魔剣少女と契約した低血圧系魔術師、実は  の生まれ変わりでした?魔導学園で学生と講師を両立しながら何とか生きていこうと思います。

精神感応4

文字の大きさ
135 / 268
第一章「各々の悩み」

第134話 梓織の名案?

しおりを挟む
 しばらくするとイサベルが寝間着に着替えてやって来た。相変わらず目は真っ赤に腫れている。

 「ハーブティー、淹れたから飲みましょう。さ、座って」

 「…………ええ」

 窓際の小さなテーブルの上でガラス製のポットを揺らしながら誘うと梓織の向かいの椅子にイサベルが腰を下ろした。

 「もういいかしら?」

 ポットの中で白と黄色のカモミールがレモン色に染まったお湯の中で舞っている。

 トポトポと音を立てながら白磁のカップにお茶を注いでいく。

 「ほら、飲んで少し落ち着きましょ。蜂蜜は?入れる?」
 「ううん、大丈夫」
 「そう、じゃあ、はい」

 梓織はハーブティーを注いだカップをソーサーに載せるとイサベルの前に差し出した。

 「…………いただきます」

 片手でソーサーを持ち、もう片方の手でカップを持ち上げる。湯気と共にふわりと青林檎のような爽やかな香りが漂う。

 「ん…………」

 カップの縁に口をつけてゆっくりと傾ける。湯冷めした身体を温めつつ、心を落ち着かせてくれる優しい味がした。

 「どう?少しは落ち着いた?」

 梓織が穏やかな声で聞いてきた。

 「ええ…………少し、ね…………ありがとう」

 そう言いながら梓織を見ると小さいスプーンでカップの中に蜂蜜を垂らしているところだった。

 「伏見くんに貰ったのよ、これ。あの人、色々植物を育てているみたいだけどどこで育ててるのかしらねー」

 スプーンでハーブティーをかき混ぜながら、イサベルの顔を見る。すると、イサベルは少し顔を赤くしながらカップの中をジッと見つめていた。

 「ベル?」
 「…………っ!?な、何かしら!?」
 「ううん、何でもないわ」
 「そ、そう…………」

 それから五分ほど、二人は黙ってハーブティーを飲んだ。部屋の中に静かな時間が流れる。

 イサベルはパタパタと手で赤くなっていた顔に風を送っている。その表情は少し前と違い、完全に恋する乙女のそれだ。

 (…………この子、もう少しどうにかならないものかしら本当に)

 イサベルの顔を見ていた梓織の目から一瞬、優しさが消えて、据わった。

 イサベル=イブン=ガビロールと言う少女の他人からの評価は基本的に”知的”、”クール”、”しっかり者”、”文武両道の完璧超人”と言ったものだが、それは極々表面的なものに過ぎない。少し深く付き合うだけで、イサベルはそんな人間ではないということがすぐに分かる。

 前提として、大勢の彼女に対する評価は大方間違っていないと断っておこう。そのうえで、イサベルはイメージ通りの人間ではない。

 まず、イサベルは基本的に中身が乙女である。

 思い人のこととなると何というか、少し駄目になってしまう。視覚的な様子を言葉で表すとすれば”ふにゃふにゃ”になってしまうのだ。

 ついでに言っておくと私服は機能性重視だが持っている小物や家具はお洒落で可愛らしいものが多い。

 余談になるがイサベルはたまに日記帳を記している。

 梓織も中身は見たことはないがふにゃふにゃしながら書いているので内容は何となく察している。

 次にイサベルは隠し事があまり得意ではない。

 イサベルが伏見双魔に気があることは梓織を中心として付き合いのある人間のほとんどにはバレているのだが本人は全くバレていないと思っているのだ。

 双魔本人の前では澄ました顔をしているのだが、双魔がいないところで双魔の話題になると途端に乙女が顔を出すのだ。頬が紅潮し、語気が弾んでとても楽しそうにしている。

 今、梓織の目の前のイサベルは乙女モードだが、それもハーブティーが双魔の自家製だと聞いた瞬間からだ。

 (伏見くんの前でもこういうところを見せてくれればいいんだけど…………)

 梓織の見立てでは双魔は決して鈍感な人間ではない。こういうところを見せれば少しはイサベルを意識してくれるはずだ。

 (…………まあ、そう上手くはいかないわよね…………奥手なのもベルのいい所だし…………って、まさか…………この落ち込みよう…………まさか、その線?)

 はたと梓織の脳中に一つの推論が立った。目の前のイサベルは完全に落ち着きを取り戻している。こちらから話を振ってみてもいいだろう。

 そう思った梓織はティータイムを支配する沈黙を打ち破った。

 「ねえ、ベル」
 「……なに?」

 丁度、ソーサーをテーブルの上に置いたイサベルと目が合った。イサベルはきょとんとした表情を浮かべている。

 そこを、梓織は一切の躊躇なく、己の推論を言葉の刃へと変えて切り込んだ。

 「さっきの電話、お見合いか何かの話じゃない?違う?」
 「っ!?……………………」

 イサベルがあおの濃紺の瞳を見開いた。そして、すぐに顔に影が差し、下を向いてしまった。

 「…………当たりね」
 「…………梓織に隠し事は出来ないわね……それとも術でも使った?」

 梓織は”他心通”という術を使うことが出来る。所謂”読心術”だ。イサベルはそのことを言ったのだろう。

 梓織は口元に笑みを浮かべると、ゆっくりと首を横に振った。

 「ベルのことなんて術を使うまでもないわ。フフフ……貴女、分かりやすいもの」
 「…………そうかしら?自分ではそんなつもりはないのだけれど…………」
 「それに、私たちのような家柄で、このくらいの年なら良く聞く話よ」

 梓織の笑みをみてイサベルの表情もいくらか柔らかくなった。話を聞くなら今だ。そう思って梓織は再び切り込んだ。

 「それで?お見合い、するんでしょう?相手は?知ってる人?」
 「ううん、知らない人よ。お父様のお友達の息子さんだって。近いうちに顔を合わせるだろうって言ってたわ……」
 「そう……断るのは難しいのかしら?」
 「そうね……お父様の顔に泥を塗るのは本意じゃないわ。ガビロール家としても一方的に断るわけにはいかないわ……」
 「日時と場所は?」
 「来週末にロンドンのホテルですって…………お父様も来るらしいわ」
 「ガビロール家の当主が?それはなかなかね…………」

 イサベルの父、キリル=ベン=イブン=ガビロールはイサベルの祖国であるイスパニア王国でも屈指の魔術師で世界の上位百人の魔術師に与えられる”枢機卿”の称号を保持している。

 愛娘のお見合いのためとはいえ、それだけの理由であるとは考えにくい。

 「まあ、裏の話はいいとして、ベル、貴女お見合いにはいきたくないんでしょう?」
 「それは…………ええ、もちろんよ」

 それでも、自分はゴーレム使役術の大家ガビロール家の令嬢で次期当主だ。断るわけにはいかない。

 一度、俯いて、そして、梓織の顔を見て「仕方ないもの、行くだけいってみるわ」そう、言おうとした時だった。

 目に移った梓織の真剣な表情に言葉を失う。梓織のこんな表情は滅多に見なかった。

 「ベル、仕方ないから行くなんて思ってないでしょうね?」
 「………………」

 またもや、心の中を見透かされて言葉が出ない。喉が強張った。

 そこに、矢継ぎ早に梓織は言葉を繰り出す。

 「駄目よ!絶対に駄目!こういうのは行ったら外堀を埋められてしまうの。行くにしても台無しにするくらいの用意しておかなくちゃ!それに、多分だけど、さっきお父さんに好きな人でもいるのか?って聞かれなかった?」
 「い、言われたわ…………」

 有無を言わさぬ迫力にイサベルはこくりと首を縦に振るしかない。

 イサベルの答えを聞いた梓織の目は怪しく煌めき、口元にもまた怪しげな笑みを浮かべた。

 「貴女、一人っ子だったわよね?」
 「え、ええ…………」
 「フフフフ…………よかったわね、これで貴女の勝ちは確定よ!後は……」

 梓織が言葉を続けようとしたその時、二人のスマートフォンが同時に鳴いた。メールの着信音だ。

 二人は同時に画面を確認する。その内容は金曜日の授業の担当講師代行についてだった。

 「いいタイミングね!ベル、伏見くんの力を借りましょう!」

 突然、話に思い人が再登場したせいかイサベルの目が白黒した。

 「ど、どど、どうしてそこでそ、双魔君が出てくるのかしら!?」
 「いいから、いいから…………私に任せておきなさい…………フフフ……フフフフフフ!」

 梓織の笑みに圧倒されるイサベル。

 魔術大家のご令嬢の運命や如何に。その結果は天上に気高くに浮かび、地上を照らす月にも分からない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

霊力ゼロの陰陽師見習い

三科異邦
ファンタジー
「霊力も使えない。術式も出せない。 ……西園寺玄弥、お前は本当に陰陽師か?」 その言葉は、もう何度聞いたか分からない。 霊術学院の訓練場で、俺はただ立ち尽くしていた。 周囲では炎が舞い、水がうねり、風が刃のように走る。 同年代の陰陽師たちが、当たり前のように霊を操っている。 ――俺だけが、何もできない。 反論したい気持ちはある。 でも、できない事実は変わらない。 そんな俺が、 世界最強クラスの妖怪と契約することになるなんて―― この時は、まだ知る由もなかった。 これは―― 妖怪の王を倒すべく、九尾の葛葉や他の仲間達と力を合わせて成長していく陰陽師見習いの物語。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

鬼の兵法伝承者、異世界に転世せしむる

書仙凡人
ファンタジー
俺の名は桜木小次郎。 鬼一法眼を祖とする鬼一兵法の令和の伝承者。 だがある時、なぜか突然死してしまったのだ。 その時、自称神様の変なペンギンが現れて、ファンタジー世界の転生を持ちかけられた。 俺はヤケになって転生受け入れたら、とんでもない素性の奴にログインする事になったのである。 ログイン先は滅亡した国の王子で、従者に毒盛られて殺されたばかり。 なにこれ? クーリングオフねぇのかよ!

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

処理中です...