魔剣少女と契約した低血圧系魔術師、実は  の生まれ変わりでした?魔導学園で学生と講師を両立しながら何とか生きていこうと思います。

精神感応4

文字の大きさ
99 / 268
第五章「千子山縣と言う男」

第98話 神童の成れの果て

しおりを挟む
 少々皺の寄ったベージュのスーツを纏った草臥くたびれた男、千子山縣は洛中から洛外へと移動し、灯も人気もない侘しい道を一人歩いていた。

 手には細長い紙袋とコンビニのビニール袋をぶら下げている。

 自分の足音と時々吹く風の音以外は何も目に入らない。闇の中をゆっくりと進んでいく。

 しばらく歩くと目の前に廃れ果て雪にまみれた屋敷跡が見えてくる。

 土塀は所々崩れ落ち、ひび割れた隙間からは雑草が生い茂っている。

 山縣はここまで来た足取りを変えることなく、屋敷の周りをぐるりと一周回った。

 感慨深げな表情、目が微かに潤んでいるように見えたのは狐の悪戯だろうか。

 元の場所まで戻って来た山縣は両目を閉じて長く、長く息を吐いた。

 そして、目を開けると風雨に晒されて朽ちた門に手を当てて力を込めて押した。

 本来はかんぬきが差してあるはずなのだが門はギシギシと音をたてながら開いた。遅れて積もっていた雪がドサドサと落ちてくる。

 「…………」

 門をくぐって屋敷に一歩足を踏み入れる。

 「…………?」

 その瞬間、妙な違和感を感じた。が、原因の見当はつく。何者かが施した結界が反応したのだろう。

 しかし、それも時によって劣化したのかそれだけで何の変化もない。

 「…………」

 山縣はそのまま屋敷の中を勝手知ったる様子で進んでいく。

 玄関の引き戸はガラスが割れて家の中がそこから丸見えだった。

 枠だけになった引き戸の奥の廊下は嫌に明るい。恐らく屋根が抜けて月光が差し込んでいるのだろう。

 「…………」

 下手に玄関から入ると途中で崩れて下敷きになりそうだ。諦めて庭の方に回る。

 目にした庭は予想通り荒れ果てていた。草木は茫々になり、ガサガサッと音をたてて何かが逃げていった。

 狸か狐が住処にでもしていたのだろう。繁殖した藻で緑色になった大きな池と庭石、苔むした石灯篭が在りし日の面影を思い出させた。

 縁側に近づくとキュッキュッと足元で酷く物寂しい音が鳴った。

 窓が倒れて砕け散った硝子が雪の下に散らばっているのだろう。

 軽く雪を払って縁側にそっと腰を掛ける。ギシギシと危なげな音がしたが崩れることはなさそうだ。

 山縣は一息ついた。そして振り返る。

 夜闇と月光が入り混じった屋内が目に入る。三十年の時を経ても、夥しい血痕は朽ちた柱にくっきりと残っていた。

 風が吹く。ガタガタと音を立てて屋敷が泣き叫ぶ。

 鼻腔を、既に消え去ったはずの血の匂いが。耳にはあの日の不気味な静寂が蘇る。

 「へへへ……おかしいねぇ…………どうして、あっしの人生はこんなことになったんだかねぇ…………」

 紙袋から酒瓶を取り出すと一度立ち上がり、栓を開けて血の染みついた柱に瓶の中身をかけてゆく。せめてもの弔いだ。

 瓶が空になると縁側に腰を掛けなおした。

 紙袋からもう一本の酒瓶を、ビニール袋から紙コップを取り出す。

 酒瓶の蓋を開けると縁側に置いた紙コップに向けて傾ける。

 トクトクトクッと小気味のよい音をたてて透明な液体が注がれていく。

 「…………おっとっと」

 溢れそうになる酒を見て慌てて瓶を持ち上げて、自分の横に置いた。

 見上げる月は憎らしいほど美しい。かつて自分が打っていた、今はもう決して打てないであろう刃の煌めきを連想させた。

 コップの縁を口に着けてゆっくりと傾ける。ツンと鼻につく独特の香りと共に、後悔と罪悪感、冷めきった狂気様々な感情から生まれる熱に苛まれる胸中を冷やすように酒が身体の中に流れ込んでいく。

 「ふう…………」

 空になった器を片手で弄びながら、池に映った月を見る。汚れた水面に浮かぶ月は天上と同じく美しい。

 …………嗚呼、あの時自分は何に憑りつかれたのか。まつろわぬ神か、鬼か。

 …………嗚呼、自分の何が悪かったのか。

 …………嗚呼、外道に堕ち、歩みを止めずにここまで時を過ごした自分に悔いる資格はあるのか。


 寒風に吹かれながら、老いた寂しい背中は段々と丸まり、やがて山縣の意識は微睡の沼へと沈んでいった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

霊力ゼロの陰陽師見習い

三科異邦
ファンタジー
「霊力も使えない。術式も出せない。 ……西園寺玄弥、お前は本当に陰陽師か?」 その言葉は、もう何度聞いたか分からない。 霊術学院の訓練場で、俺はただ立ち尽くしていた。 周囲では炎が舞い、水がうねり、風が刃のように走る。 同年代の陰陽師たちが、当たり前のように霊を操っている。 ――俺だけが、何もできない。 反論したい気持ちはある。 でも、できない事実は変わらない。 そんな俺が、 世界最強クラスの妖怪と契約することになるなんて―― この時は、まだ知る由もなかった。 これは―― 妖怪の王を倒すべく、九尾の葛葉や他の仲間達と力を合わせて成長していく陰陽師見習いの物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました

まりあんぬさま
ファンタジー
かつて、世界を救う希望と称えられた“勇者パーティー”。 その中で地味に、黙々と補助・回復・結界を張り続けていたおっさん――バニッシュ=クラウゼン(38歳)は、ある日、突然追放を言い渡された。 理由は「お荷物」「地味すぎる」「若返くないから」。 ……笑えない。 人付き合いに疲れ果てたバニッシュは、「もう人とは関わらん」と北西の“魔の森”に引きこもり、誰も入って来られない結界を張って一人スローライフを開始……したはずだった。 だがその結界、なぜか“迷える者”だけは入れてしまう仕様だった!? 気づけば―― 記憶喪失の魔王の娘 迫害された獣人一家 古代魔法を使うエルフの美少女 天然ドジな女神 理想を追いすぎて仲間を失った情熱ドワーフ などなど、“迷える者たち”がどんどん集まってくる異種族スローライフ村が爆誕! ところが世界では、バニッシュの支援を失った勇者たちがボロボロに…… 魔王軍の侵攻は止まらず、世界滅亡のカウントダウンが始まっていた。 「もう面倒ごとはごめんだ。でも、目の前の誰かを見捨てるのも――もっとごめんだ」 これは、追放された“地味なおっさん”が、 異種族たちとスローライフしながら、 世界を救ってしまう(予定)のお話である。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

処理中です...