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第二章「様子のおかしい傀儡姫」
第151話 傀儡姫、第一関門突破
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色々を考えていると大分落ち着いたのか、イサベルがいつも見せている真面目な表情でこちらを見てきた。
「そ、そのですね!」
「ん、どうした?」
イサベルとしては普通に話しているつもりなのだが、やはり無意識下に緊張があるのだろう。思わず、口ごもってしまった。それでも、双魔は急かすことなく普段通りの様子で話を聞いてくれる。その態度が、少しずつイサベルを緊張の呪縛から解放していく。
「折り入って相談があるんですけど…………」
「ん、何だ?何でも聞くぞ?」
双魔は椅子の背もたれから身体を起こして前のめりの姿勢になった。教壇の上にいる双魔の視線は座っているとはいえ一段高くなっているので、自ずとイサベルと顔が接近する。
「っ!?」
イサベルは嫌がらずに話を聞いてくれるのは嬉しかったのだが、双魔の顔が急接近したのに驚いてしまった。
双魔の綺麗な蒼い瞳に自分の姿が映っている。
顔が近すぎて会話に支障をきたしてはいけないと半歩後ろに下がった。
「そ、そのですね…………あの、割とと言うか…………その、とても…………大切なことで……」
「ん、そうなのか…………そしたらこんなところで話すのもなんだな……さて、どうするかね?」
双魔がこめかみをグリグリと刺激しながら思案しはじめる一方、イサベルは再び余裕がなくなってしまったのか、視線を段々と足元に下げながら、尻すぼみの小さな声で話し続けていた。
「だ、だからですね…………その……双魔く、じゃなくて…………伏見君のおうちにですね…………その…………」
一旦、思案に入った双魔の耳にイサベルの最早、囁きとしか言えない声は入っていなかった。
(週末は……特に予定はなかったな…………家には……まあ、鏡華もいるけど、もしかしたら女同士でしか話せないような内容になるかもしれないし…………それはそれでありか……ん、そうしよう)
「ガビロール……ん?おい、ガビロール、大丈夫か?」
「は、はい!大丈夫です!っ!!?」
思わず下がっていた顔を上げたイサベルの瞳に再び思い人の顔がアップで映った。顔が一気に熱くなる。
「ん…………顔、真っ赤だぞ?熱でもあるのか?」
そのまま、双魔の顔が更に近づいてきた。
「っ!?!?!?!?」
動揺して硬直するイサベル。次の瞬間、二人の影は一つになった。
思わず両の目を力一杯瞑ったイサベルの額に、前髪越しに少しひんやりとした何かが当たった。
「ん…………熱はないみたいだな」
「へ?」
そんな声と共に額の感触が消え、すぐそばにあった双魔の気配も離れていく。
ゆっくりと目を開けると元の位置に戻った双魔の顔が見えた。片眼を閉じたまま少し安堵したような表情を浮かべていた。
「疲れてるなら無理するなよ?」
「え、え?その…………今、何を…………?」
「ん?ああ、熱でもあるのかと思ってな。母さんと師匠、左文によくこうやってもらってたんだが…………嫌だったか?悪いな…………」
「い、いえ!心配してくれてありがとうご、ございます!」
眉を曲げて少し申し訳なさそうな表情を浮かべる双魔に向かってお礼を言いながらイサベルは首を激しく左右に振った。トレードマークのサイドテールが強風に煽られる柳の枝のように激しく揺れた。
「ん、それならいい…………それでだな、相談を聞く場所について何だが…………」
「は、はい!」
首を振るのをやめて双魔の顔を見る。先ほど触れ合ったので慣れたのか、それとも麻痺してしまったのかは分からないが今度は比較的フラットな精神状態で双魔を見ることが出来た。
「週末、空いてるか?」
「へ?日曜日ですか?…………空いてますけど……」
「ん、それなら丁度いいや。日曜日、家に来ないか?話はそこで聞く。話しにくいことみたいだしな」
「…………い、いいんですか?」
イサベルは自分から家に行ってもいいか聞こうとしていたところを、逆に双魔から提案されたので思わず呆然としてしまった。
「ん、俺がいいって言ってるんだから問題ない。時間は改めて連絡するから」
「は、はい!分かりました!よろしくお願いします…………」
「はいよっと…………んーっ!」
双魔は立ち上がると伸びをして、教卓の上に広げたままにしていた資料を片付けはじめた。
「…………」
イサベルは呆気なく、梓織に指示されていた状態になったことが信じられずに立ち尽くす。
しばらくそうしていると双魔から声を掛けられた。
「ガビロール」
「は、はい!」
「教室出るが…………」
「あっ、私も出ます!」
「ん」
二人で教室を出て廊下を歩く。生徒は既に皆帰ったのか廊下は静まり返っていた。
「ん、そう言えば、幸徳井とルームメイトだったか?」
「はい、そうですよ?何か梓織に用事ですか?」
「ああ、新作のハーブティーがあるから渡したいと思ってな。丁度いい、ガビロールにもやるから幸徳井の分も一緒に持って行ってくれ」
「ハーブティーですか?ああ、この前、梓織に入れてもらって飲みました!香りがよくて、とても美味しかったです!」
「ん、そうか。じゃあ、ちょっと準備室まで付き合ってくれ」
「付き合っ!?わ、分かりました!」
「ん?また顔が赤いが…………大丈夫か?」
「だ、大丈夫です!早く行きましょう!」
「はいはいっと」
こうして、イサベルの目的と梓織の思惑の第一歩はつつがなく達成された。
静まり返った魔術科棟の中には双魔とイサベルの話し声と足音が響き渡るのだった。
「そ、そのですね!」
「ん、どうした?」
イサベルとしては普通に話しているつもりなのだが、やはり無意識下に緊張があるのだろう。思わず、口ごもってしまった。それでも、双魔は急かすことなく普段通りの様子で話を聞いてくれる。その態度が、少しずつイサベルを緊張の呪縛から解放していく。
「折り入って相談があるんですけど…………」
「ん、何だ?何でも聞くぞ?」
双魔は椅子の背もたれから身体を起こして前のめりの姿勢になった。教壇の上にいる双魔の視線は座っているとはいえ一段高くなっているので、自ずとイサベルと顔が接近する。
「っ!?」
イサベルは嫌がらずに話を聞いてくれるのは嬉しかったのだが、双魔の顔が急接近したのに驚いてしまった。
双魔の綺麗な蒼い瞳に自分の姿が映っている。
顔が近すぎて会話に支障をきたしてはいけないと半歩後ろに下がった。
「そ、そのですね…………あの、割とと言うか…………その、とても…………大切なことで……」
「ん、そうなのか…………そしたらこんなところで話すのもなんだな……さて、どうするかね?」
双魔がこめかみをグリグリと刺激しながら思案しはじめる一方、イサベルは再び余裕がなくなってしまったのか、視線を段々と足元に下げながら、尻すぼみの小さな声で話し続けていた。
「だ、だからですね…………その……双魔く、じゃなくて…………伏見君のおうちにですね…………その…………」
一旦、思案に入った双魔の耳にイサベルの最早、囁きとしか言えない声は入っていなかった。
(週末は……特に予定はなかったな…………家には……まあ、鏡華もいるけど、もしかしたら女同士でしか話せないような内容になるかもしれないし…………それはそれでありか……ん、そうしよう)
「ガビロール……ん?おい、ガビロール、大丈夫か?」
「は、はい!大丈夫です!っ!!?」
思わず下がっていた顔を上げたイサベルの瞳に再び思い人の顔がアップで映った。顔が一気に熱くなる。
「ん…………顔、真っ赤だぞ?熱でもあるのか?」
そのまま、双魔の顔が更に近づいてきた。
「っ!?!?!?!?」
動揺して硬直するイサベル。次の瞬間、二人の影は一つになった。
思わず両の目を力一杯瞑ったイサベルの額に、前髪越しに少しひんやりとした何かが当たった。
「ん…………熱はないみたいだな」
「へ?」
そんな声と共に額の感触が消え、すぐそばにあった双魔の気配も離れていく。
ゆっくりと目を開けると元の位置に戻った双魔の顔が見えた。片眼を閉じたまま少し安堵したような表情を浮かべていた。
「疲れてるなら無理するなよ?」
「え、え?その…………今、何を…………?」
「ん?ああ、熱でもあるのかと思ってな。母さんと師匠、左文によくこうやってもらってたんだが…………嫌だったか?悪いな…………」
「い、いえ!心配してくれてありがとうご、ございます!」
眉を曲げて少し申し訳なさそうな表情を浮かべる双魔に向かってお礼を言いながらイサベルは首を激しく左右に振った。トレードマークのサイドテールが強風に煽られる柳の枝のように激しく揺れた。
「ん、それならいい…………それでだな、相談を聞く場所について何だが…………」
「は、はい!」
首を振るのをやめて双魔の顔を見る。先ほど触れ合ったので慣れたのか、それとも麻痺してしまったのかは分からないが今度は比較的フラットな精神状態で双魔を見ることが出来た。
「週末、空いてるか?」
「へ?日曜日ですか?…………空いてますけど……」
「ん、それなら丁度いいや。日曜日、家に来ないか?話はそこで聞く。話しにくいことみたいだしな」
「…………い、いいんですか?」
イサベルは自分から家に行ってもいいか聞こうとしていたところを、逆に双魔から提案されたので思わず呆然としてしまった。
「ん、俺がいいって言ってるんだから問題ない。時間は改めて連絡するから」
「は、はい!分かりました!よろしくお願いします…………」
「はいよっと…………んーっ!」
双魔は立ち上がると伸びをして、教卓の上に広げたままにしていた資料を片付けはじめた。
「…………」
イサベルは呆気なく、梓織に指示されていた状態になったことが信じられずに立ち尽くす。
しばらくそうしていると双魔から声を掛けられた。
「ガビロール」
「は、はい!」
「教室出るが…………」
「あっ、私も出ます!」
「ん」
二人で教室を出て廊下を歩く。生徒は既に皆帰ったのか廊下は静まり返っていた。
「ん、そう言えば、幸徳井とルームメイトだったか?」
「はい、そうですよ?何か梓織に用事ですか?」
「ああ、新作のハーブティーがあるから渡したいと思ってな。丁度いい、ガビロールにもやるから幸徳井の分も一緒に持って行ってくれ」
「ハーブティーですか?ああ、この前、梓織に入れてもらって飲みました!香りがよくて、とても美味しかったです!」
「ん、そうか。じゃあ、ちょっと準備室まで付き合ってくれ」
「付き合っ!?わ、分かりました!」
「ん?また顔が赤いが…………大丈夫か?」
「だ、大丈夫です!早く行きましょう!」
「はいはいっと」
こうして、イサベルの目的と梓織の思惑の第一歩はつつがなく達成された。
静まり返った魔術科棟の中には双魔とイサベルの話し声と足音が響き渡るのだった。
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