136 / 268
第一章「各々の悩み」
第135話 回想、大樹の下で
しおりを挟む
荘厳な大樹。その大きさを人の定めた単位に押し込めるのも愚かだと感じさせる巨樹。
九つに分かれた枝と三本の大きな根。
その内の一本の根元には川が流れ、その中流に咲き誇る花々と手入れの行き届いた芝生に囲まれた一軒の水車小屋とそれに隣接した小さな家が建っている。
空は青く晴れ渡り、穏やかな陽射しの元、家の少し離れた場所には一本のパラソルが立てられていた。
その下には丸い机と椅子が三つ。
双魔はパラソルの下、椅子の背もたれに身体を預けて分厚い本のページを捲っていた。
着崩したワイシャツに下はベージュのチノパンといったカジュアルな恰好でくつろいだ様子だ。
「…………ふー…………ん、んん」
膝の上の本から顔を上げて一息つく。長時間酷使して疲れた瞳を閉じて瞼の上からマッサージする。
しばらくそうした後で、巨大な樹を見上げる。
「…………はあー…………」
そして、大きな溜息をついた。それと同時に、双魔はロンドンに戻ってきてからの慌ただしい数日間の回想の世界へと赴くのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「改めまして、うちの名前は六道鏡華。皆はんのクラスメイト、伏見双魔の婚約者をやらせてもろてます。どうぞよしなに」
「「「「「はあああああああああああああああ!?」」」」」
一昨日、事前に何かを伝えることもなく鏡華が転入してきたのが双魔が小さな騒ぎに巻き込まれた原因だった。
クラスメイトの多くが教室の前と後ろを目を見開いた顔を行ったり来たりさせている。
「い、今、婚約者って言ったよな?」
「ああ、言った…………」
「キャー!聞いた聞いた!?婚約者だって!」
「伏見君……いつもやる気なさそうな顔して…………なかなかやるわね……いつの間にか可愛い遺物とも契約してたし」
「畜生!チクショー!!」
ガヤガヤガヤガヤと教室内は昼間の人通りが少ない商店通りよりも騒がしくなる。
「…………」
隣に座るアッシュでさえ口をパクパクさせながら、双魔と鏡華を交互に見ては目を丸くしている。
「…………あー!うるさーい!」
はじめはニヤニヤと面白そうに静観していたハシーシュだったが段々と大きくなる生徒たちの声に耐えかねたのか、頭をガリガリと掻きながら少し大きな声を出した。
ハシーシュのハスキーな声は不思議とそこまで大声を出さなくても響く。
すぐに教室内は水を打ったように静かになった。
「…………」
鏡華はオロオロと惑うこともなく、静かに笑みを浮かべて、はじめと同じ位置から動かずに教室が静かになるまで立っていた。
ハシーシュの首が振り子のようにグリンと鏡華の方に向いた。
「六道、授業は基本自由席だが面倒だから今日はその辺に座っとけ」
そう言っていつの間にか摘まんだ白チョークで教卓の前の辺りを指す。
「はい、わかりました」
鏡華はハシーシュに言われた通り、教卓の右斜め前辺りの席に座った。
「お前らも六道に色々と聞きたいことはあるだろうが授業が終わってからにしろ、いいな?」
「「「「はーい!」」」」
生徒の大多数がハシーシュの言いつけに返事を返す。
「んじゃ、今日の授業を始めるぞー…………」
いつも通り、ハシーシュのやる気の籠っていない声で授業が始まった。
九つに分かれた枝と三本の大きな根。
その内の一本の根元には川が流れ、その中流に咲き誇る花々と手入れの行き届いた芝生に囲まれた一軒の水車小屋とそれに隣接した小さな家が建っている。
空は青く晴れ渡り、穏やかな陽射しの元、家の少し離れた場所には一本のパラソルが立てられていた。
その下には丸い机と椅子が三つ。
双魔はパラソルの下、椅子の背もたれに身体を預けて分厚い本のページを捲っていた。
着崩したワイシャツに下はベージュのチノパンといったカジュアルな恰好でくつろいだ様子だ。
「…………ふー…………ん、んん」
膝の上の本から顔を上げて一息つく。長時間酷使して疲れた瞳を閉じて瞼の上からマッサージする。
しばらくそうした後で、巨大な樹を見上げる。
「…………はあー…………」
そして、大きな溜息をついた。それと同時に、双魔はロンドンに戻ってきてからの慌ただしい数日間の回想の世界へと赴くのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「改めまして、うちの名前は六道鏡華。皆はんのクラスメイト、伏見双魔の婚約者をやらせてもろてます。どうぞよしなに」
「「「「「はあああああああああああああああ!?」」」」」
一昨日、事前に何かを伝えることもなく鏡華が転入してきたのが双魔が小さな騒ぎに巻き込まれた原因だった。
クラスメイトの多くが教室の前と後ろを目を見開いた顔を行ったり来たりさせている。
「い、今、婚約者って言ったよな?」
「ああ、言った…………」
「キャー!聞いた聞いた!?婚約者だって!」
「伏見君……いつもやる気なさそうな顔して…………なかなかやるわね……いつの間にか可愛い遺物とも契約してたし」
「畜生!チクショー!!」
ガヤガヤガヤガヤと教室内は昼間の人通りが少ない商店通りよりも騒がしくなる。
「…………」
隣に座るアッシュでさえ口をパクパクさせながら、双魔と鏡華を交互に見ては目を丸くしている。
「…………あー!うるさーい!」
はじめはニヤニヤと面白そうに静観していたハシーシュだったが段々と大きくなる生徒たちの声に耐えかねたのか、頭をガリガリと掻きながら少し大きな声を出した。
ハシーシュのハスキーな声は不思議とそこまで大声を出さなくても響く。
すぐに教室内は水を打ったように静かになった。
「…………」
鏡華はオロオロと惑うこともなく、静かに笑みを浮かべて、はじめと同じ位置から動かずに教室が静かになるまで立っていた。
ハシーシュの首が振り子のようにグリンと鏡華の方に向いた。
「六道、授業は基本自由席だが面倒だから今日はその辺に座っとけ」
そう言っていつの間にか摘まんだ白チョークで教卓の前の辺りを指す。
「はい、わかりました」
鏡華はハシーシュに言われた通り、教卓の右斜め前辺りの席に座った。
「お前らも六道に色々と聞きたいことはあるだろうが授業が終わってからにしろ、いいな?」
「「「「はーい!」」」」
生徒の大多数がハシーシュの言いつけに返事を返す。
「んじゃ、今日の授業を始めるぞー…………」
いつも通り、ハシーシュのやる気の籠っていない声で授業が始まった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
霊力ゼロの陰陽師見習い
三科異邦
ファンタジー
「霊力も使えない。術式も出せない。
……西園寺玄弥、お前は本当に陰陽師か?」
その言葉は、もう何度聞いたか分からない。
霊術学院の訓練場で、俺はただ立ち尽くしていた。
周囲では炎が舞い、水がうねり、風が刃のように走る。
同年代の陰陽師たちが、当たり前のように霊を操っている。
――俺だけが、何もできない。
反論したい気持ちはある。
でも、できない事実は変わらない。
そんな俺が、
世界最強クラスの妖怪と契約することになるなんて――
この時は、まだ知る由もなかった。
これは――
妖怪の王を倒すべく、九尾の葛葉や他の仲間達と力を合わせて成長していく陰陽師見習いの物語。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
鬼の兵法伝承者、異世界に転世せしむる
書仙凡人
ファンタジー
俺の名は桜木小次郎。
鬼一法眼を祖とする鬼一兵法の令和の伝承者。
だがある時、なぜか突然死してしまったのだ。
その時、自称神様の変なペンギンが現れて、ファンタジー世界の転生を持ちかけられた。
俺はヤケになって転生受け入れたら、とんでもない素性の奴にログインする事になったのである。
ログイン先は滅亡した国の王子で、従者に毒盛られて殺されたばかり。
なにこれ? クーリングオフねぇのかよ!
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる