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第二章「様子のおかしい傀儡姫」
第146話 そわそわ傀儡姫
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「ん、ちょっと遅れるか?」
予鈴が鳴ってから少し過ぎた頃、双魔は参考資料などを突っ込んだ鞄を片手に教室への階段を上っていた。
地下にある自分の講師室に置きっぱなしにしていた資料を探すのに時間を取られてしまったのだ。
既にほとんどの生徒が教室にいるのか、歩いていても誰一人ともすれ違わない。
無言で足を進めて五分と掛からずに教室前に到着した。
「間に合ったな……さてさて、揃ってるかね」
引戸に手を掛けて開くと教室に入る。
「「「!」」」
教室内で双魔を待っていた生徒たちの視線のほぼ全てが双魔に集まった。
「…………」
その全てに好奇の念が載せられていることに双魔はすぐに気づいた。
(……ティルフィングの時と同じか…………さては鏡華の話がこっちにも伝わったか)
人の口には戸が立てられないのは世の常だ。このまま根掘り葉掘り聞かれるような隙を与えたくはない。そうなってしまっては非常に面倒だ。
双魔は片眼を閉じてこめかみをグリグリと刺激しながら教壇に上がった。
「「「…………」」」
生徒たちの視線は双魔が移動するのに合わせて動いていく。
中には双魔に事の真偽を問いただそうと思っているのか口元をうずうずさせている者も散見できた。
この状態ではさっさと授業を始めてしまった方が得策だろう。
生徒たちと目が合わないように視線を気持ち斜め下に向けつつ、用意してきた資料を教卓の上に広げる。
(…………ん、よしこれでいいだろ)
今一度講義内容の確認をした時、丁度、授業開始の鐘が鳴り響いた。
「ん、では今日の講義を始める。それと、授業後は用事があるから質問がある奴は俺の部屋のドアにあるメッセージボックスに入れておくように」
双魔は名簿を開きながら少し突き放すようにぶっきらぼうな口調で言い放った。
こう言っておけば生徒たちも妙な茶々を入れないだろうし、授業後に捕まることも防げるだろう。
案の定、生徒たちは居住まいを正して、双魔の話を聞く姿勢を整えた。
中には不満そうな顔をしている者もいたがそういう輩を封殺するのが双魔の狙いなのでしてやったりと言った感じだ。
(…………さてさて、ガビロールはっと……ん?)
いつものように欠席者を尋ねようとイサベルを探す。そして、いつも通り教室の中央辺りに座っているイサベルを発見したのだがどうにも様子がおかしい。
普段は姿勢を正し、凛とした視線を真っ直ぐこちらに向けてくるのだが今日は違った。
「………………」
どこか落ち着かずにそわそわしていると言うか、もじもじと何かを恥ずかしがっているかのように身体を小刻みに揺らしている。
「………………っ!?」
極めつけに目が合ったと思った瞬間、露骨に視線を逸らされてしまった。
「………………?」
双魔は思わず軽く首を傾げた。それを見てイサベルの隣に座っていた梓織が「仕方ないわね」といった風に息をつくと双魔に視線を合わせた。
「伏見先生、今日の欠席者はセドナ=バロウズさんとウィムル=チェロさんの二人よ」
梓織はそう言うと目配せをして見せた。
「…………ん、そうか。ありがとさん」
双魔は名簿に目を落として書き込みをしながら梓織の目配せの意図について考えた。
(………………ん、そう言うことか)
そう言えば梓織たちと広場であった時に愛元が「イサベルから双魔に相談事がある」というようなことを言っていた。
イサベルの様子がいつもと違うのと何か関係があるのかもしれない。それに、梓織はイサベルと寮のルームメイトだったはずだ。相談事の内容を知っている可能性が高い。
(…………まあ、終わったらちょっと聞いてみるか。今はそれより仕事だな)
双魔は気分を切り替えるために勢いよく名簿を閉じた。パタンッという肩を透かすような音が静まり返った教室に鳴り響く。
その少し間抜けとも思える音で双魔の思考は完全に切り替わった。
「さて、じゃあ始めるか。今回もケルナー先生から内容を一任されているので今日は”魔力の体内循環”についてを中心に話したいと思う。まあ、諸君は既に一度は習っている内容だろうから復習程度に聞いてくれればいい。出来るだけ丁寧に説明するから不安な奴はノートを取っておくといい」
「はーい!課題はあるっスか?」
双魔の言葉が一旦切れたところでイサベルと梓織から少し離れたところに座っていたアメリアが元気な声を上げた。
声は元気だが表情は恐る恐ると言った感じだ。予想するに今日もセオドアの店でバイトがあるのだろう。
世の多くの学生の悩みだが学校から与えられる課題とアルバイトはほとんど共存しない。働き疲れて帰ってきたらベッドに直行、もしくは風呂を経てベッドにドサリだ。机という名の駅は存在しない。
しかし、教える側としては課題も課さねばならない。
「まあ、その辺は決めてないが…………講義後までに思いついたら出すことにする。よって講義は真面目に聞いておくように」
「……分かったっス………」
双魔の返答を聞いてアメリアは風呂場に連れていかれる子犬のような表情を浮かべている。
視線を教室中に巡らせると同じような様子の生徒が何人もいた。
「……まあ、そこまで面倒な物を出すつもりはないから安心していい。んじゃ、講義を始めるぞ」
教壇のチョークケースから白のチョークを一本摘まむと黒板と向き合う。
こうして年明け最初の双魔の仕事が始まるのだった。
予鈴が鳴ってから少し過ぎた頃、双魔は参考資料などを突っ込んだ鞄を片手に教室への階段を上っていた。
地下にある自分の講師室に置きっぱなしにしていた資料を探すのに時間を取られてしまったのだ。
既にほとんどの生徒が教室にいるのか、歩いていても誰一人ともすれ違わない。
無言で足を進めて五分と掛からずに教室前に到着した。
「間に合ったな……さてさて、揃ってるかね」
引戸に手を掛けて開くと教室に入る。
「「「!」」」
教室内で双魔を待っていた生徒たちの視線のほぼ全てが双魔に集まった。
「…………」
その全てに好奇の念が載せられていることに双魔はすぐに気づいた。
(……ティルフィングの時と同じか…………さては鏡華の話がこっちにも伝わったか)
人の口には戸が立てられないのは世の常だ。このまま根掘り葉掘り聞かれるような隙を与えたくはない。そうなってしまっては非常に面倒だ。
双魔は片眼を閉じてこめかみをグリグリと刺激しながら教壇に上がった。
「「「…………」」」
生徒たちの視線は双魔が移動するのに合わせて動いていく。
中には双魔に事の真偽を問いただそうと思っているのか口元をうずうずさせている者も散見できた。
この状態ではさっさと授業を始めてしまった方が得策だろう。
生徒たちと目が合わないように視線を気持ち斜め下に向けつつ、用意してきた資料を教卓の上に広げる。
(…………ん、よしこれでいいだろ)
今一度講義内容の確認をした時、丁度、授業開始の鐘が鳴り響いた。
「ん、では今日の講義を始める。それと、授業後は用事があるから質問がある奴は俺の部屋のドアにあるメッセージボックスに入れておくように」
双魔は名簿を開きながら少し突き放すようにぶっきらぼうな口調で言い放った。
こう言っておけば生徒たちも妙な茶々を入れないだろうし、授業後に捕まることも防げるだろう。
案の定、生徒たちは居住まいを正して、双魔の話を聞く姿勢を整えた。
中には不満そうな顔をしている者もいたがそういう輩を封殺するのが双魔の狙いなのでしてやったりと言った感じだ。
(…………さてさて、ガビロールはっと……ん?)
いつものように欠席者を尋ねようとイサベルを探す。そして、いつも通り教室の中央辺りに座っているイサベルを発見したのだがどうにも様子がおかしい。
普段は姿勢を正し、凛とした視線を真っ直ぐこちらに向けてくるのだが今日は違った。
「………………」
どこか落ち着かずにそわそわしていると言うか、もじもじと何かを恥ずかしがっているかのように身体を小刻みに揺らしている。
「………………っ!?」
極めつけに目が合ったと思った瞬間、露骨に視線を逸らされてしまった。
「………………?」
双魔は思わず軽く首を傾げた。それを見てイサベルの隣に座っていた梓織が「仕方ないわね」といった風に息をつくと双魔に視線を合わせた。
「伏見先生、今日の欠席者はセドナ=バロウズさんとウィムル=チェロさんの二人よ」
梓織はそう言うと目配せをして見せた。
「…………ん、そうか。ありがとさん」
双魔は名簿に目を落として書き込みをしながら梓織の目配せの意図について考えた。
(………………ん、そう言うことか)
そう言えば梓織たちと広場であった時に愛元が「イサベルから双魔に相談事がある」というようなことを言っていた。
イサベルの様子がいつもと違うのと何か関係があるのかもしれない。それに、梓織はイサベルと寮のルームメイトだったはずだ。相談事の内容を知っている可能性が高い。
(…………まあ、終わったらちょっと聞いてみるか。今はそれより仕事だな)
双魔は気分を切り替えるために勢いよく名簿を閉じた。パタンッという肩を透かすような音が静まり返った教室に鳴り響く。
その少し間抜けとも思える音で双魔の思考は完全に切り替わった。
「さて、じゃあ始めるか。今回もケルナー先生から内容を一任されているので今日は”魔力の体内循環”についてを中心に話したいと思う。まあ、諸君は既に一度は習っている内容だろうから復習程度に聞いてくれればいい。出来るだけ丁寧に説明するから不安な奴はノートを取っておくといい」
「はーい!課題はあるっスか?」
双魔の言葉が一旦切れたところでイサベルと梓織から少し離れたところに座っていたアメリアが元気な声を上げた。
声は元気だが表情は恐る恐ると言った感じだ。予想するに今日もセオドアの店でバイトがあるのだろう。
世の多くの学生の悩みだが学校から与えられる課題とアルバイトはほとんど共存しない。働き疲れて帰ってきたらベッドに直行、もしくは風呂を経てベッドにドサリだ。机という名の駅は存在しない。
しかし、教える側としては課題も課さねばならない。
「まあ、その辺は決めてないが…………講義後までに思いついたら出すことにする。よって講義は真面目に聞いておくように」
「……分かったっス………」
双魔の返答を聞いてアメリアは風呂場に連れていかれる子犬のような表情を浮かべている。
視線を教室中に巡らせると同じような様子の生徒が何人もいた。
「……まあ、そこまで面倒な物を出すつもりはないから安心していい。んじゃ、講義を始めるぞ」
教壇のチョークケースから白のチョークを一本摘まむと黒板と向き合う。
こうして年明け最初の双魔の仕事が始まるのだった。
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