示したのは以下の通りだ。

 一つ、怨霊鬼の正体と復活の方法について。
 一つ、魂を失った行方不明者を操っていたと思われる男について。
 一つ、行方不明者たちが手にしていた謎の遺物について。
 一つ、更なる黒幕の有無について。

 「まあ、簡潔に書くとこうなるよね」
 「ええ、的を射ていると思います。四点目は後で考えるとして、今重要なのは他の三点ですね…………」

 剣兎と檀は頷きながらも、難しそうな表情を浮かべる。打って変わって、鏡華はそうではなかった。

 「うち、あの髭の人が誰か知ってるよ」

 難解な表情を浮かべていた二人の表情が一転、揃って目を丸くする。

 「ほ、本当ですか!?」
 「ハハハ……これは驚いたな。流石は野相公やしょうこうのお孫さんだ」

 双魔もよく思い出してみると、あの無精髭の男の雰囲気が豹変したのは鏡華が話をしている途中だったはずだ。

 「確か……千子せんご……」

 朧気な記憶を何とか手繰り寄せて浮かんだ単語を口にする。それを聞いた鏡華はこくりと頷いた。

 「そ、千子。千子山縣やまがた。それがあの人の名前。知っとる?」
 「千子というと……あの?」
 「そ、初代村正が開いた千子家の千子」

 千子家とは日本でも有数の知名度を誇る刀匠の一族だ。

 神々がこの世界に舞い戻ってきた後、伝統的な武門の一族が力を盛り返すのと共に勢力を拡大され、宗家の当主は帝から官位を賜り、帝族に仕えている。

 「しかし、千子家に山縣などという刀匠は聞いたことがないね」

 剣兎は興味深いと感じたのか細い目が少し見開かれた。

 「そら、そうや。千子家は禁裏いんりに頼み込んで山縣の記録を抹消したらしいからね」
 「それは…………どういうことですか?」

 千子家は刀打ち一筋の清廉なイメージが一般に広がっている。ある程度機密情報を扱う剣兎や檀でさえその認識だ。情報抹消などという不穏な単語に耳を疑っている。

 「先に言っておくとこの話うちにしてくれたんは、おじじ様やからね。信憑性というか何というか、本当の話やと思うよ?山縣はん、本人も狼狽えてたようやし」
 「野相公の話なら信じるほかないね。詳しくお願いするよ」

 剣兎に促されると鏡華は湯呑を手に取ってお茶を一啜りして喉を潤した。そして、静かに話を始めた。

 「今から丁度、三十年前、千子家には始祖村正以来の麒麟児と謳われた神童がいはった。名前は山縣。齢十五で帝族の御用達になって、その三年後、十八のときには帝からも声が掛かるほどの腕やったんやって」
 「三十年前となると……先の帝の御世ですね」
 「そ、先帝はだいぶ山縣にご執心やったみたいやね。それはそれは山縣はんは大出世。帝の期待に答えて名刀をばんばん打った。せやけど、ある日から山縣はんは変わってしまった」
 「変わった?どんな風にかな?」
 「それまでは礼儀正しく、愛想も良くて、帝に呼ばれればすぐに参内してたのに、病と称して家に籠るようになったんやて。まあ、変わらず帝に刀は献上してたんやけど……段々と邪気を放つようになったから、当時、陰陽頭おんみょうのかみだった明久あきひさはんが帝に一度、山縣はんを無理やりにでも参内させて話を聞くべきや、と奏上したにもかかわらず帝は言うこと聞いてくれへん。そんなこんなで時は流れていく」

”明久”とは先代の陰陽頭、つまり先代の土御門宗家当主であり晴久の父に当たる人物だ。既に病で逝去している。

 「…………ゴクリ」

 話に完全に引き込まれているのか、黙って聞いていた紗枝の喉が鳴った。構わずに鏡華は淡々と続ける。

 「そんとき、京では謎の連続殺人鬼が出没していたらしいんよ。これまた、不可思議な事件で、死体はバッサリと切れ味のいい刀で斬られて動かなくなった後に、もうどう見ても生きてへんのに立ち上がってしばらく動き回る。当然、こんな怪事件は陰陽寮の管轄にもなってくる。けれど捜査は難航。犯人の見当はとんとつかない。」

 (…………動く死体か)

 鏡華の話は先ほど対峙した魂のみが抜け出た死体と一致する。無精髭の男が”千子山縣”なる人物であることはほぼ間違いないだろう。

 「解決の糸口も掴めないまま事件の犠牲者が増えていくばかり。しまいには陰陽師や二条の武官まで斬らる始末。明久はんは頭を抱えた。でも、事件は関係の無いと思われていたところと繋がった」
 「それが…………千子山縣」

 檀の言葉に鏡華は目を瞑って頷いた。

 「そ、その時期に献上された山縣の刀はほとんど呪刀だった。刀の鑑定係が鞘から刃を抜くと必ず事故が起こり血が流れた。勿論、帝に献上させるわけにはいかへん。帝は帝で山縣はんの処分を渋るしで、事態は完全に膠着。見かねた明久はんはせめて呪刀だけでもどうにかしようと天台座主ざすに協力してもらって呪刀の供養をすることにしはったんやて」

 天台座主は京の鬼門を守る比叡山の最高責任者であり、陰陽頭と並んで魔術部門での帝の両翼とされる。
 その二人が会することなど滅多にない。その時点で山縣はどうしようもない厄災の種と化していたのだろう。

 「それがきっかけで事態は急に動いた。供養の場で呪刀が次々と浄化される中、数本、何をしても浄化できないものがあった。そのうち、その刀たちは浮かび上がって明久はん目掛けて飛んできたり、火噴き出しよったりした。強力な結界に封じ込めて色々と調べてみたらそれらは力こそ弱いものの遺物と化していた」
 「……遺物って今の時代でも生み出せるものなんですか?」
 「まあ……不可能ってわけではないが、普通に考えたら限りなく零に近い現象だ。そも、遺物ってのは時を経ることによって徐々に力を得ていき、ある時覚醒する物が多い。一種の特殊な付喪神と言えなくもない」

 神妙な顔で発した紗枝の質問に双魔が答える。

 双魔の”遺物は一種の付喪神”という例えは実に的を得ている。遺物が誕生する要素の中で時間という概念は非常に大きな割合を占める。

 それを短時間で生み出したとすれば山縣の腕はまさに神懸かっていたと言えるだろう。

 川原で双魔たちを取り囲んだ者たちが手にしていた刀の全てが低位とはいえ御伽噺級遺物だったことにも納得がいく。

 「調査が終わった後、明久はんと天台座主の二人で手分けをして遺物を調伏、まあ、壊してしまったらしいんやけどな…………この結果を受けて、帝が何と言おうと山縣を召喚して話を聞かなくちゃならへんってことになった。半ば明久はんの独断で二条の右近衛大将にも渡りをつけて陰陽寮と二条近衛府合同で山縣の屋敷に踏み入った」

 再び、紗枝が喉を鳴らした。

 「集まる陰陽師と武官。明久はんが直接出向いたらしいわ。屋敷の門は閉ざされていた。屋敷は閑散としていて外からは人の気配は全くといっていいほどしなかった。そう、は」

 鏡華の言い様で結末はほとんど分かったと言ってもいい。ただでさえ硬かったこの場全員の人間の表情がさらに強張った。

 「門を開け放ち、屋敷に一歩足を踏み入れた明久はんたちが目にしたのは言い表すこともできないほど凄惨極めるものだった。屋敷の者は悉く刀で切りつけられて倒れていた。使用人から山縣の腕を慕って集まった弟子、それに山縣の子供まで」

 息継ぎもせず、ペースを崩さずに鏡華は話を先に進める。

 「血の跡から見て取るに致死量の出血をしても尚動いていた痕跡があった。明久はんは遺物の件で来たけど山縣が連続殺人の犯人だと悟った。どれだけ探しても山縣本人の姿はなく、最後に残った工房に足を踏み入れるとそこには人影が一つ立っていた。山縣の妻だった。そして、例に漏れず、血塗れで目は虚ろ。それまでの遺体と違って妻はまだ動いていた。一歩、一歩進んで手にしていた紙を明久はんに差し出す。明久はんがそれを受け取った瞬間に糸が切れたように妻の亡骸が床に伏した。紙には荒々しい筆書で『我神技得たりされど極まらず』とだけ」

 そこからの話は予想を裏切らないものだった。

 大規模な捜索も成果を上げられず、山縣は失踪。報告を聞いた先帝はショックの余り病気がちとなった。

 禁裏は千子宗家の当主との協議の末に、この事件を極秘案件として闇に葬った。結果、千子山縣の名は消え去った。

 そして、三十年の歳月を経た今。目的は不明だが山縣は京に姿を表し猛威を振るっている。

 「うん、今の話を聞けば問題の人物は山縣で間違いないだろうね……しかし、『我神技得たり』か…………」

 話を聞き終えた剣兎は眉を寄せて、顎に手をやって何かを考えるような仕草を見せる。

 「ん、まあ、鏡華の話と今回の件に共通するのは動く死体と遺物の二点。どっちを取っても神技と言えるか……」
 「…………そうだね、深い意味はないのかもしれないか。うん、少し引っかかっただけだから大丈夫」

 剣兎はそう言うと顎から手を離した。

 陰鬱な話を聞き、室内の空気がより重くなった。

 「……むぐむぐ……?」

 各々が強張った身体を解そうと深呼吸などをする中、菓子に夢中で話をよく聞いていなっかったティルフィングは不思議そうに首を傾げるのだった。
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