魔剣少女と契約した低血圧系魔術師、実は  の生まれ変わりでした?魔導学園で学生と講師を両立しながら何とか生きていこうと思います。

精神感応4

文字の大きさ
156 / 268
第三章「いざ、愛しき人の家へ」

第155話 準備万端、傀儡姫

しおりを挟む
 時は飛んで日曜の昼前、イサベルは部屋のミニキッチンを落ち着かなそうに行ったり来たりしていた。

 「…………」

 そして、何度行き来しただろうか、丁度オーブンの前に差し掛かった時、「チン!」とオーブンが軽快な焼き上がりの合図を鳴らした。

 「っ!う、上手くできたかしら?」

 イサベルは心配げな表情で置いてあった花柄のミトンを両手に嵌めると、オーブンを開き、中のプレートを取り出した。

 「…………うん、上手く焼けたわ!よかった!」

 プレートの上にはこんがりきつね色に焼き上がったホールケーキほどの大きさのパイが乗っていた。

 表面の艶やかさと漂ってくる甘い匂いが実に食欲を誘う。

 「こっちは大丈夫…………そろそろ着替えなくきゃ」

 イサベルはパイをオーブンの中に戻した、こうしておけばすぐに冷めることはないだろう。

 ミトンを外してクローゼットへと向かう。

 クローゼットの扉を開いたイサベルは取り敢えず閉まってある服を片っ端から取り出した。

 と、言ってもイサベルはそこまで多く服を持っていない、十数着ほどだ。

 そのほとんどが寒色系や黒、白の服で、それらを広げたベッドの上はあっという間に夜の森のような色に染まった。

 「どれを着てけばいいのかしら……普段通りじゃ…………よく…………ないわよね?…………うーん…………」

 イサベルは基本的に一人でいることが多いし、周りの目も特に気にしないので動きやすさ重視で洒落た服が少ない。

 折角、想い人の家にお邪魔する上に、大事なお願いをするのだ。少しでも女らしいというか、可愛げのある恰好で行きたい。そう思って適当に服を手に取って、身体に当てて姿見の前に立つ。のだが、はっきり言って微妙だ。

 本人にその自覚はないが、鏡に映った出で立ちはイサベルの凛とした大人っぽい雰囲気と相まって、バリバリ働くキャリアウーマンといった感じになってしまい、少女としての可愛らしさが消え去ってしまう。

 「…………どうしたら…………」

 流石のイサベルでもこの恰好が不味いのは分かる。ベッドに目を遣っても同じような服しかないし、今から買いに行っている時間はない。

 諦めて、普段着に袖を通そうとしたその時、座って読書をしていた梓織がパタリッ!とわざとらしく音を立てて本を閉じた。

 「……梓織?」
 「はあー……こんなことになるだろうと思って用意しておいてよかったわ…………」

 ため息をついて立ち上がった梓織は、テーブルの上に本を置いて、自分のクローゼットの前に行くと、ゆっくりと扉を開いた。

 「……?」

 首を傾げるイサベルを横目に一揃いの服を取り出した。

 アイボリーの袖がレースになったお洒落なセーターに丈が短い白黒チェックのプリーツスカート。同じく丈が短いベージュのノ―カラーコートだ。

 「はい、これ」
 「え?何?」
 梓織は取り出したハンガーに掛かった服たちをイサベルに差し出した。

 突然のことにイサベルは戸惑ってしまうが、それを見た梓織は呆れたような、笑っているような優しい表情を浮かべた。

 「きっとベルは服を選べないだろうって、私とアメリア、愛元で貴女に似合いそうな服を見繕っておいたのよ。これ、着ていきなさい」
 「え?え?あ、ありがとう…………あ、そうだ、お金は!?」
 服を押し付けられながら、律儀にそんなことを聞いてきたイサベルに、梓織の顔には呆れだけが残った。
 「お金なんかいいの、私たちからの餞別よ…………ベルは伏見くんに協力してもらうことだけ考えていればいいの!上手くいったら、そのままガンガン攻めるのよ!いい!」
 「せ、攻めるって…………そんな」

 何を思い浮かべたのかイサベルの顔が朱に染まった。

 それを見て梓織の顔に優しさが戻ってくる。

 「まあ、大きな壁が立ちはだかってるとは思うけど…………きっと大丈夫!」
 「え、ええ…………梓織…………その、ありがとう」
 「いいから、早く着替えちゃいなさい」
 「ええ!」

 梓織に発破をかけられたイサベルはいそいそと渡された服に袖を通しはじめた。

 十分と掛からずに着替えが終わる。イサベルは驚いてしまった。姿見に映っている少女が自分とは思えないほど華やかな雰囲気を放っていた。

 身に着けている色は普段とほとんど変わらないのにここまで変わるものなのか、と。

 「うんうん!私たちの見立ては間違ってなかったわ!可愛いわよ!」
 「そ、そうかしら?」

 梓織に褒められて思わず顔が綻んだ。

 「フフフ、そう言う表情は伏見くんに見せてあげなさい」
 「え!?あっ!っーーーーーーー!!」

 鏡を見ると顔が赤くなっている、それを自覚して更に顔が熱くなる。

 「照れてるのもいいけど時間は大丈夫なの?」
 「え、あっ!もう行かなきゃ!」

 イサベルは白いシュシュを手に取ると長く伸ばした紫黒の髪をサイドテールに纏めると慌ただしくキッチンに向かった。

 オーブンから温かさを保ったパイを取り出して銀紙に包むと、用意しておいたバスケットに入れて上から布を被せる。

 それを片手にベッドの前に戻ると、テーブルの上にバスケットを置き、部屋履きから偶々買っていて一度も履く機会のなかったグレーのショートブーツに履き替える。街を一人でぶらぶらとしているときに一目ぼれした代物だ。

 梓織たちが用意してくれたコートを羽織り、普段持ち歩いている白のポシェットを肩に掛ける。

 「お、おかしいところはないかしら?」

 少し不安げな表情で梓織に身体の正面を向ける。

 「一回転、してみて」
 「一回転?こ、こうかしら?」

 イサベルが片足を地面から話してクルリとその場で一回転する。コートの裾とスカートがふわりと僅かに浮かび上がった。

 「うん、大丈夫!」
 「そ、そう!よかった…………じゃあ、行ってくるわ。梓織、本当にありがとう!」
 「しっかり伏見くんにを頼み込んできなさい!それと。何があっても諦めちゃダメよ?」
 「え、ええ!行ってきます!」

 イサベルは”恋人役”という言葉に反応したのかバスケットを持つと少し恥ずかしそうにしながら部屋を出ていった。

 部屋には梓織一人が残される。

 「ベル…………頑張りさない…………後は、六道さん次第かしら?」

 梓織は窓の外を見ながら、テーブルの上のティーカップを手に取るとすっかり冷めきった紅茶を喉に流し込んだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

霊力ゼロの陰陽師見習い

三科異邦
ファンタジー
「霊力も使えない。術式も出せない。 ……西園寺玄弥、お前は本当に陰陽師か?」 その言葉は、もう何度聞いたか分からない。 霊術学院の訓練場で、俺はただ立ち尽くしていた。 周囲では炎が舞い、水がうねり、風が刃のように走る。 同年代の陰陽師たちが、当たり前のように霊を操っている。 ――俺だけが、何もできない。 反論したい気持ちはある。 でも、できない事実は変わらない。 そんな俺が、 世界最強クラスの妖怪と契約することになるなんて―― この時は、まだ知る由もなかった。 これは―― 妖怪の王を倒すべく、九尾の葛葉や他の仲間達と力を合わせて成長していく陰陽師見習いの物語。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

鬼の兵法伝承者、異世界に転世せしむる

書仙凡人
ファンタジー
俺の名は桜木小次郎。 鬼一法眼を祖とする鬼一兵法の令和の伝承者。 だがある時、なぜか突然死してしまったのだ。 その時、自称神様の変なペンギンが現れて、ファンタジー世界の転生を持ちかけられた。 俺はヤケになって転生受け入れたら、とんでもない素性の奴にログインする事になったのである。 ログイン先は滅亡した国の王子で、従者に毒盛られて殺されたばかり。 なにこれ? クーリングオフねぇのかよ!

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

処理中です...